第二話「就職先」
なんか一話だけで終わりそうだな、って物語を書いておきながら自身で思っていましたが、何とか無事に二話も投稿できました。
この調子で三話も投稿できたら、と思います。
三日坊主ならぬ三話坊主にならないようにこれからも努めてまいりますので、よろしくお願いします。
厳しい意見もどんどん下さいな。
それでは、本編お楽しみください。
両手を差し出されて僕と全助は急いで手をとって握手をした。
鴉羽……鴉羽……どこかで聞いたことがある……。
自分の脳内の軍事知識をフル回転させてその単語を目録の中から探していると、ヒットした。
(鴉羽六道って日露戦争で激戦区の二〇三高地を無血で進んだという伝説のある八咫烏部隊の隊長じゃないか!)
そんなこんなで心の中は驚きと興奮でぐちゃぐちゃになっていた。
そんな僕の顔の変化に全助は気付いて、
「おい平太、おまえどうしたんだよ?」
と言って俺の脚を膝でつついた。
ハッとして、この状況を整理し、
「いや何にもないよ、ただ超がつくほど優秀な大日本帝国陸軍陰陽術特殊部隊のトップがわざわざどんな理由で僕達落ちこぼれ陰陽力の持ち主にお話に来たのかなと思ってね。」
わざわざ馬鹿にしに来たのかよ、という心の中の卑屈さが多少言葉に棘を含ませて僕の口から出た。
「おい!おまえ失礼だぞ!すみません、こいつはまだ礼儀知らずの子供ですから。ほらっ!あやまれ!」
校長は余程体裁が大事なのか必死に謝りながら俺達にも謝らそうとしてきた。
「いやいや、この状況でそう感じるのは自然なことです。こちらこそ申し訳なかったな平太君。」
「いえ、自分の子供じみた発言が悪いんです。すみません。」
寛容に微笑みながらこういう鴉羽さんに、僕は若干の申し訳なさを覚えて謝罪した。
「あのーそろそろ本題に入った方が……。」
藤原がこう言うと、鴉羽さんは、
「確かにそうだ、時は金なりという言葉もあるからね。それでは、本題に移ろう。」
そう言うと鴉羽さんは暫く黙り込んでその後口を開いた。
「平太君、全助君。うちの部隊に入らないか?」
場が凍りついた。
何言ってるんだこの人は、と。
「ちょっ……ちょっと待ってくださいよ!俺達の陰陽力くらい知ってるでしょ!どういうつもりなんですか?!」
全助は気が動転して大きな声で鴉羽さんに言った、僕も漏れなく動転してボーッとしていた。
「軍事機密なのであまり理由は話せないが入ったら話してやれるよ、君たちの事だ……どうせろくに就職先も無いんじゃないのか?」
ククク……と笑いながら鴉羽さんは俺らにその通りの正論をぶつけてきた。
そう、俺らは前述の通り就職先はない。
それなら就職先が見つかって良かったじゃないか!
そう単純には物事を捉えられなかった。
何か裏があるな……そう怪しんでまた思考の沼にハマっていた……。
鴉羽さんはそんな自分の様子を察したのか、
「裏があるだろうと思ったろ?まぁ有るよ。だけど君たちにとって決して悪条件じゃないはずだ。」
といった。
そんな様子を見て校長は、
「いやいやいや、行ったほうがいいよ!諸行君!無常君!これで君たちの生活も安泰だな!ガハハハハ!」
これには、
「(アンタの学校と地位が安泰だ、の間違いだろ…。)」
と心の中で思った。
全助もそう思っているのか眉をひくつかせながら苦笑いしていた。
そんな時だ、担任の藤原先生が言った。
「お前たちの好きにしろ。それに就職先の事は心配すんな、俺がちゃんと紹介してやれる。ま、真面目に残りの学校生活を送れば、の話だが……。」
普段の頼りなさから一転、先生が何だか頼もしくなった。
そんな僕達にさらに鴉羽さんが追い打ちをかけてきた。
「んんー。一応天室の命令でもあるんだよな……。困ったなこれは。」
わざとらしく言う鴉羽さんの顔は歴戦の兵士と言うとよりは外務省官僚の交渉を見ている感じだった。
「て……天室ゥ?!」
鴉羽さん以外の4人は驚いた。
それはそうだ、天室と関わるなんてこの国の人口の1%にも満たないのだ。
「どどど……どーゆー事っすか!天室の命令って!」
「まぁまぁ、落ち着け。これから先の話は入隊してからだ。」
興奮と驚きから全助が大声で質問するのを、鴉羽さんはひらりと闘牛士の様に躱した。
「どうする?入るかい?」
鴉羽さんはもう一度質問した。
天室の命令……それはこの国の歴史及び伝統上逆らえるものでは無い。
時代が時代なら逆らえば命が消える程の重い勅命なのだ。
僕は頭の中を整理した。
壱:就職先としては最高。
弐:但し、裏がある模様。
参:生活には困らないしこれからの人生安泰。
肆:不純な動機だが女性には困らない。
これら四つの事を考慮するとマイナス点が圧倒的に少ない。
(それでも不安だ……。)
なんて事を考えていると、
「俺は入りますよ……。」
全助が言った。
「おい!しっかり考えたのか?!お前だけの問題じゃないんだぞ!家族がいるだろ!」
僕は思わず声を荒げた。
「だからこそだよ!……だからこそ、入った方がいいんだよ。」
全助は言った。
確かにこいつの家庭は現在父親だけが稼ぎを持ってくる。
それに加えて母親は肺を病んで家に篭もりっきり、かかりつけの医師を付けるのに金がものすごくかかる。
かと言って病院に入院させるほどの金もない。
極めつけは妹が生まれつき目が見えないため四六時中誰かがついてなければいけない、という事。
とても一人分の稼ぎじゃ養いきれない状態だ。
奴には入隊する大義名分があった。
「そうだよな、すまん。」
俺は全助に謝った。
「無常君は入隊決定か……、さて諸行君はどうするのかな?」
鴉羽さんは僕に視線を向け、他の三人も僕の方に目を向けた。
(どうする……、俺の家庭は平凡で何ら生活に困ってもない。家族も至って健康。唯一の心配事は自分の就職先が決まらない事だけだ……。)
そうやって考えていると、藤原先生が僕にこう言った。
「そんなに深く考えなくてもいいんじゃないのか?時には時の流れに身をまかせる事もありだと思うんだ。」
「時の流れに身をまかせる……か。」
「そう……行雲流水ってやつだ。」
正直入隊してもいいかな、と思ったが自分にはまだ覚悟が足りなかった。
そして、僕は鴉羽さんにこう言った。
「もう一週間だけ時間を下さい。」
それを聞いた鴉羽さんは、
「あぁ構わないよ。じっくり考えて自分と向き合うといいさ。」
精悍な顔に微笑を含ませて返した。
期限は一週間。
(僕はこの時間でほんとに自分と向き合えるだろうか……。)
そんな不安を抱えて僕と全助は職員室を出た。
第二話「就職先」~完~
明らかになった全助の家庭事情。
迫り来る期限。
そして、平太の前に現れたある人物とは?!
次回も乞うご期待!