農家さん、帰宅できない
早朝、農作業をしようと扉を開くと、
「「「おはよーごぜーます!!姉御たち!!!」」」
三人の盗賊が、土下座をしていた。
理解を超えた現象に、思わず動けずにいると、私が動かないことを不思議に思った魔術師ちゃんが、ひょこっと私の影から頭を出してきたのよ。
「狩人さん、どうしたんで…ぴゃああああああああああああ!!!!」
土下座をしている三人の盗賊の姿に、激しい人見知りの魔術師ちゃんが、奇声をあげて気絶したわ。
その姿を見て、オロオロする盗賊を前に、「あぁ、今日も収穫しなきゃいけないものがたくさんあるのに」と思っている自分は、もう中々に農家じみてきたな、と呆れたものよ。
盗賊たちから事情を聴くため、魔術師ちゃんを寝室のベッドに移動させた後、直売所へと行ったわ。
そこには、簡易な椅子と野菜を並べる用の低いテーブルがあったからね。
ゲームだから衛生面なんて関係ないから、盗賊たちにテーブルに座る様に勧めて、私は椅子に座った。
「それで、何があったの?」
「俺たちは盗賊をしていたのさ」
「この村と隣の村の間の街道付近の茂みに隠れて、弱そうな旅人から金品を巻き上げていたのさ」
「でも、ロバを連れた農家さんに説教されて、心を入れ変えたのさ」
まるで、練習でもしていたかのように、三人は順番に説明してくれたわ。
その後も、詳しい話を聞こうとしたんだけど、どうにも要領を得ない話ばかりで、「ゴボウくれた!「握り飯くれた!」「ロバ可愛かった!!」くらいしか情報が得られなかったのよ。
「ゴボウを持って、護衛の手助けしようと立ちふさがった」あたりで、聞いててばからしくなったわ。
「とりあえず、農家さんに言われて、畑の手伝いをしに来たのね」
「「「はい!!」」」
「っていっても、会ったばかりで、しかも盗賊のアンタたちの話をいきなり信用するのもね…」
農家さんの畑は、恐らくこのゲーム屈指の大農園だ。
収穫するのを手伝うように見せかけて、作物を盗まれたり、結構高い農耕具を盗まれたりするのは、この農場を任された身としては、見過ごせない。
「せめて、農家さんからの了承を証明できるものがあればいいんだけど…ん?」
この時になって、ようやく私は自分の視界の右端に、『メッセージがあります』というメッセージを見つけたのよ。
メッセージをタップして、開いてみると
『プレゼントを贈った』
「情報少なすぎるわあああああああ!!!!」
叩き割らんばかりの力を入れて、『返信』ボタンを押したわ。
盗賊たちは、いきなり激怒した私に、ビビッていたけどそんなのに構ってられなかった。
『プレゼントって、まさか盗賊のことを言ってるんじゃないんでしょうねえ?!』
素早くそう打って、送信。
魔術師ちゃんをベッドに運んだり、盗賊を直売所に待機させて、朝に収穫しなきゃいけない野菜だけ収穫してたから、結構太陽は昇っていたわ。
それでも、人によっては早朝って時間帯だったと思うけど、農家さんが他の村に行ったからと言って、寝坊するとは思えなかった。
実際、農家さんからの返信は、5分後に届いたわ。
『はい』
二文字!!!
前の「建てた」と比べても、一文字減ってる!!
やりきれない怒りを飲み込みきれず、盗賊たちを睨みつけると、情けない悲鳴を上げたわ。
その姿に、少し冷静さを取り戻したわ。
「農家さんからメッセージが来たわ。あなたたちのいうことは、あながち間違ってはなかったみたいね。それじゃあ、農作業を教えるから、ついてきて」
「「「うっす!!」」」
返事だけは良い三人の盗賊たちに、収穫方法や種まきを教えると、彼らはすぐに戦力になったわ。
やっぱり、人数がいると楽よね。
気絶していた魔術師ちゃんも目が覚めて、まだ慣れない盗賊たちから遠い所で、水まきをしていたわ。
事情を聞いていて、タイムロスしていたけど、なんとか午前中に午前中の作業を終えたわ。
「魔術師ちゃん、そろそろ人になれないと…」
昼休み中も、私の影に隠れて盗賊たちを極力視界に入れないように頑張っている魔術師ちゃんに話しかけると、彼女はプルプルと首を高速で横に振ったわ。
「無理です!特に、男の人は無理なんです~!」
そんな様子に、さすがの盗賊たちも萎縮して、出来るだけ距離をとってあげていたわ。
「でも、農家さんは平気なのよね?」
「だって、農家さんは特別ですから…」
言葉だけ聞くと、恋する乙女みたいだけど、その意味は「農家さんは男の人とかいう前に、そういう生き物」ってことよ。
これは、慣れるまでに、時間がかかるな。って全員が思ってたわ。
でも…
「あ、ちょっと違うってば!そうすると、断面が斜めになるでしょ!!あ、そこも違う!!結びが甘い!!あー!せっかくのお米が落ちてる落ちてる!!無意味に振るわないの!!!」
米の収穫の際、魔術師ちゃんの怒号は鳴りやまなかった。
農家さんの畑を任せられる前から、ある程度収穫を手伝っていた私はまだしも、本当に初心者な彼らは慣れない作業に、手間取っていたわ。
その様子に、人見知りな魔術師ちゃんも見ていられなくなったみたい。
「考えてみれば、あの子も長いこと農業してたわね…」
「ああああもう!!それも、違う!!」
一番の問題だった魔術師ちゃんと盗賊たちの関係も改善され、人でも増えたことでお米の精米までたどり着けたわ。
そのことを、農家さんに報告すると、思わぬ内容の返信が返ってきた。
『すまない。事業に関わることになり、まだ帰れそうにない』
あの人は、一体何をやっているんだろう…。
その答えを知る者は、ここには誰一人としていなかった。
・・・って、もうこんな時間なのね。
ごめんなさい、そろそろバイトの時間なの。
その後の話は、また今度させてもらうわ。
・・・うん、その日なら空いてるから大丈夫よ。
ちょっと日が空いちゃうから、その間に他の人に取材してみれば?
記事、楽しみにしているわ。
それじゃあ、またね。
狩人さん側の話は、ここでいったん終了です。
また、他の人の話を聞いてから、彼女に話を聞くことになるでしょう。