表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

第三章その3

 第一ターミナルを後にしてターミナル間を移動する無料連絡バスに乗る、車内は同じように羽田に遊びに来たのかあるいは乗り換えなのか人が多かった。すると結成した時から唯とくっついていた陽奈子が、一敏の傍にくっついて小声で話しかけてきた。

「ねぇ灰沢君、この前から気になってたんだけど……鶴田さんっていつからあんなに元気になったの?」

「美咲と……出会った時かな?」

 明らかに直美の様子がおかしいと気付いたのはいつだろう? いや違う、気付いてたんだが知らず知らずに目を背けていたんだ。

「私、一年生の頃の鶴田さんしか見てないけど……今の鶴田さん、亡くなった羽鳥君のように接してる気がするの……確証はないけど、もしかして喪った羽鳥君の代わりにしようとしてるのかも?」

 陽奈子も薄々気づいてたのか、だがそんなことあり得るのか? 啓太と美咲は何もかも正反対だぞ! 啓太はガタイが良くて豪快な性格の、良くも悪くも男らしい体育会系の熱血漢な奴だった。

 因みに共通点を上げるなら繊細なところかもしれない。

 二年の頃、飼ってたジャンガリアンハムスターが死んだ時、丁度あの日以降の直美みたいに塞ぎこんでた時期もあったが。

 陽奈子は昨日いじめっ子たちに毅然と立ち向かった眼差しとは別の意味で、凜とした眼差しで唯と話す直美に視線を向ける。

「私……確かめてみるわ」

「……わかった、こっちも考えてることがある」

 一敏はそう言うと連絡バスはトンネルを抜け、窓の外を見るとターミナルには国際色豊かな様々な国の航空会社の旅客機が並んでいた。

 バスを降りて横面ガラス張りの建物に入るとエスカレーターで三階に上がり、開放的な出発ロビーが広がっていた。唯は興味深く見回しながら言う。

「へぇやっぱここも凄いね、あっちとは大分雰囲気が違うわ」

「ああ、国際線ターミナルは国内線とは違って二四時間営業だからね。それに四階は江戸小路という日本色を色濃く演出したショップエリアがある。行ってみよう、そこから展望デッキに出られる」

 美咲は先走って四階に通じるエスカレーターに上がった、確かに江戸っぽい演出のエリアで美味そうなレストランもあったが、かなり高そうなお店もあった。

 そこを適当にブラブラしたり、展示されてる物を記念撮影していた。

 それから展望デッキに上がると、相変わらず美咲は指を差しながら水を得た魚のように飛行機の話をする。

「――あれがエアバスA350で隣にいるのがエアバスA330の次世代型のneoだ、見ての通りどちらも双発の中型機だ」

 一敏は話しを聞きながら美咲の指差す先を視線で追う、機首やエンジンの大きさこそ違うが、大きさや姿も似かよってる気がして質問する。

「なぁ美咲……あれって同じエアバス機だろ? キャラが被ってないか?」

「いい質問だな一敏、確かにA350には900型と1000型があって開発中にA330neoと被って開発中止になった800型がある、今のところ中短距離はA330、長距離がA350で分担できてる……尤もA330もそれなりに長く飛べる。A350の発注をキャンセルしてA330に変更した航空会社も出るくらいだったさ」

「それ、お前の……彼女にも話してたのか?」

 一敏は切り出すように言うと、美咲は思い出そうと複雑な表情で首を傾げる。

「それは……多分話してたと思う」

「えっ? ちょっと美咲あんた彼女いたの?」

 直美のおどけた表情だが瞳は明らかに動揺している、美咲は正直に困った表情で答えを出す。

「少なくとも、彼女はいたと思う……だけど、思い出せない」

「そうか、なぁ美咲……そこに飛行機の模型が展示されてる、一緒に見に行こう」

 一敏は何気無く誘うと、予想通り直美もパッと明るい笑顔で食いついてきた。

「ええそんならあたしも行くわ!」

「そうだな、懐かしいな……こうして三人で行くと啓太を思い出すな」

 一敏は微笑みながら鎌をかけたつもりだった、直美は一瞬表情が固まって少しぎこちない口調になる。

「も、もう……一敏、どうしてこんな時に啓太のことを思い出すの?」

「ふっ……さぁな、直美……行くのはいいが、また美咲の蘊蓄(うんちく)話を聞くことになるぞ」

「そ、そうだね。美咲は飛行機オタクだし」

 すぐに話を逸らすと直美はそれに乗ってくる、すると陽奈子が誘ってきた。

「ねぇ鶴田さん、あそこのプラネタリウムカフェにも行こう!」

「おっ! それもいいね、あんたたちは行かないの?」

 直美はまるで気まずくて居心地の悪い空気からを逃れたいようで、これも実は陽奈子の罠なのだろう。一敏はあっさり首を縦に振って行かないことを示す。

「悪い、せっかく空港に来たんだから美咲の話を聞きながらその辺をブラブラするよ、それに俺も飛行機のことに興味が湧いてきてね」

 一敏はバイクが好きだが、美咲の話しを聞いてるうちに飛行機にも興味が沸いてきたのは本当だった。

「そ、それじゃあ……何かあったらLINEで知らせるから、男同士仲良くね!」

 直美は気まずそうな表情で唯と陽奈子の所へ行ってしまい、一敏は陽奈子の健闘を密かに祈ると、何も知らない美咲は首を傾げた。

「どうしたんだろう、鶴田さん……なんかマズイことでもしたのかな?」

「いや、それより美咲……お前に話しておきたいことがある、これから第二ターミナルに行こう。お前の記憶を探すのもそうだが、話しておきたいことがある」



 国際線ターミナル五階にあるプラネタリウムカフェで、唯は陽奈子と直美の三人で即席の女子会を開く。ドリンクを注文してそれを早速スマホで撮影し、それをバッカニアにアップロードしたり、プラネタリウムの投影を見たりして過ごしていた。

 この辺はなんか坂崎さんたちと遊んでる時と変わらないと苦笑すると、唯はふと坂崎さんたちどうしてるんだろう? と頭を過った。

 グループを密かに離れ、エーデルワイス団を作って本音を言える陽奈子や直美と遊んでると知ったらなんて言うんだろう? そう考えてる時、陽奈子は一気に踏み込んだ話しを持ちかけた。

「ねぇねぇ唯ちゃんってさぁ、好きな人とかいるの?」

「ええっ!? あ、あたしはいないよ」

 唯は口にしてはいけない本音を押し隠して無難に答える。

 好きな男子はいないけど……好きな女の子ならいるわよ、目の前に。もう陽奈子と手を繋いで、ギューッとして、ちゅっちゅして、桃色でムフフなことをしたいわ! ぐへへへへ……。

「唯、あんた気持ち悪いこと考えてるでょ?」

「ええっ!? そんなことないよ!!」

 直美に言い当てられ、唯は必死に否定する。

「ああ、もしかして唯ちゃん女の子が好きなんだ!」


 いやぁあああああっ!! バレてらあああぁぁぁぁっ!!


 陽奈子に無邪気な笑顔で指摘され、唯は心の中で絶望の断末魔に似た悲鳴を上げて直美は引き攣った表情で見つめる、明らかにドン引きしていた。

「あんた、そっちの気があったの? 本当ならマジで――」

「気持ち悪いとか、あり得ないとか、そんなこと言っちゃ駄目よ直美ちゃん!」

 陽奈子はキッとした眼差しで名前で呼んで遮る、呼ばれた直美は「えっ?」とした表情で見ると、凜とした声で言い放つ。

「異性同性問わず、人を好きになることって……実は沢山の偶然と奇跡の賜物なのよ。それに同性を好きになるって、異性愛にはない美しい愛の形があるのよ! って、バッカニアの友達が言ってた」

「ネットの受け売りかよ!」

 ドヤ顔で言う陽奈子に直美はツッコミを入れるが、唯はそれで救われて涙が溢れそうな気分だった。

「受け売りでもさ……それで誰かを救えるなら、いいんじゃない?」

「うん、ありがとう唯ちゃん、それで直美ちゃんはもしかしてさ……水前寺君に気があるの? 最近べったりくっついてるじゃない?」

 陽奈子は無邪気な笑みで言うが瞳は笑ってない、それを直美も察してるのか、微笑みで誤魔化しながら言う。

「まあ美咲は記憶を失くしてるからね、寄り添っとかないと不安じゃない」

「そうよね。直美ちゃんだって羽鳥君がいなくなって悲しいと思うのは当然だけど、水前寺君を羽鳥君の代わりにして心の隙間を埋めようとするの……よくないわ」

 陽奈子の声色が急に変わって唯も思わずゾクッとする。

「な、なに言ってるのよ陽奈子……そんなことするわけないじゃない」

 直美は首を横に振りながら否定する。確かに最近の直美は水前寺君のことを、まるで羽鳥君の代わりのように接してるのように見える。陽奈子は容赦なく追い討ちをかける。

「じゃあ質問を変えるわ、直美ちゃんは水前寺君の記憶が戻って欲しいと思ってる?」

「そりゃあ記憶を探すのも大切だけど、今しかないじゃん……夏休みはもう少ないんだし……戻っても熊本に帰れるかわからないし、あまり意味ないんじゃない?」

 直美にしては珍しく曖昧な答えだ。次の瞬間、陽奈子は両手を思いっ切りテーブルを叩き付け、直美をキッとした表情で睨み付けて啖呵を切る。

「水前寺君、記憶を思い出した時の顔を見てなかったの!? 泣いてたのよ!! 名前を忘れた女の子が水前寺君の彼女さんだったらどうするの!? 今こうしてる間にも彼女さん、きっと不安に押し潰されそうな気持ちで帰りを待ってるわ!! 例え人類最後の一瞬でも好きな人と過ごしたい、少なくとも私はそう思うわ!!」

 今の陽奈子は昨日いじめっ子たちを退けた時以上の剣幕だ。唯は圧倒されて言葉を失うが直美は負けじと反論する。

「あんたに……あんたに美咲のことわからないくせに偉そうなこと言うんじゃないよ!!」

「わかるわけないよ! でも、いつまでも塞ぎこんでたら灰沢君に見捨てられるわ!」

「どういうことよ!! あんた一敏に気があるの!?」

「気があるどころか灰沢君のことが好きよ、私……直美ちゃんから灰沢君を取っちゃうから!!」

 陽奈子は躊躇うことなく公衆の面前で大胆な宣言……内気な女の子も恋する乙女となると大胆に変貌する。唯は見ていてもう笑いたくなるくらいだった。

 いきなり宣言された直美は俯いて沈黙したかと思うと、財布から一〇〇〇円札二枚取り出してテーブルに置いて立ち上がった。

「ごめん……先に帰ってるって一敏と美咲に伝えておいて」

「ああっ、直美ちょっと――」

「ごめん唯、今日はもう一人にさせて」

 強引に帰ろうとする直美を引き止めようと立つと拒絶され、陽奈子に縋るように視線を移すが、陽奈子はじっと席に座ったままで追おうとしない。

「帰るのはいいけど……その間に灰沢君に告白するかもよ」

「……あんたの勝手にして、どうせ最後の夏休みだし……好きにしたら?」

 直美は苛立ちを秘めた口調で言うと、プラネタリウムカフェを出て歩き去って行き、唯はただ静かに泣いてる背中を見送るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ