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第四章その1

 第四章、終わる世界と夏休み


 羽田空港から帰ったその日の夕方から、美咲の両親のことで忙しかった。

 美咲の両親の訃報を聞いて近所や親戚の人たちが続々と集まってきて、次の日から葬儀が始まる。一敏も参列するため制服を引っ張り出して玄関を出ると直美、陽奈子、唯も制服に着替えて参列してくれた。

「お前ら、どうして?」

 一敏は目を丸くして見渡すと、普段制服をラフに着ている直美と唯だが、今日は校則通りにきちんとした服装にしていた。直美は啓太が死んだ時のことを思い出したのか、悲しげな笑みを浮かべる。

「あたしだって啓太を亡くしてさ……今の美咲の気持ち、少しわかるよ。ずっと一緒にいた人が突然いなくなるのって、悲しいじゃない?」

「それで水前寺君大丈夫? 今どうしてる?」

 唯は心配した表情で訊くと、一敏は昨日から今朝までの様子を思い出しながら話す。

「あいつ……両親のことを思い出したみたい、最後に話したのが一刻も早く熊本に帰りたいから自分の航空券を取っていて……大喧嘩したらしい、本人もよく覚えてないが……なんでも最初は小競り合い程度だったが……おじさんがエーデルワイス団のことを侮辱するようなことを言って、美咲が怒ったらしい」

「きっとそれだけ大切な仲間たちだったんだよ……でも、水前寺君これからどうするのかな? 記憶を無くしたまま熊本に帰るのかな? それともここに留まるのかな?」

 陽奈子の言う通りだ。名前も思い出せない、生きてるかどうかすらわからない彼女の待つ熊本に帰るか? それとも俺たちのエーデルワイス団がいる湘南に留まるか? 難しい選択だ。

「なぁ紺野、美咲の彼女らしき人とかバッカニアで見かけなかったか?」

「ううん、熊本にいるエーデルワイス団の人たち……彼氏彼女が行方不明って言ってる人たちは沢山いるわ、しかもサイトが監視されていて下手に本名は出せないの」

 陽奈子は苦い虫を噛み潰したような表情で言う。詳細は不明だが八月に入った頃からバッカニアに本名を出すと、学校や大人たちに告げ口する輩が現れ始めたのだ。

 海賊(バッカニア)の中にいるスパイ、だが対処法がないのではどうしようもない。

「決めるのは美咲だ、あいつの選択を尊重しよう」

 一敏は美咲がこれからどうするか、葬儀が終わるまでの間に考える時間が必要だった。

 だがもし、熊本に帰るという選択肢を選んだら? その時にはとっておきの切り札がある、後は渡すタイミングだった。


 美咲の両親の葬儀はしめやかに行われ、一人残された美咲はまるで抜け殻のように過ごしていて、一敏はその間何もできない自分に嫌悪していた。



 両親の葬儀が終わって夏休みも残り一週間を切った。

 美咲はあの日以来、エアコンの利いた部屋のベッドで寝込んでいた。

 あの日、両親の訃報を聞いて遺体を確認した時、思い出した。

 美咲はあの日、藤沢の別荘――リゾートマンションでエーデルワイス団と残り少ない夏休みを過ごすため、船旅好きな両親と喧嘩した。

 思い出せない文芸部を隠れ蓑にしたエーデルワイス団のみんなに会いたくて、こっそり航空券を取っていた。それを両親に打ち明け、美咲をエーデルワイス団のメンバーだと知って止めようとした。

 美咲はエーデルワイス団のみんなの名誉を守るために、必死で抗った。

「そんな、胡散臭い秘密結社に何ができる!?」

 父のその一言で美咲の中にある何が切れた。

「できるできないんじゃない! やるんだよ!! 僕たちは残された日々を精一杯過ごしたい!! 父さんたちにわかってもらおうなんて最初から思ってない!!」

 そして美咲は部屋を飛び出し、その直後にあの耳をつんざくような警報が鳴って隕石が落ちてきた。

 一敏やおじさんによればリゾートマンションは倒壊し、瓦礫の中から見つけ出した時には意識はなく、駄目元で蘇生措置を行ったが、その日のうちに死亡が確認された。

 もう熊本に帰ろう、残りの夏休みは一人で過ごして滅亡を迎えよう。そう後ろ向きな決意を固めようとした時、コンコンとノックしてきた。

「美咲……起きてるか、入るぞ」

 ドア越しに一敏の声が聞こえると、彼は少し間を置いてゆっくり開けて入る。

「一敏か……悪い、僕のことはいいから――」

「そんなことできるわけないでしょ……今の状況思い出してみなよ」

 一緒に唯が入ってきた、続いて直美も入ってくる。

「美咲、大切な人を亡くして悲しいのはわかるわ……あたしたちも啓太を亡くして悲しい、だけど九月になればみんな死ぬから、死んだ後会いに行って精一杯生きたよって胸を張って言えるようになろう」

 後ろ向きな励ましだけど……その通りだった。少なくとも今の美咲にはそう聞こえる、確かに彗星は粉々に砕け散ったが、大きいものでは町一つ消し飛ぶくらいの大きさの欠片が地球に向かっている。

 被害は地球全域に及び、確実に滅びるから滅びるかもしれない程度に下がったに過ぎない。そして陽奈子も真っ直ぐ、だけど優しい眼差しで美咲を見つめた。

「水前寺君、ご両親のことは気の毒だと思う。だけど……ここで立ち止まってたら絶対に後悔する、だから……一緒に歩いて行こう、君のことを待ってる人がいるから」

「待ってるって、夢で見るあの子のこと?」

「うん、旅行で来てたってことはさ……案外羽田の全便欠航で足止めされて、帰りの航空券も取れなくて……知り合いのエーデルワイス団でお世話になりながら待ってるんじゃない?」

 僕のことを待ってる、あの子は熊本に帰ったのだろうか? 陽奈子の言う通り、この前の隕石群で足止めされて、もしかすると湘南に留まってるのかもしれない。美咲はありもしない可能性に縋りついてしまいたいという衝動に駆られた。

 直美は苦笑しながら指摘する。

「陽奈子、そんなことあり得るの?」

「あり得ないけど、限りなくゼロに近いけど……決してゼロじゃないわ」

 陽奈子は自信に満ちた笑みで言うと、唯は惜しみ無く讃える。

「さすが陽奈子ね! 水前寺君、陽奈子を信じて! この子は……天使の生まれ変わりだから!」

「そ、そんなことないよ唯ちゃん……私、ロマンチストだから」

 陽奈子は照れ臭そうに言うが、美咲は信じてみることにしてみた。もしかするとあの子も湘南に留まってるのかもしれない、勝ち目のない賭けであっても。

「みんなすまない、ちょっと部屋の外で待っててくれ……今から着替えて用意するよ」

 美咲はベッドから起き上がって言った、時計を見ると午前一〇時を回っていたがまだ今日という日は始まったばかりだ! さぁ今日はみんなでどこに行こう。

 そういえばどこかで聞いたことがある、残された人たちが笑顔で前を向いて歩く。それこそが、亡くなった人の、一番の供養になると。

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