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農家さんがデスゲームを解放した件について  作者: 夏南
狩人さんによる話
8/22

農家さん、プレゼントを贈る

 農家さんは、貿易の交渉を行うために、護衛の男の子を連れて村から旅立ったわ。

ここに残されたのは、魔術師ちゃんと広大な畑、……そして分厚い説明書。

こーーーんなに、分厚い農作業に関する説明書を置いて行ったのよ!!

鈍器か!!って最初渡されたときは、叫んじゃったわよ。


 『シャロン』では、ゲーム内で、打ったメッセージをちょっとした書物の形でオブジェクト化できるわ。

今までの話で想像できる通り、農家さんはキーボードを打つのが遅いから、魔術師ちゃんに頼んで代理で打ってもらったらしいわ。

それでも、書くのに合計15時間かかったらしいわ。


「目がしばしば、します…」


 ゲーム内では、そんなバッドステータスはなかったはずだけど、魔術師ちゃんはそう愚痴を漏らしていたわ。

でも、そのおかげもあって、知識の面で農作業に困ることはなかったのよ。

ただ、『毎朝、四時半行動開始』っていう文には、くらっときたわ。


 少しでも睡眠時間を確保するために、自分のプレイヤーハウスじゃなく、農家さんのプレイヤーハウスに魔術師ちゃんと一緒に寝泊まりしたわ。

それでも、朝はつらかったけどね。


 農家さんの畑は、きれいに区画で分けられ、その間を用水路が巡る、管理しやすい土地になっていたわ。

本来なら、スプリンクラーをつけたいところらしいんだけど、あのゲームには存在しなかったからね…。


 そのスプリンクラーの代わりをしていたのは、魔術師ちゃんよ。

…ええ、魔術師ちゃん、魔法を農作業に使っていたのよ。

そのことを指摘すると、涙目で


「それは言わないでください!最近、威力よりも器用さの方があがってるんですよ?!」


 って訴えてたわ…。

魔術師ちゃんも、農家さんに拾われてからずっと農作業を手伝っていたみたい。

真剣な顔で作物を睨みつけながら、作物が傷まない威力で『スプラッシュ』を行使する姿は、もう職人の域よ。


 だから私は、水まきを魔術師ちゃんに任せて、いたるところで収穫期を迎えた作物を収穫していたわ。

あの時ほど、アイテムストレージがあってよかったと思った時はないわね…。

農家さんの手で育てられた作物は、たくさんあって、しかも一個一個大きくおいしそうだけど、それだけ量も重量もある。

毎朝空にしたはずのアイテムストレージが、すぐにいっぱいになって、農家さんが購入した籠と小輪車を使って収穫し続けたの。


 いつもより早く起きたはずなのに、収穫だけで午前中が終わって、魔術師ちゃんとお昼ご飯を食べてから、次は直売所で『物々交換』に応じる。

魔術師ちゃんは、ちょっと人見知りなところがあって、接客業に向いていないから、その間に、収穫して更地になった――ゲームだから、収穫するとすぐにキレイな状態になるのよ――畑に、農家さんに言われた品種の種をまいて、品種に合わせてまた『スプラッシュ』していく。


 青空に、魔術師ちゃんの『スプラッシュ』による虹がかかる様子を見ながら、お客さんと


「スプリンクラーちゃん、今日も調子いいね!」


「きれいですねぇ…。あと、可愛そうなんで、魔術師ちゃんのことをスプリンクラーって呼ばないで上げてください」


 って会話をしながら、説明書に書いてあった『相場表』通りに、『物々交換』を終わらせたわ。

…その後の作業が、一番地獄だったわ…。


「あーもう!腰痛になるわ!!!」


「狩人さん、このゲームに腰痛ってバッドステータスはないですよ?」


 稲刈りよ。

農家さんの広大な土地の約半分は、田んぼになっていたのよ。

しかも、ちょうどあの時の季節は、秋。

収穫期真っ只中よ。


 米作りに関しては、ゲーム開発者は何をトチ狂ったのか、色々と細かかったわ。

他の作物とは違って、作るのに春~秋までかかるし、収穫もタップじゃなく、鎌で刈らなくちゃいけない。

一束一束、鎌で刈っていくなんて、時代錯誤よね!!!

人生で初めて稲刈り機を渇望したわ!!


 しかも、ゲーム開発者は、何をこだわっているのか。

お米に関しては、天日干し、脱穀、籾摺り、精白しなくちゃ『白米』にならないのよ!


「本当、なんでこだわっているのよ!いいじゃん、狩りみたいにアイテムストレージに自動で『白米』を入れれば!!」


「でも、お米だけじゃなくて藁や米糠、籾まで手に入るんですよ!私、糠漬けの糠を初めて見ました!」


 そう嬉しそうに言いながら、ミスタップなく藁を出して、稲束に巻きつけてぐるんぐるん回す魔術師ちゃんは、ずいぶんと農家さん寄りの人になっちゃったなぁ…と思ったものよ。


 ちなみに、ゲームで育てられるお米の種類は、詳しいことは分からないけど『晩稲』っていう10月ごろ収穫を迎えるものらしわ。

農家さんも、ゲームのグラフィックでは種の状態では、どの品種か分からなかったみたいね。

貿易を始める時期と、収穫期がかぶったことを、申し訳なさそうにしていたわ。


 実際、結構この作業が大変で、どう頑張っても脱穀までたどり着けなかったの。

天日干しされている稲束が溜まる一方で、どうしようかと悩んでいたわ。

そんな日の夜中、農家さんからメッセージが届いたの。


『プレゼントを贈った』


 フレンド登録している人には、どこにいてもメッセージを送ることができる。

字数制限はあるけど、確か、100字だったはず。

間違ってたとしても、どんなプレゼントなのかを記載するだけの文字数はあったはずよ。


 夜中に贈られたそのメッセージに気が付いたのは、翌朝、プレゼントとやらが届いた時だった。

その日も、農作業をしようと扉を開くと、


「「「おはよーごぜーます!!姉御たち!!!」」」


 三人の盗賊が、土下座をしていた。

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