ことわざコラム01
以前、活動報告で掲載したものです。(活動報告のほうは非公開に設定済み)
内容はことわざについての雑談とか、英語のことわざを簡単に作る方法なんかを紹介しています。
「こんにちは。わたし佐々木 佐保だよ」
「やあ。わたしの名前は光岡 弥生だ」
黒髪を垂らした女の子が二人、どこか虚空を見つめながら、ペコンとお辞儀をした。
肩にかかるくらい長い髪をしているのが弥生、ボブが佐保だ。
「ん? おまえ苗字変えた?」
「そんな髪型変えた? みたく気楽に言わないで」
二人は『2to2』という小説の登場人物だ。
訳あって、更新停止の検索除外中の身であるが、こうして表舞台に立てたのだ。
いつか更新してくれる日もあるのではないだろうか。
「その条件じゃ無理だろ」
「ちなみに、わたしの苗字が違うのは単に忘れていたかららしい」
「ちゃんと調べろよ……それくらい作者なら簡単だろ」
「忘れていたというのが、どれだけ放置されているかを物語っているよね」
二人とも、そろそろ本題に……。
「しまった、出番外されちゃう!」
「そんなでっかい声で言わんくても分かっとるわ!」
◆しばらくお待ちください◆
「今日取り扱うのは……」
「その前に、一応おめでとうと言っておこうと思う」
「なんで? 今日、誰か誕生日だったっけ?」
佐保が首をこてんと横に倒した。
それだけなら可愛らしい姿なのだが、頑張って首を肩と水平にしようとしているので、恐ろしい形相になっている。
佐保ちゃん、ファンが逃げて行ってしまいますよ。
「いや、これは書いている人にな。エタらなくて良かったなビームを発射して、少しは好感度を稼いでおこうという作戦だ」
「せこい。せこいよ、弥生! 昔はそんなキャラじゃなかったのに!」
清き、鋭きツッコミを飛ばしていた弥生サンも、長年の放置によって少し変質してしまったらしい。
だが、本領を忘れた訳ではないようだ。
赤裸々な佐保のセリフにさっそくツッコミを入れている。
「次の出番がいつか分からないだろ!」
「そんな八つ当たりみたいに言われても!」
「八つ当たりだよ!」
「ツッコミじゃないの!?」
赤裸々な佐保のセリフにさっそく八つ当たりを敢行している。
「地の文まで変わっちゃったよ!」
「じゃあ、これから本題に入るけど……」
言ったらスッキリしたのか、すっかり憑き物が落ちた弥生は何気なく話を進めようとする。
佐保がまだなにか言っているがスルーだ。
「正直、ことわざなんか分かりやすさ第一なんだから、ここの英語使うより、自分で思いついたヤツ使ったほうが健全だよね」
「なぜ、全否定から入ったし」
ことわざ辞典は、普通にことわざを検索するときにも役立ちますよ。
総数は少ないけれど。
「まあ、もっと直接的な訳で良くね? と思うところは度々あったけども」
「佐保、なんかことわざ一個言ってみて?」
「うわ、無茶ぶり。じゃあ、『過ぎたるは猶及ばざるが如し』」
無茶ぶりに無茶ぶりで答える佐保さん、素敵……!
たぶん、ギャグ小説なら許されたオチだったろうが、残念、ここはコラム。
あと、話の終わりもまだまだ先だ!
しばし停止してしまった弥生さんに罪はないだろう。
「もうちょっと簡単なのでお願いします」
「弥生、ちょっと卑屈になった?」
「よし、分かった。役割を交代しよう」
「いいよ」
いいんだ。
「じゃあ、弥生がことわざ探してくる役ね」
「オッケー。まずは、『犬も歩けば棒に当たる』とか」
「ドッグゴースティックあぶない」
「最後、日本語まじってるけど」
「で、デンジャー」
「これは……ドッグとスティックでかろうじて分かってもらえるレベルか」
『棒取ってこい』にも思えますね。
それとも、最後のデンジャーで分かるかしら。
「次。『矛盾』」
「矛と盾ね。スピア・シールドとか」
「カッコいい装備だな」
どこのゲームをやれば手に入りますか?
エンピツと消しゴムで、スピア・シールド! とかやってる佐保は置いていくので。
「二字熟語の故事だと考えやすい感じ?」
「まあ、高校生レベルの英語だし……数は少ないほうが楽っちゃ楽じゃね?」
「質問を質問で返すなー!」
「質問には最初のほうで答えてただろ!」
「ぐべあ」
佐保が弥生の拳によってあっけなく倒れた。
弱い。弱すぎる。
「次いくよ、次。『瓜二つ』」
「二字熟語じゃないじゃん! ウリ……ウリ……ウリって何て言うの?」
「これは、せっかく調べても、読んでる人のほうが分からないかもね」
「ウリって何て言うの?」
「G先生に聞いて」
連れない弥生の反応に、佐保はがたんと椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
くわっと口を大きく開けると、佐保は怒鳴る。
「わたしより英語の成績いいくせに! なんで教えてくれないの、ケチ!」
「わたしも知らねーんだよ! 察しろ!」
「ごめん」
「うん」
事情が分かればいつもの仲良しペアである。
佐保が素直に謝ったので、何事もなかったかのように話は進む。
「次、『陰弁慶』」
「え、ええっとシャドウ・ベンケイ」
「どこのゲームの敵キャラだよ」
「たぶん、和風アクションゲームの中ボス。橋の上にいて交通を邪魔してくる。かなり強い」
「やな敵だな」
風に乗った二人は高速でお題を決めて、次へ次へと進んでいく。
「『佳人薄命』!」
「四字熟語!? えーあれだ、ビューティフルノーライフ!」
「ちょっと違くないか、それ」
「いいから、次、次!」
「じゃあ、『金が敵』」
「熟語じゃないじゃん! マニ―イズエネミー!」
「なかなかやるじゃんか。なんか"the"とか"a"が足りない気がするけど、伝わればオッケーだ」
「ふふん。一応、一番できるクラスに所属しているだけはあるのだよ」
「調子乗んな」
「次は『漁夫の利』な」
「漁夫……フィッシャーオブ……」
「オブ? というかフィッシャーって釣り人だぞ、太公望だぞ」
「じゃあなんて言うの?」
「ごめん、辞書にフィッシャーマンって書いてあった」
「おい」
「次行きまーす。『空中楼閣』」
「あ、これ知ってるよ」
「なんだよ。もったいぶらず言えよ」
「弥生さんこわーい。これは、ラ〇ュタでしょ!」
「あかん」
「お、久しぶりの二字熟語。『蛍雪』」
「蛍……って最近調べた気がする」
「ああ、長文の訳で出てたからじゃない?」
「あれね! じゃあ、バグ・スノーだ」
「ファイアフライ・スノーでもいいか」
「『犬猿の仲』。これは簡単だろ」
「ドッグ・モンキーだね!」
「仲はどこいった」
「いやだなあ、分かんないからスルーしたに決まってんじゃん!」
「いま、イラッときたわ」
「そう? わたしイラッとさせれた?」
「うん」
「じゃあ最後な。『光陰、矢の如し』」
「ライトダーク・ライクアロー!」
「なんかそれっぽいな、後半」
「このぐらいの英語知識ならギリギリあった」
「おまえ、受験大丈夫?」
「しんぱい」
◆しばらくお待ちください◆
クールダウンして、お茶を飲む二人。
弥生は学校の自販機で買ってきたレモンティー、佐保は家から持ってきた麦茶だ。
「ぷはあ。これだけ例を上げたら分かるよね、たぶん」
「わたしは、おまえの英語力のほうが心配だよ」
「なぬ? いいんだよ。英語とかないAO推薦で行くから」
「受かるといいな。お互いに」
「弥生ちゃんも頑張るのだー☆」
「今、イラッときたわ」
「やだ、今度はガチでイラッときてるみたい」
佐保は自分の身が危うくなったのを察し、颯爽と席を立つ。
できなかった。
机の足に転んだ佐保は、派手な音を響かせながら倒れ込む。
さすがの弥生も、怒りの姿勢を解いて、佐保に駆け寄った。
「おい、大丈夫か」
「わたしが死んだら、抹茶プリンを墓に備えてくれ。毎日」
「毎日とかないわー」
案外元気なことが分かって、弥生は一安心。
わざとぞんざいに振舞ってポーカーフェイスを気取ります。
しかし、二人は長い付き合い。
弥生の様子がおかしいことに佐保も気付いた。
「あれ、弥生照れてんの?」
よっこらせと言いながら、佐保は上体を起こす。
おしりや背中のほこりを払って、これまたどっこいしょと言いながら椅子に座ったが。
待っていたのは、弥生の冷たい言葉だった。
「うっさい、だまれ」
「うぇい! 弥生さんのツンデレ台詞いただきましたっ!」
「ツンデレじゃねーよ」
「そういうとこもツンデレ」
佐保が言い終わる前に、弥生は動く。
さきほども繰り出した、鋭いパンチ!
佐保は承知していたように、触れる前から倒れ始める。
さっき払ったばっかのほこりの中に埋もれる佐保。
くしゃみも飛び出した。
「ふげーやられたー」
「舐めてんのか。当たってないだろ」
「ええー? こういうの弥生ちゃん嫌い?」
「ちゃん付けはやめろ」
弥生の本気の嫌がりように、佐保は残念そうな顔をしながら口を閉ざす。
「じゃ、そろそろ時間だね」
「あ、ほんとだ。今日も駅まで歩くのか?」
「いや、今日はおかんが迎えに来てくれるから、コンビニで待つ」
「あ、そう」
佐保は細心の注意を払って腰を上げる。
さっき二度も、一つは自分からであったが、転んだことを気にかけているのだろう。
弥生は机に散らばったペンや電子辞書をカバンにしまっている。
カバンを先に肩にかけたのは弥生のほうだった。
佐保は、なんかこう、もたもたしている。
「じゃ」
「ちょっと待って、校門まで一緒に歩こうよ!」
「昨日も歩いたじゃん……」
「す、すぐ終わるから! ここが片付いたら行けるから!」
「ちょ、おま、慌てるとまた転ぶぞ……!」
乱暴に掴んだペン類は二、三本床に落ちる。
それに気づいた佐保は、机の向こう側に手を伸ばし――。
転ぶまえに弥生が押しとどめた。
「分かった分かった! 拾ってやるから!」
「弥生さん、超やさしい!」
「また調子に乗りやがって……」
少女たちの声が校舎内に響いていく。
果たして弥生は時間に遅れることなく、電車に乗れるのだろうか。
そして、佐保は。
三度目の転倒を回避することができるのだろうか。