表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

第三章その4

 羽鳥啓太。僕とは正反対の人だと思いながら、無料連絡バスの中で一敏がスマホで見せてくれた彼の、生前最後の写真を脳裏に焼き付けながら話しに耳を傾けていた。

 一敏は辛い日を思い出したのか、気が沈んで俯いた表情で話していた。

「――なんで啓太が死んだのか、どうして助けてって言ってくれなかったのか……今でもわからない」

 四月四日の大量自殺事件で犠牲になった羽鳥啓太、写真で見ると大柄の厳つい肩幅の広い体型で、怖そうな顔立ちだがなんとなく不器用だけど実直で優しそうな瞳をしていた。

 彼は正義感の強い熱血漢だったという、彼はなんの前触れもなく突然自宅で首を吊って死んだという。

 第二ターミナルに到着するとバスを降りて、美咲は率直に啓太の印象を口にする。

「いい奴だったんだな……羽鳥君は」

「ああ、あいつは死んだんじゃない……世の中に、大人たちに殺されたんだ、今ならわかる。事件後に現れたエーデルワイス団はあの事件で死んだ人たちの仇を討つために、滅亡における尤も最悪のシナリオを描くためなんだ」

「未来を担う僕たちが、未来を捨てて滅亡を受け入れ、残された今のために生きる」

 大量自殺事件のことなら知ってる、記憶は失っても知識は失われてない。その証拠として空港に着いたときから僕は鶴田さんや一敏に饒舌に飛行機を話していた。

 第二ターミナルに入ると、全国からやってきた大勢の人たちが降り立つ到着ロビーに美咲は立つが意識が遠くなる気配もない。美咲は滅ぶかもしれないにも関わらず、笑顔で降り立つ人たちをボーッと見ながら僕たちもあの中にいたのかと考える。

 だけど、今は違ってまるで僕だけ仲間外れにされたような気がした。ねぇ君は今どうしてるんだい? 心の奥底では君のことがどうしようもなく好きだったって感じるんだ。君のことを思い出したい、会いたい、そして抱き締めてキスしたい。

「どうだ美咲、なにか思い出したか?」

「いや、今回は不発らしい」

 美咲は自嘲しながらも内心では落胆してうずくまりたい気持ちだった。

「諦めるのは早いぜ、せっかくだからさ……見て回ろうぜ」

 すると一敏は急いでスマホを取り出す。どうやらLINEでも来たのかチェックすると溜め息吐き、申し訳なさそうに頼む。

「直美の奴、いじけて先に帰るってよ……スマンが美咲、お前が呼び戻してくれないか?」

「ああ、わかった」

 美咲はスマホを取り出して直美にメッセージを送ると、陽奈子と唯にはちょっと顔を合わせ辛いという。喧嘩でもしたのかな?

「紺野さんと奥平さんにはちょっと顔を合わせにくいって、喧嘩でもしたのかも?」

「その可能性あるな、あいつ啓太を亡くしてから心を塞いでたらな」

 一敏は更に申し訳なさそうな気持ちでスマホを操作した。



 その頃、国際線ターミナルに残された唯は陽奈子が一敏に送ったLINEの返事を待ちながらボーッと飛行機を眺めていた。

「来たわ、えっと水前寺君が呼び戻してくたんだけど……直美ちゃんがちょっと私たちと顔を合わせ辛いって」

「まあ……そうだよね」

 これってもしかして、陽奈子とデートの最初で最後のチャンス! 陽奈子は無邪気な笑みで訊いてきた。

「うん、これからどうしようか?」

「あ、あたしはどこでもいいわ! 直美が顔を合わせ辛いって言うなら……」

 ほっひぃいいいいいいいい!! ひ、ひ、陽奈子と二人っきり、これってデート!! デートだよね!! 唯は興奮が最高潮になった。

「でも灰沢君……大丈夫かな? あの日からずっと直美ちゃんに八つ当たりされて、邪険に扱われて」

 だけど陽奈子の心は一敏に向けられてる、興奮が急速に静まって胸が締め付けられる気分だった。

「……陽奈子は優しいね。好きな男の子を心配しても……助けたいって実際に行動起こせるの、なかなかできないわ」

「最後の夏休みだもん、後先考えずに動くって結構面白くて楽しい気がしてきたの」

「そうね、あたしなんか建前を気にして、いつも本音を後回しにしてきたような気がする」

 あの日、陽奈子が直美に詰め寄った時、唯は直感的に確信した。この子なら本音を言い合える友達になれるような気がする。尤も百合色の本性を露にしたら間違いなくドン引きされるけど。

「だけど直美は違うのよね、いつも人の本心を見透かしたような言い方をしてた」

 最初、直美に本心を見透かされた後、二人っきりになって話した時にすぐウマが合って二人だけの時は愚痴を言い合ったんだっけ? 羽鳥君と灰沢君のトリオを見ていて輪の中に入りたいと思ったことも沢山あった。


「いつでも歓迎するわよ、あたしたちは」


 いつのことだか、そう言っていた気がする。

 すると轟音を響かせながら滑走路を駆け抜け、入道雲を背景に八月の終わりの澄み切った青空へと離陸するボーイング747‐8を目で追いながら呟いた。

「あたしも……鳥になって空を飛べたらな」

 そういえば美咲は話していた。旅客機は自由な空を飛んでも、地上からの管制に従って決まった航路を飛ばないといけない。自由に見えて実は自由なんてものはない、まるであたしたちね。

 夏休みに入って自由に過ごせると思ったら大間違い、宿題やら受験勉強やら決まり事に縛られ、人類最後の時も自由に過ごせない。

「陽奈子……灰沢君に告白するの、応援してるから」

「うん……ありがとう唯ちゃん」

 陽奈子は頬を赤らめ、ぎこちない笑みで肯いた。



 直美は本当に先に帰るつもりだったらしく、合流したのは京急羽田空港国内線ターミナル駅だった。

「二人ともごめんね、ちょっと紺野さんと喧嘩しちゃってさ」

「……しばらく頭冷やしてそれから仲直りしよう……俺が仲介するから」

 一敏は、直美と紺野はもともと相性が良いとは言えないと思っていたが、そういえば奥平と紺野はどうしてあんなに仲がいいんだろう? それが疑問だった。

「悪いね一敏、いつもあんたに迷惑ばっかりかけて」

「気にするな……俺がお節介焼きなのは知ってるだろう?」

 一敏は半ば自嘲気味に言うと、美咲も微笑んで言う。

「そうだね、一敏は僕のために散々世話を焼いてくれたから」

「美咲に言われるようじゃねぇ、でもそれがあんたのいいところじゃない?」

 直美はニヤけながら言うと、一敏は心が痛んだ。ああ……そうか、直美は啓太と僕と三人の他愛ない、平凡だけどかけがえのない日常を取り戻したかったのか。

 もう失って取り戻すこともできないのに、直美もわかってるはずなのに。

「そうだな、展望デッキに行こう……美咲、またお前の好きな飛行機の話を聞きながらな」

「何から話せばいいかな? そうだ、待って! 三階にあるディスカバリーミュージアムに行こう! 小さな美術館だけど、何年か前にFEAとアニメ制作会社がコラボして作ったアニメの原画が展示されてるんだ!」

 それなら知ってる、美咲もよく話してくれた魔法少女アニメで今年の夏に完全新作の劇場版が公開された。まさか彼女と見に行ったわけないよな? デートで魔法少女アニメってのも失礼だが、ちょっと笑ってしまいそうだ。

「美咲、あんたやっぱりオタク?」

 直美はニヤニヤしながら訊くと、美咲は少し困った表情になって言う。

「そうとも言えるな……まぁ僕は飛行機オタクだけど」

「いいじゃないか、好きなものを忘れてないというのは」

 一敏は微笑ましく思いながら、第二ターミナル内にあるディスカバリーミュージアムに向かう。本当に小さな美術館だが、多くの人々が行き交って賑やかだが騒がしいターミナルの喧騒が嘘のように静かだった。

 直美は予告編の原画を眺め、その下には五人の魔法少女と旅客機の模型が展示されていた。

「へぇ……これがアニメの原画なんだ。ねぇ美咲、どうして飛行機の模型も展示されてるの?」

「みんなFEAが所属する航空連合ステラ・アライアンスの航空会社とボーイングの、反対側の五人は二期の主人公たちであっちはエアバスの旅客機がモデルなんだ」

 美咲の話しによれば一期はボーイング、二期はエアバスの飛行機がモデルで、同じ時期で違う学校の隣町が舞台だという。そして今年公開された劇場版はみんなで力を合わせ、困難を乗り越えるというお話しだという。

「みんなで力を合わせてか……」

 今の俺たちのエーデルワイス団には難しいな、一敏は自嘲気味に思うと美咲のエーデルワイス団はどうだったんだろう? あいつら、この前の隕石群を生き残れたんだろうか?

 ふと押し寄せる不安が一敏を襲った、報道によれば死者行方不明者は熊本市内だけでも五〇〇〇人以上だという。もしその中に美咲の彼女がいたら? それで独りぼっちになってしまったら? こいつはどうなるんだ? 一敏はソファーに座ると足下の床が砂になって、両足が沈んでしまいそうな気分だった。記憶を無くしても好きなものは忘れず、直美も以前のように元気を取り戻してる。

「美咲、この男の子のモデルって変な飛行機だね」

「ああ、彼のモデルは僕たちが生まれた年に退役した超音速旅客機コンコルドだ。高度一八〇〇〇メートルをマッハ二で飛んで大西洋を飛んでいた。だけど騒音や超音速飛行時に生じる衝撃破の問題で大西洋しか飛べず、夢で終わった超音速旅客機――」

 また飛行機の話しになると饒舌になる美咲、直美はちょっと難しくてわからないようだがそれでも微笑みながら耳を傾けて聞いてる。そういえば直美が啓太と話してる時は一緒に笑いながら話してたっけ?

 あの日があまりにも遠いな啓太、亡き親友のことでふと口元が緩むとポケットのスマホが震え、取り出すと母親からだった。

「おふくろ、どうしたんだ?」

 母親が電話をかけてくるのは珍しい。おふくろの震えた声を聞くと、全身が凍り付いて目の前が真っ暗になりそうだった。今から一敏は美咲に残酷すぎる真実を伝えなければならない。

「美咲、すぐに帰るぞ」

「ええどうして? まだ行ってない所もある……どうしたの一敏、顔色悪いよ!」

 一瞬不満を露わにした直美だがすぐに気付き、青褪めた表情で歩み寄る。

「美咲、よく聞いてくれ」

「ああ、どうしたんだ?」

 美咲は察してるのか察してるのかわからない表情だった。

「今……おふくろから電話があってお前のお父さんとお母さん、瓦礫の中から遺体で発見された」

 一敏は自分の声が震えるのを必死で抑えるのに、精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ