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【書籍化】辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する【コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
新婚編

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第十八話 出立

 サリーシャがプランシェへと旅立つ日、セシリオは忙しい執務の合間を縫ってサリーシャを見送りに来てくれた。

 アハマス領主館の前にはサリーシャの出発に合わせて用意された馬車が停まっている。出発を前に、馬達は落ち着かない様子で(いなな)き、蹄で大地を蹴っていた。

 

 サリーシャは馬車の前に立つと、後ろを振り返った。


「閣下、行って参ります」

「ああ、気を付けて。姉上と義兄上によろしく伝えてくれ」

「はい」


 笑顔で頷くとこちらの方にセシリオの手が伸びてきたので、サリーシャはその手に摺り寄る。セシリオは愛おし気に目を細めると親指でサリーシャの頬を撫でた。


「俺も仕事を片付けたら、出来るだけ早めにそちらに行く」

「はい」


 サリーシャはもう一度頷くと、用意された豪奢な馬車に今回同行するノーラと共に乗り込んだ。スカートが挟まらないように引き寄せると御者が扉を閉め、カチャリと金具が止まる音がした。窓から外を見るとこちらを見つめるセシリオと目が合ったので、サリーシャは心配させないように笑顔を浮かべる。


 馬車の周りには、セシリオよりサリーシャの護衛を命じられた五騎の騎士が付いている。先頭に一騎と、左右を守るように二騎ずつだ。

 サリーシャは少し警備が厳重すぎるのではないかと思ったけれど、セシリオからは最近金持ちを狙った盗賊が出るのでそれくらいしないと危ないのだと諭されてしまった。


 その先頭にいる、アハマス辺境伯家であることを示す紋章を背に掲げた騎士の合図で、ガタンと軽い衝撃と共に馬車が動き出す。

 窓の外の景色がゆっくりと進み、セシリオの姿が見えなくなると途端に不安がこみ上げてきた。サリーシャはとっさに窓から身を乗り出して後ろを振り返った。セシリオは先ほどと同じ位置に立ち、まっすぐにこちらを見つめている。

 

「閣下、メラニー様と一緒に素敵な会を準備してお待ちしておりますね!」


 風でなびく髪を片手で押さえながら声を張ってそう叫ぶと、セシリオの口の端が上がるのが見えた。サリーシャはアハマス領主館の内門を超えてその姿が見えなくなるまで、ずっと後ろを見つめ続けた。


 アハマスの領主館が見えなくなると、サリーシャは代わりに、馬車の中から後ろ後ろへと流れていく外の景色を眺めていた。


 旅はとても順調だった。


 アハマスの領主館からプランシェの領主館は馬車で丸二日の距離だ。遠いが、前回の王都への十一日間の移動に比べれば、ずっと楽だ。


 出発してからしばらくは、もう何回も通ったのですっかりと見慣れてきたアハマスの中心街が続いた。それを抜けると、次第に建物がまばらになってくる。代わりに姿を現すのは、見渡す限り続く広大な畑だ。前回ここを通りかかった時には緑一色だった畑は既に収穫を終えたのか、茶色い土が剥き出しになっていた。


 翌日には、王都へと続く大きな街道をひたすらまっすぐに進んでいた馬車は少し細い道へと進路を変えた。プランシェ伯爵の屋敷の方向がそちらなのだろう。


 初めて通るその道に、サリーシャは車窓に顔を寄せて外の様子を眺める。

 相変わらず、広大な畑が広がっていた。時折、農作業の手を止めてのろのろと立ち上がり、こちらに向けて頭を垂れる人の影が見えた。そのまま揺られていると、しだいに畑の代わりに建物が増えてくる。窓から視線を外しうたた寝していると、いつの間にか馬車の両側は低い建物で囲まれていた。

 

「ここはどこかしら?」


 サリーシャが窓をあけると、並走していた騎士に視線を送る。サリーシャに見つめられた騎士はすぐに気付いて馬車の近くに寄ってきた。


「ここはどこ?」

「デニーリ地区の中心街です。プランシェの領主館に行くには、デニーリ地区の中心街を通ると近道になります」

「ふうん、ありがとう」


 礼を言うと、騎士は黙礼して馬を操り、もといた斜め後ろの位置に下がった。

 サリーシャは手持ちの鞄を開け、持参した地図を開いた。指でなぞって今いる位置を探すと、デニーリ地区の中心街はプランシェ伯爵領との境界線すぐ近くに位置していた。目的地までは、さほど遠くなさそうだ。


「とても綺麗な街ね」


 サリーシャは車窓からの景色を眺めながら呟く。

 白壁と赤茶色の屋根を基調とした街並みは統一感があり、整然としている。道行く人々は皆綺麗に着飾っており、まるでどこかにお洒落(しゃれ)してお出掛けするような格好だ。道も整えられており、道路沿いには花が飾られていた。


「本当ですわね。素敵な街ですわ」


 ノーラも外を眺めながら少しはしゃいだ様な声を上げた。


 サリーシャは外をもっとよく見ようと窓を開けて顔を覗かせた。そのとき、もの陰に美しい街に似つかわしくない人影を見た。ボロを纏った、まだ年はかない子ども達……。三人が寄り添って、道端に座り込んでいる。


 ──あれは、孤児かしら? 物乞い?


 サリーシャはよく見ようと目を凝らしたが、馬車はどんどん進んでゆく。

 首を回して後ろを振り返ったが、その姿を確認することは出来なかった。

 代わりに目に入ったのは、街のそこかしこにいる黒い制服を着た体格のよい男性達だ。アハマス軍の軍服に似ているけれど少し違うので、きっとデニーリ地区の警ら隊の制服なのだろう。


 ──ずいぶんと、警らの人数が多いのね……。


 その美しい街並みにそぐわない警ら隊の人数の多さに、サリーシャは何とも言えないちぐはぐな違和感を感じた。

 

 


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