ことわざコラム04
コラム全体を掲載するかどうか、迷うきっかけになった話。
「作者」とかメタい単語とか出てくるので、苦手な人は飛ばしてください。
「こんにちは。わたし佐々木 佐保だよ」
「やあ。わたしの名前は光岡 弥生だ」
黒髪を垂らした女の子が二人、どこか虚空を見つめながら、ペコンとお辞儀をする。
肩にかかるくらい長い髪をしているのが弥生、ボブが佐保だ。
「弥生の髪の毛、長くていいなあ」
「だったら自分も伸ばせばいいだろ」
二人は『2to2』という小説の登場人物だ。
訳あって、更新停止の検索除外中の身であるが、こうして表舞台に立てたのだ。
いつか更新してくれる日もあるのではないだろうか。
「手入れ面倒じゃん」
「そのボブを維持する方が面倒だと思うんだけど」
「あ、今日も更新無かったよ。わたし、毎朝確認してるんだ」
「うわ。おっもい愛だな」
二人とも、そろそろ本題に……。
「しまった、出番外され」
「いい加減にしろ!」
◆しばらくお待ちください◆
「あ、そうだ。今日はまず初めに、このコラムの存在意義を語っておくね」
「急にどうした?」
「だって、こういうの要らないって思う人が一定数いると思うのよ」
「データだけでいいってことか。まあ、蛇足だよな」
「スネーク・レッグだと!?」
「最初はこの変換方式を伝えるために作ったんだと思ったけど。違うのか?」
相変わらず派手なリアクションで、ムード演出に勤しむ佐保。
一方、弥生はどこまでも淡々と現実を見ている。
「最初はね。二回目は青眼みたいにうまく行かないときもあるって伝えたくて」
「でもあれはいいネタだろ。異世界じゃ当たり前に使われてることわざに、それじゃドラゴンだろって主人公が笑いながらツッコむ、みたいな」
「感想欄がドラゴンだらけになりそう」
「そんなに来てくれる人がいればいいがな」
「やめて」
佐保は顔の前で大きく腕をクロスさせる。
バッテンの意思表示だ。
弥生は口を閉じる。
いつも冷たいツッコミが冴える彼女だが、意図的に佐保が傷つくようなことはしない。
仮にも親友だからだろうか。
「あ、そうそう、存在意義ね」
「忘れるなよ。あと、こういうのは長くなると鬱陶しいだけだから手短にな」
「うふふ☆ 建前と本音、どっちが聞きたい?」
「手短につっただろ。じゃあ建前から」
弥生がややうんざりしながら、建前を選ぶ。
佐保は、嬉しそうだ。
「建前は、ことわざ辞典五十音順で紹介できなかった、素敵な、あまり見かけない故事ことわざを紹介するコーナーが欲しかった。ってことらしいよ」
「辞書に英語の訳文が載ってないと、本編の五十音順では紹介できないもんな」
「『青眼』も、『目で殺す』も、普段使わないしね」
「ふうん。じゃあ、本音は?」
「このサイトさ、ポイント評価が二つに分かれてるんだよね」
「ああ、知ってる。文法・文章の評価とストーリー面での評価だろ?」
佐保がスマホの画面を弥生に見せる。
弥生もこのサイトは知っていたようだ。
すぐに頷いた。
「で、一旦意識をことわざ辞典に向けて欲しいの」
「……向けたぞ」
「まず、文法・文章。辞書からの抽出以外にありますか?」
「ないな」
「ストーリー性、ありますか?」
「ああ、なるほど。そういう訳か」
「わたしたちの物語には文章もストーリーも存在するよね?」
佐保が告げた事実に、弥生は憤りを覚える。
想いの丈を虚空に向かって張り上げた。
「せこっ! せこいぞ作者!」
「うぐっ、やめて弥生! わたしのなかからこの映像を見ている書き手ががが」
「中二病みたいになっとる!」
「傷付くんで止めたげて?」
「やるなら最後までやれ!」
「ごめん。なんか飽きた」
「飽きたなら仕方ない」
許された佐保である。
弥生は胡散臭い目で、佐保を見た。
「つか、そのなかに作者いるの?」
「さん付けの方が良くない? 出番無くなるよ?」
「さてはおまえ、言わされてるな? わたしの親友を返せ、作者め!」
暴走し出した弥生さんだ。
彼女の口から、再び『親友』という言葉が飛び出してきたことを喜んだ。
ベストフレンド、ひゃっほーい!
と雄たけびをあげる佐保を見て、弥生は悟った。
こいつ、素じゃねーか。
赤面していく弥生。
珍しい彼女の表情に、佐保はもはやボーナスステージだ。
「どういう意味だよ」
「嬉しい」
「三文字で終わるじゃねーか」
ボーナスステージは八文字。
文字数の無駄であった。
「だいたいエッセイジャンルに単語集ぶち込む人が悪いだろ」
「まあね。本当に自分用にしたいなら、ジャンルはその他でもいい訳だし」
「エッセイって随筆のことだろ? なにか自分の考えとか入れた方がいいんじゃねーの」
「んー、そのことなんだけど。エッセイを随筆と訳すなら、わたしのジャンル分けは間違っている。でも、ここのエッセイは作者さんの役に立つもの、を置いているからこれでいいんだ。って」
「ほう。なんか急に人が変わったように……変わったのか」
「前半はどういう意味だね」
「馬鹿っぽいおまえが賢くみえた」
「ヘイ、親友。ありのままの事実を言うのはどうかと思うゼ!」
涙をこらえながらのセリフである。
馬鹿っぽいってなんだよ。いや、自分でもそう思うときってあるけどさ!
「ヘイヘーイ、親友!」
調子に乗って、変なキャラのまま続行する佐保に、弥生は苛立ちを抑えようとする。
まだ、駄目だ。まだ殴る段階じゃない。
ぐっとこらえるんだ、弥生!
「そこに作者いるの? ほんとうに?」
「ふふふ。信じるか信じないかは君次第だよ」
佐保は蠱惑的な笑みを浮かべた。
うまくいっていたかは定かでない。
「じゃあ、ちょうどいいわ。これ聞きたかったんだよね。辞書からの抽出ってどうやったの?」
「ああ、それなら、全部手動で打ち込んだって言ってる」
「は? 抽出元がなんたらとか書いてあるじゃん」
「うん。だから、パソコンの横で辞書開いて見ながら打ち込んだんだって」
「こう、コードとかつないでバーっとパソコンに取り込めないの?」
「弥生、いかに機械音痴だからと言ってその表現はないでしょ」
佐保はけらけらと笑うが、弥生の視線は真剣だった。
こちらをまっすぐ、視線をそらさずに見ている。
「答えろよ」
「いいかい、弥生。作者が見ていた電子辞書は10年前の代物。そんな便利機能付いてると思う?」
「付いてないのか」
「うむ」
もったいぶって言ったが、要はそういうことである。
いや、もしかしたらできるのかもしれないが、彼女は。知らないようだ。
専用のコードも持ってないし、そもそも穴があるのだろうか?
(確認したら穴はありませんでした)
「英語もブラインドタッチもわたしレベル! わたしだったら絶対やらないね」
「うわあ」
コラム01を見れば分かることだが、佐保の英語能力は平均以下である。
ウリが英語で分からない程度といえば……分かりにくいよ!
ちなみに、ウリは『squash』か『melon』というらしい。
メロンなら佐保にも言えたかもしれないね……。
一方、ブラインドタッチのほうはというと。
普段持っているスマホのほうは見なくても打ち込めるのだ。
しかし、いざパソコンの前に座るとなると、これがダメなのである。
「じゃあ、今日のことわざ」
「この状況でやるのか。文字数3000近いぞ!?」
「やめて、弥生まで現実を見なくなってどうするの!」
「いや、第一回が4000文字だからいいか」
「ねえ、聞いてる!?」
今日のことわざは、『冬の雪売り』。
ウリ続き。
意味は?
「だれもが飽き飽きしてしまったありふれたものを売っても、買い手などいない」
「悲しいことわざだね」
「マッチ売りの少女みたい」
「雪売りの少女か……過酷過ぎるだろ! マッチみたいにほのかな温かみもないし!」
「けどさ、言うほどマッチって温かくないよね?」
「わたしはかじかんだ手で、マッチを寸分の狂いなく擦れたことに驚いている」
「なにその説明口調」
弥生は佐保のほうを見ずに言う。
誰に向かって言ってるの、その説明口調。
お約束? お約束ってヤツなの!?
「けどさ、いまって冬でもアイス食べる人いるじゃん。それみたいに、なんか需要あるんじゃないの」
「雪の降らないスキー場とか、高値で売れそう」
「えー? いま人工雪あるし、高くつくからやらないんじゃない?」
「いずれにしろ、ふわふわの降りたての雪じゃないとな。カチンコチンに固まったのとか、水でしゃびしゃびな雪は、誰も要らないと思う」
カチンコチンの雪はかき出して、運べる状態にするのも大変そう。
しゃびしゃびなのは簡単にかき出せるけど、量が……。
「雪の話とはずれるけど、ありふれたお菓子とかも、なくなっちゃうとすこし寂しいよね」
「ああ、駄菓子のカツって美味しいよな」
「あの薄っぺらいヤツでしょ? 知ってる、知ってる!」
「けど、これが売れてるからといって同じような新商品を売り出しても、これは老舗の会社のほうが分があるよな」
「おにぎり型のおせんべいとかね。見たこともない会社名ならなおさら売れないね」
「これが、冬の雪売りってことか」
「なるほど、そういう意味だったんだ」
納得する二人。
今日は駅のベンチで話し合っていたようで。駅のアナウンスが聞こえてくる。
あ、そろそろ行かなきゃ。
佐保は、いつも駅から出るバスに乗るのだ。
ちょうどその時間が迫っていた。
弥生のほうはといえば、目的の電車は、今のアナウンスのではない。
というか、そうだったらやばい。遅れていることになる。
弥生は去っていく佐保を見送って、一息。
佐保といる時間は楽しい。だけど、時にうるさく思う日もある。
だからだろうか、目的の電車がくるまでの待ち時間は、さっきよりずいぶん寂しく感じた。
そんな意地汚い理由で作られたコラムですが、このコラムを投稿する前に、どなたかが評価ポイントを入れてくださいました。ありがとうございます。
さんざん迷いましたが、コラム内のことわざも共有したくて掲載しております。
こんなもん要らねーよと思う方は、感想欄かメッセージにてお伝えください。分離します。