ことわざコラム02
「こんにちは。わたし佐々木 佐保だよ」
「やあ。わたしの名前は光岡 弥生だ」
黒髪を垂らした女の子が二人、どこか虚空を見つめながら、ペコンとお辞儀をする。
肩にかかるくらい長い髪をしているのが弥生、ボブが佐保だ。
「おい。おまえ苗字変わってないぞ」
「ああ、もうこのコラムではこのまま行くらしい」
二人は『2to2』という小説の登場人物だ。
訳あって、更新停止の検索除外中の身であるが、こうして表舞台に立てたのだ。
いつか更新してくれる日もあるのではないだろうか。
「前回から更新要素ないけどな」
「道は遠いぜ」
「遠いというか無いのでは」
「そんなことは聞こえぬ」
二人とも、そろそろ本題に……。
「しまった、出番外されちゃう!」
「学習しねーヤツだな。佐保、行くぞ!」
◆しばらくお待ちください◆
「前回、適当に英語当てれば、それっぽいものができるって言ったじゃん?」
佐保が弥生の机のほうを覗き込みながら言う。
弥生の机にはまだ何も乗ってなかった。
なあんだ、と言いながら佐保はノートとペン片手に喋り始める。
「二字熟語とか、かなり簡単でありかなって思ったんだけどさ。聞いてる?」
「んー、まあまあ?」
「まあまあってなにさ」
「話半分に聞いてる」
「ハーフストーリーだって!?」
「まあ、こういう訳しかたすると読者も頭使っていい感じって話だっけ」
「そんな結論だったっけ?」
佐保はこてんと首を傾げる。
今日は肩が凝っていたらしく、首を一周ぐるりと回した。
やはり、あまり可愛らしい姿ではない。
「まあさ、それはいいの。問題はこれが通用しない熟語を見つけちゃって」
「いいんだ」
「青眼って言うんだけど」
「なんかドラゴン浮かんできた」
「これを英訳しようとすると、なおドラゴンめくよ」
「ドラゴンめくってなんだよ」
春めくみたいな使い方だ。
もちろん、造語です。
「意味は?」
「人を喜び迎えるときの好意あふれるまなざし。だって」
「いい意味じゃん」
「対義語は白眼」
「白い眼で見るってことか。なるほどね」
「青は黒って意味らしい。緑も青も黒かよー」
「悔しがるポイントそこかよ」
辞書から顔を上げた佐保。
お姉ちゃんからお下がりで使っているという電子辞書は、ずいぶん使い込まれている。
下キーと戻るボタンが擦り切れて削れていた。
「おまえさ、これ使いづらくないの?」
「うん? この子はわたしの最高の相棒だよ」
「そ、そうか」
佐保が電子辞書を見る目は我が子の如く。
愛しくてたまらない、と言っていた。
きっとこれを振りまけば、男にもモテるんじゃね?
弥生はそう思うが、敢えて言うようなことでもないので黙っておく。
「で、ブルーアイズが」
「ストップ。ぶるーあい、まで打ち込んだら予測変換の三番目にドラゴンがいたよ!」
「何で打ち込んでんの?」
「パソコン?」
「は?」
現実に生きない佐保の発言に、弥生はいよいよもって頭の心配をし始める。
パソコンなんてどこにもないぞ。
試しに手元のスマホで検索してみたら、ぶるーあ、で出た。
まじかよ。
「という訳で。下手に変換すると違うものが出てきて、余計ややこしくなっちゃうの回でした」
「あ、今日はもう終わり?」
「うん。帰ろ」
珍しく、準備が早く終わった佐保である。
机の上の文房具を片付ける弥生を手伝って……。
「おまえの手がややこしい!」
「ごめんなさい!」
手伝えなかった。
頬をふくらませ、口を尖らせ、弥生のやることをじっと見ている。
「なんだよ」
「なんでもないですー」
ケンカ腰に尋ねられたので、目をそらす佐保。
ピューピュー口笛を吹くが、音程は、うん。音程なんて存在しないんだ。
「ほれ、終わったぞ」
「よーし、じゃあ行こう!」
「おまえ、ちゃんと私物持ったか?」
「持ったよ!」
「こないだみたいに、メールで『どうしよ~見なかった~?』とか聞かれても困るからな」
「あ、あれは次の日学校に来たら、机の上にあったし!」
「だから、そういうことがないように探せっつってんの」
「そのたびはご迷惑をかけたようで……」
「いいから探せって。待ってるから」
「ひゃほー! ありがとうございまーす!!」
しばらくして。
なんにもなかったーと報告する佐保を、弥生は時計を見ながら聞いた。
予定の時間は過ぎてしまったが、次来るまで30分もある。
多少佐保がもたもたしても、十分カバーできる時間だ。
そう判断して、弥生はちゃんと荷物を掴んだ。
「じゃあ行くぞ」
「あのね、あのね」
「なんだよ」
「うーん、いいや」
「なんだよ、気になるな」
「くだらないことだけどいい?」
「じゃあいい」
「ええっ!?」
思った通りの反応を返してきた佐保に、笑みが崩れる。
「なんだよう。笑っちゃって」
「さっきのくだらないこと、言ってもいいよ」
「マジで? あのね、ホワイトアイズブルードラゴンはいないらしいよ」
「それ、マジでくだらないな」
「うむ!」