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ことわざコラム05

 

「こんにちは。わたし佐々木ささき 佐保さほだよ」

「やあ。わたしの名前は光岡みつおか 弥生やよいだ」


 黒髪を垂らした女の子が二人、どこか虚空を見つめながら、ペコンとお辞儀をする。

 肩にかかるくらい長い髪をしているのが弥生、ボブが佐保だ。


「これってどこ向けば正しいのかな」

「知らん」


 二人は『2to2』という小説の登場人物だ。

 訳あって、更新停止の検索除外中の身であるが、こうして表舞台に立てたのだ。

 いつか更新してくれる日もあるのではないだろうか。 


「虚空っていうか、斜め45度くらい上を見てるんだけど」

「わたしは33度ぐらいかな」

「細かいね?」

「ごめん、適当に言った」


 二人とも、そろそろ本題に……。


「しまった」

「これ以上言わせるかっての!」



 ◆しばらくお待ちください◆



「あ、そうだ」

「どうした? 今日も何か事前に言っておきたいことでもあるのか?」

「うん。一つ、どうしても共感を分かち合いたいものがあって」

「ふうん。手短に教えてくれ」


 弥生が興味深そうにこちらを見た。

 佐保はことわざ辞典のページを押しながら該当のことばを探している。

 確かこの辺に……。あった!


「最初から用意しておけよ。段取りわりーな」

「わたしはもたもた系女子だから、このままでいいんだよ。キャラが崩れるじゃん?」

「なんだよその開き直り……。で?」


 弥生が雑談で脱線した内容を引き戻してくれる。

 ちょっとぶっきらぼうだが、それも彼女の長所だとおもう。

 佐保が、キャラを崩さずに勝ち取ってきたのは、これ。

 「負うた子三年探す(おうたこさんねんさがす)」

 意味は。


「近くにあることに気付かずあちこち探しまわること、か」

「そうこれ、メガネキャラのお約束、メガネを探すアレじゃないかと思うアルよ」

「何故中国風キャラ付けを……。もしかして、メガネ、メガネーってヤツ?」

「もしくは、マヨネーズorしょうゆが見つからない人でも可」

「目の前にあるんですね、分かります」


 今日は、調子がいいのか、ノってくれる弥生。

 唐突に似非チャイナ人になった佐保は、それだけーと言ってこの話を終わりにする。


「負うたメガネ三年探す、ね。壮大な物語じゃん」

「その話はもう終わったのですが」

「あ? もうちょっと広げろよ。風呂敷ちっさ過ぎんぞ」

「ええーいつもは手短にとか言うくせにぃ」


 佐保の反論は力がない。

 普段からやや強情な弥生さんに反論が通るとは思っていないからだ。

 もう、こうなったらとことん付き合うしかない。

 佐保は覚悟を決めた。


「負うた子を七日尋ねるともいうらしいよ」

「そっちのほうが現実的だな。被ったメガネを七日探す」

「伊達眼なら何でもないことだけど、ガチのメガネはやばいね」

「もう買ったほうがいいかもな。被ったより付けた……いや、かけたがいいか」

「それで、お店の人に指摘されるんだ。いまかけてますよって」

「引っ込み思案なアルバイトの人だったら黙ってるかもしれん。探すは探すでいいや」


 表現が気に入らないらしい弥生。

 ことばをこねくり回して、着眼点を探っている。


「それ、そんなに気に行ったの?」

「かけたメガネ七日探すっと。ん?」

「いや、弥生が気に入るなんて珍しいなあって言っただけだよ」

「ならいいけど」


 どうやら満足したような様子。

 佐保は今度こそと意気込んで、今日のことわざを開示させた。


「『落下枝に返らず、破鏡再び照らさず』」

「えらく長いな」

「覆水盆に返らずの類語だよ。意味は同じ、というか、こっちのほうが恋愛特化」

「男女の仲というのはうまくいかないものだ、的な?」

「どっちかというと、壊れちゃったら元に戻らない的な」

「なるほどねえ」


 経験則豊かでない佐保さんにはいまいち実感がわかない言葉だが、弥生さんは何か分かったらしい。

 うんうん、と頷いて納得している。

 これはもしや。


「弥生はそういう経験ある?」

「ねーよ」

「ほんとにぃ?」

「あってたまるか!」


 そう叫びつつも、一応探す弥生。

 いままで、そういう仲になった男子は三人。

 一人は途中で退学して音信不通。一人は同じ高校に通っていて、いまでも多少話す。

 あれ? あと一人、誰だっけな?


「ちなみに覆水盆に返らずってさ、わたしこのイメージなんだよね」


 佐保は弥生が頭をフル回転していることなど露知らず、スマホの画面を見せた。

 クリントンさんが満面の笑みで、こちらを指さしている画像だ。

 UNOがどうとか言っている。

 佐保はウノをやったことないので、おもしろさが分からない。


「あ、思い出した!」

「どったの、弥生」

「思い出したわ……スカートめくりの純!」

「誰?」

「小学生時代の彼氏」


弥生さんの意外な恋愛事情に、佐保は目を白黒させるほかない。

くっころ、小学生時代に既に恋人と呼ばれるものが存在していたなんて!


「それで、まあ、なんか結末見えたけど、どうなったの?」

「わたしは短パンはいてたから、スカートめくりの被害には遭わなかったんだけどさ」

「うん」

「先輩や年下のスカートめくりまで始めて、学校全体で大きな問題になって」

「うん」

「卒業と同時に県外に移転してったよ」


 語り終えた弥生の眼は遠かった。

 高校生にとっては遠い過去を思い出したからだろうか。

 佐保も弥生と同じ方向を向いて言った。


「うーん、幼稚。退学すればよかったのに」

「それな。まあ、義務教育だからじゃね?」

「なんか、思い出させちゃって、ごめん」

「いや、わたしは被害受けてないから」

「添い寝サービスが必要なら付けるよ? わたし行くよ?」

「いらねー」


 すげなく断られた佐保はめげずに言った。


「ええ、一緒に寝ようよ」

「いやだよ、布団一個しかないのに」

「一個の布団に二人で入ればいいじゃない」


 気分は、マリー・アントワネット。

 パンよりケーキ。床より布団。

 斜め右方向を見ながら、キリリと決めた。


「ハードボイルドに言ったってダメ」

「じゃあ、寝袋持ってくから」

「もしかして:お泊り会がしたいのか?」

「イエス」

「まさか、人んちに泊まりに行ったことないとか?」

「イエース」

「おいおい、高校生になってもそれかよ。これぐらい経験しとけって」


 呆れた表情を隠さない弥生。

 佐保さんは渾身のカリスマをハードボイルドと間違えられて内心涙目だが、そんなことは気にせず、ぐいぐい弥生にせまる。


「ガールズトークしたい!」

「夢を持ち過ぎだ」

「ええっ、修学旅行のときみたいにきゃあきゃあ、はしゃごうよ」

「修学旅行……? たぶん、わたしは寝てたぞ」

「ウソ!? マジで?」

「おまえがマリキュア世代じゃなくてセーラーモーン世代だってのは聞いた記憶がある」

「あ、それがガールズトークです」

「いや、違うだろ!? ガールズトークってのは、もっと恋愛の話するヤツじゃないのか?」

「弥生さんの口から恋愛とか飛び出すなんて。今日は厄日だわ」

「厄日かよ!」


 ガールが二人いればガールズ。

 そんな二人が話せばガールズトーク。

 佐保はいまも続くガールズトークにウキウキワクワクなのだった。

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