Rehearsal
以前投稿してた話の少し設定変えて書き直しました。
狭く、無機質で、閉鎖的な空間。
耳を塞ぎたくなるような轟音の中で圭吾がマイクスタンドを掴んで歌っている。
端から見れば完全に発狂してしまったヤク中である。
圭吾は高校を卒業してからバンドを組んでいた。
バンド名は『Urban Midnight Stripper』(以下UMS)といい、今時には珍しく典型的なゴリ押しのジャパニーズロックをやるバンドで、音楽性としては日本脳炎や頭脳警察に似ていて、圭吾はボーカルとギターを担当している。
使用しているのはフェンダージャガー。
NIRVANAのカート・コバーンやRed Hot Chili Peppersのジョン・フルシアンテが愛用しているフェンダーの最高級機種である。
今日はUMSの練習日で圭吾は朝からスタジオに缶詰め状態だった。
「よーし。今日はそろそろあがろっか。」
リーダーでギタリストの千秋が声をかける。
圭吾は以前組んでいたバンドで音楽性の違いから楽しめていなかった時に彼から誘われたのであった。
『デビューなんかしなくたって良い。身近な人達に大切なメッセージを送れる最高のバンドをやろう。』
千秋の想いや音楽性は見事に圭吾のそれと一致し、千秋が声をかけていた他のメンバーとトントン拍子でUMSの結成となった。
「いよいよライブかー」
煙草に火を着けながら千秋が言った。
スタジオの休憩室で練習後の一服を楽しむのがお決まりのパターン。
そしてUMSの初ライブが明日に迫っていた。
「俺、緊張してきたっ」と弱気なのはベースの雄二。
演奏中は他のメンバーを牽引するくらいのパフォーマンスを見せるのだが普段はおどおどしている気の弱い好青年なのだ。
「最高だよこのバンドは。きっと大丈夫。」
圭吾は本当に心から思っていた。
「客いっぱい来るかな?やっぱ多いほうがテンション上がるよねー」
待ちきれない様子なのはドラムの尚。
元吹奏楽部の彼はパワフルかつ基本に忠実で正確無比なドラミングをする。
圭吾、千秋、雄二と自由奔放にプレーする3人の演奏が一つにまとまって成り立つのは尚のテクニックによる部分が大きかった。
「それじゃあ明日頑張ろうな。」
「「「おう。」」」
明日に誓いを立ててUMSのメンバーはそれぞれの帰途についた。