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【書籍化】辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する【コミカライズ】  作者: 三沢ケイ
番外編2

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サリーシャの好きなもの②

 久しぶりに訪れる孤児院は、明るい雰囲気に溢れていた。


 子供達はサリーシャが護衛に連れて来た若い兵士と外で声を上げて遊んでおり、一番の人気者は最近アハマス軍に正式入隊したロランだ。対戦ごっこをしているようで、ロラン一人に三人の子供が飛びかかっていた。サリーシャはセシリオから少し離れた場所で、小さな子供に絵本を読んでいる。


 セシリオは思った以上によい雰囲気に包まれている孤児院の様子を見て、サリーシャの働きぶりに感謝した。


「サリーシャは何が一番好きかな……」


 長閑な風景を眺めながら、無意識にそんな言葉が口から零れる。誰よりも大切な女性だ。きっとどんなものでも喜んでくれる気はするが、どうせならサプライズで好物を贈ってとびきりの笑顔を見たいというのが本音だった。


「サリーシャ様の好きなもの知りたいの?」


 そのとき、無邪気な声がしてセシリオは自分の隣に視線を移す。小さな女の子が手にハサミを持ってこちらを見つめていた。大きな茶色い瞳がぱちぱちと瞬く。女の子の前には細く切られた色とりどりの布が積み重なっていた。


「…………。何をしているんだ?」

「収穫祭の飾り作りよ」

「そうか」


 セシリオが短く返事をすると、女の子はにんまりと笑う。


「わたし、サリーシャ様の一番好きなもの知っているよ」

「本当か?」

「うん。前に言っていたもの」

「何か教えてくれるか?」

「うーんと、じゃあクイズね。最初に『り』が付くの」

「『り』?」


 最初に『り』が付くもの? セシリオは暫し考える。そしてひとつの結論に至った。

 りんごだ。りんごに違いない!

 確かにデザートにりんごが出てきたとき、サリーシャはいつも美味しそうに頬張っていた。


「そうか。助かったよ」

「もうわかったの?」

「もちろん。夫婦だからな」


 セシリオはお礼を言うと、女の子の頭を撫でる。女の子は朗らかに微笑んだ。


 ***


 アハマスで初めて過ごす収穫祭は、それはそれは賑やかだった。

 収穫されたばかりの芋を蒸かすお店や、摘みたての花を売る店、トウモロコシを茹でる店……。食べ物だけでもたくさんあったが、それに混じって小物やアクセサリー、鶏を売る店まである。

 多くの人々が行き交う大通りを、セシリオに手を引かれて歩く。収穫祭という特性からか、野菜や果物を持ち歩いている女性も多かった。


 何か目新しいものを見つけてサリーシャが興味をそそられるたびに、セシリオはすぐに気がついて立ち止まってくれた。


「サリーシャ、何か欲しい?」


 サリーシャは周りを眺めていた視線をセシリオに移し、目を瞬く。どうしてサリーシャが何かに興味を惹かれていることに、こんなにすぐに気付くのだろう。


「歩調がゆっくりになるから」


 セシリオはすぐにサリーシャの言いたいことを察したようで、そう言い加えた。そして、サリーシャが話し出しやすいように優しく微笑んだ。


「あの籠が可愛らしいなと……」


 サリーシャはおずおずと、ちょうど目についた屋台に置かれた、取っ手の付いた籠のバッグを指さす。籠のバッグは庶民が野菜やパンを入れたりするのにもよく使われる一般的なものだ。

 サリーシャも孤児院や支援施設に慰問に行く際などは、お土産を入れる鞄として籠のバッグを愛用していた。しかし、最近傷んできたのでそろそろ買い替えないとならないと思っていたのだ。


「よし、取ってやろう」

「これは普通には買えないのですね?」


 サリーシャは屋台をまじまじと眺めた。籠製品がたくさん置いてあるので籠屋さんかと思ったのだが、よくみると店の中央に的が置いてある。


「的当てだな。待っていて」


 セシリオは腕を捲ると、店主に硬貨を手渡す。店主はアハマスの領主であるセシリオが的当てに参加することにとても驚いたようだが、後ろでサリーシャが目をキラキラとさせながら見つめているのに気づくと、相好を崩した。


「いらっしゃい。領主様でもオマケはしないぜ?」

「望むところだ。とはいえ、久しぶりだな……。最後にやったのは、戦場での夜営だ」


 セシリオは久しぶりに手にするダーツの矢を片手に、三メートルほど離れた石壁に立てかけられた的へ向かって構える。矢を五本渡されたので、チャンスは五回のようだ。


「セシリオ様、頑張ってくださいませ!」


 サリーシャが両手に拳を握って声援を送る。セシリオはサリーシャをチラリと見ると、ニヤッと笑った。


 ──ヒュン!


 風を切る小気味いい音が耳に響く。トンっと大きな音がして、一発目の矢は見事に的の中央に刺さる。続いて二本目、三本目を放つと、それは一本目の矢のすぐ脇、やはり的の中央部分の一番小さな円の中に命中した。


「凄いわ!」


 サリーシャがはしゃいだように歓声を上げる。セシリオは矢を構えていた片手を下ろすと、店主を見た。


「もう二本もやった方がいいか?」

「…………。領主様のせいで商売が上がったりになっちまう。遠慮してもらいたいところだ。普通は一本でも当たればいいところなんだぜ?」

「それは悪いことをしたな」


 セシリオはハハッと笑い、残った二本の矢を店主に手渡す。結局、サリーシャはお目当ての籠のバッグと小さな籠製の小物入れを貰った。

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