それがきっと恋だった。
Twitterの140文字小説のお題で書いた物を膨らませました。
家が近所で、小さい頃の登下校からクラスまで同じだったあいつを、きちんと女子だと、女の子だと認識したのはいつだったんだろう。
猛暑猛暑と言われたある日、夏服が汗で張り付いて目のやり場に困っていたあの時、停まっていた車のボンネットの熱。
「……目玉焼きが作れそうだな……」
「あー……なんかテレビで実験してたけど、焼けるらしいよ。私、半熟ね……」
二人して舌を出して歩いていた帰り道。ふと、手でパタパタと自分を扇ぐあいつの胸元に、思わず目を留めてしまい、そしてそんな自分の気恥ずかしさを隠す様に、俺はあいつの手を握ってコンビニに走った。
「わー、天国だねー」
何も気付かず赤い顔してるけど、俺もきっと真っ赤だったと思う。そしてその場で俺の財布から逃げたお金がアイスになり、二人で一個を食べたのだった。味はあんまり覚えていない。
大学もあいつと一緒だった。二人共合格した時に、家から離れた大学で、知らない人だらけじゃないって事に、安堵した覚えがある。
でも、お互いなんだかんだ忙しくしてて、久々に学内で出会って、喫茶店へ行った。
「でさ、パンキョーの講義中にさ……、どうした?」
ふと、あいつが相槌を打ちながら、目が何かを追っているのを見た。意外とこういう時は話聞いてないんだよねとその先を見ると、親子連れが離れた席に座ってデザートを食べているのを見ていた。
「……たまに実家帰りたくなるし、無性に寂しくなるよね。こういうのが大人になるってことなのかな……」
と、おいてけぼれにされた様な顔をしたのを見た時。思わず腕をつかんで「俺がいる」と言いかけた。手にコーヒーカップを持っていなかったらきっとしていた。でも、同時に俺の柄じゃないと、俺はコーヒーを飲み下しながら、そうだなとだけ呟いた。
照れなのか、踏み込みたくなかったのか、ただ単に俺に勇気がなかったのか。コーヒーはいつもよりも苦く感じた。
気持ちを止められなくなったのは、学祭の後夜祭の夕べだった。盛り上がった後の大量の不要品。校庭に集めて一気に燃やす。火事にならないかと心配になる位なんだが、その辺りはしっかりしているらしい。
三々五々、小さく影が見える中であいつがいた。何人かが声をかけようとしていたのを押しのけて、俺が横に行く。横に来たのが俺だと気付いて少し見つめ、また火を見つめる。俺も何も言わずに火を見る。
静かに、火が弱まって、寒くなり始め、そして暗くなって。その最後の明かりの中で目が合った時、俺はもう止まれなかった。気付けばあいつの吐き出す息を全部吸い込むみたいに、あいつの口を、唇を奪っていた。
「本当……遅いよ……ばか……」
「四半世紀もかかってないだろ」
そんな俺の言葉に、あいつは、また馬鹿と言いながら、俺の口を塞ぐのだった。
◇◇◇
あまりの暑さでとろけそうな日。あれはいつだっただろ。
近所の幼馴染で、クラスもずっと同じだったアイツと、私は炎天下を歩いていた。横には黒いボンネットが灼熱な感じで、思わず目玉焼きも焼けそうだなーと思っていたら、アイツも同じ事を思ったのか、そんな事を言い始めて。
「……目玉焼きが作れそうだな……」
「あー……なんかテレビで実験してたけど、焼けるらしいよ。私、半熟ね……」
熱でだいぶ頭が溶けていたらしい。そんな話をしていたら、一気に暑さが増した気がして、思わず夏服をパタパタと扇ぐ。そしたら、それを見たアイツが必死になって顔をそらしながら、私の手を握ってコンビニまで走り出した。
四十度近くある気温よりも、ずっと熱く感じるアイツの手。冷房のよく効いたコンビニの中は、天国みたいな涼しさで、でも、それよりも真っ赤になった私の顔を見られたくなくて、何だか馬鹿な事を言った気がする。
アイツがいつも制服のお尻のポケットに入れてる財布を奪ってアイスを購入。勿論優しい私は一つしか買わない。半分食べたから渡したけど、間接キスなの気付いたかな……。ずっと私から目をそらしてアイツが、何だか可愛いなって思って胸が痛くなった。そんな夏の思い出。
アイツと大学が同じだった。というか、私が同じ場所にした。知らない土地で一人暮らしだー! というのも憧れたけど、やっぱりちょっと怖かった。それに、なんていうの? ほら、アイツ結構抜けてるから、ほっとけないっていうか、あるじゃない?
でも、同じ大学だけど、学部が違ったりすると中々会えない訳で、久しぶりに学内であった時に、行ってみたい喫茶店があったから誘ったんだ。今思うと、口実だったのかなぁ。
「そうなんだー。でもさ、あの教授の教え方ってさー」
話してると、何だろう凄く安心する。だけど、少し陽に焼けてたくましくなって、ちょっと遠くなった感じがして、何だかすごい不安になる。私だけいつまでも子供の様な。
ふと、目線の先に親子連れ。私も小さい頃ああやって家族で食べに行ったりとかしたなぁって、ちょっとホームシックな気分に。
「……たまに実家帰りたくなるし、無性に寂しくなるよね。こういうのが大人になるってことなのかな……」
アイツが何か言おうとして、変な間があって、でも何も言わなくて……。何をためらったんだろう。でも、何故かオロオロしてるその姿が昔通りで私は笑っちゃった。――安心する。
学園祭の最後は、不用品を校庭で燃やす。まさに祭りのあと。
大きな荷物を運んでそこに持っていく間に、いったい何組のカップルを見たんだろう。私も何人かに声をかけられたけど、全部断った。私の横はもう決まってる。
校庭で大きな火が、キャンプファイアの様に上がり、ぱちぱちと火が爆ぜる。その周りを何人もの人が静かに見ていた。そんな中で、アイツがすっと私の横に来る。――遅いんだから。そう思いながらも、また火に目が奪われる。
段々と火が消えていき、夏の終わりの夜は段々と寒くなっていき、そして暗くなっていく。少し寒くなってきたかなと思って、そろそろ戻ろうとした時にアイツにいきなりキスされた。――びっくりした。でも、アイツならヤじゃなかった。そして、今更ながら自分の気持に気付きつつも、言ってこなかったアイツにも、何だか勝手に私は怒りが少し。
「本当……遅いよ……ばか……」
「四半世紀もかかってないだろ」
こういう時ばっかり、口が回るんだから、そんな事を考えつつ、今度は私が唇を奪うのだった。
140文字小説のお題
◇相手をかわいいな、と思ったのはあまりの暑さにぱたぱたと手や服をあおいでる時。
恋に気づいたのは、ふと寂しそうな顔を見せられた時です。
気持ちを止められなくなったのは、見つめられた時です。
以下、140文字ずつです。元のがそのまま発展しています。
1☆
あいつを可愛いなと感じたのは、目玉焼きが焼けそうな程熱くなった車のボンネットの真横で、「あつい〜あついー」と舌を出してパタパタと扇いでいた時。すぐにコンビニに連れてったら「天国じゃー」と喜んでいた。その変わる表情に、普段見慣れているはずなのに、なんだかふと感じた。
2☆
恋に気付いたのは二人同じ大学に入り、久々に喫茶店でお茶していた時、親子連れを見て「…たまに実家帰りたくなるし、無性に寂しくなるよね」と、おいてけぼれにされた様な顔をした時。思わず腕をつかんで「俺がいる」と言いかけて、自分で柄じゃないと珈琲と一緒に言葉を飲み込んだ。やけに苦かった。
3
気持ちを止められなくなったのは、学祭の夕べに、何となくお互いに不要品を燃やす焚き火をみながら、ふっと見つめあった時。気付いたら口はあいつの口を塞いでた。息を全部奪うみたいに。「遅いよ……ばか……」「四半世紀もかかってない」その後は、足りない寒さを補い合う様に二人抱き締めあった。