農家さん、協力を乞う
デスゲーム開始から半年。
物々交換をきっかけに、農家さんと仲良くなってきたころ…
「そろそろ貿易を始めようと思うから、手伝ってほしい」
意味の分からない提案をしてきた。
その日も、いつも通り農家さんと物々交換をしようと、農家さんの直売所に立ち寄ったら、「話がある」って言われて、家に招待されたのよ。
私は、出されたお茶を飲みながら、必死に農家さんの言ったことを理解しようとしたわ。
「貿易って…具体的になにをするつもりなんですか?」
「物々交換を始めてから、村は発展した。そのおかげで旅人も多く訪れるようになったんだが、彼らが言うには、ここほど発展した村はないそうだ」
農家さんの言う通り、物々交換のおかげで村は発展したわ。
…って発展のシステムについて、知ってる?
……知らないわよね。デスゲームの解放条件と合わせて説明するわ。
最初に説明した通り、このゲームでは村を発展させることができるわ。
村の中心部、あのデスゲーム開始を宣言した場所『時を告げる塔』の根元は、役場になっているのよ。
そこに、プレイヤーは『納金』することができるのよ。
この『納金』が一定額を超えると、村がグレードアップする。
具体的には、NPCの数が増えたり、一晩で村にある木造建築を石造りの建物に建て替えたり、土を押し固めただけの道が、レンガやタイルの道に作り替えたりするのよ。
――各村の『納金』の合計金額が1000億ギルになること。
これが、私たちプレイヤーに課せられたデスゲームの解放条件よ。
農家さんと私が始めた物々交換のおかげもあって、私たちの村は3段階グレードアップしていて、もう『村』というよりは『町』といった方がいい規模になっていたわ。
それは事実だったけれども、だからといって農家さんの言う貿易と結びつかなくて、首を傾げたわ。
「出会った旅人たちに物々交換の話はしたが、彼らはみな口をそろえて難しいといった。近くにある村の周りは、森が多く農業をやっている人が少ないそうだ。みな、狩人やモンスター退治人だから、同じようなものを持っているから物々交換にならないそうだ」
最初にプレイヤーに与えられる土地は、すべて同じって訳じゃないのよ。
私の所有地は平地よりも森の方が多い土地で、農家さんは平地が8割、森が2割の土地、みたいにね。
川や山といった大きなオブジェクトがどれほどあるかっていうのも、村によって違うわね。
私たちの村は、ちょっとした山と近くに川があるけど、大体が平地で狩りや、農業がしやすい環境だったわ。
旅人たちの話によると、隣の村は、山間に位置しているらしいの。
「農家さんは、そんな彼らの生活が心配らしいんですよー」
もうすでに魔術師ちゃんは、農家さんに丸め込まれて賛成していたわ。
……あ、いきなり魔術師ちゃんを出しちゃったわね。
魔術師ちゃんっているのは、農家さんが拾った女の子よ。
栗毛のふわふわっとした髪と、おっとりした人のよさそうな顔立ちの女の子よ。
年は、14だって言ってたけど、背が低すぎてはじめは小学生かと思ったくらいよ。
…あと、農家さんってロリコン?とも思ったけど、まぁ、娘としてしか見てなかったわね。
『シャロン』は、一応『魔法』って存在があるのよ。
もちろん、武器屋には杖が売ってあるけど、農家ほどじゃないけど、これもあまり人気がない職業ね。
魔法を使うってことは、MP、マジックポイントを消費するのよ。
MPは時間経過で、ゆっくりと回復はするけど、大体は『MP回復薬』が必要ね。
もちろん、戦闘していれば、HPも減るから『HP回復薬』も必要だから、剣や槍を使って戦うよりも二倍薬が必要なのよ。
だから、魔術師は面倒を見てくれるパーティーがいないと辛い職業ってわけ。
…ってなんでそんなに驚いてるのよ。
あのゲーム、一応ファンタジー系のRPGなのよ?
…だから、ほのぼのRPGじゃないってば!!
「心配だから貿易するって言っても、隣の村まで歩いて数時間もかかるのよ?しかも、その道中には危険な動物や、モンスター、…それに、盗賊だっているのよ?」
盗賊っているのは、その当時、ポツポツと現れ始めて噂になっていたわ。
彼らは、村と村をつなぐ道で待ち伏せし、通りかかった人を襲い掛かる人たちよ。
NPCは村と村を行き来しない。つまり、プレイヤー全体のお金が増えるわけではない。
彼らはデスゲームのクリアーをあきらめ、その場限りの楽な方法に手を染めた人たちよ。
武器を扱うスキルを持っていない農家さんが、村を出て危険な道を歩くなんて無理。
弓を扱うスキルを持っている私でも、農家さんと戦闘経験の少ない魔術師ちゃんを守りながら行くなんて無理だったの。
「その辺は大丈夫だ。護衛を雇った」
てっきり、護衛を頼まれると思った私は、拍子抜けしたわ。
だったら、いったい何を頼むつもりなのかしら?って疑問に思っていたら、農家さんは椅子から降りて、床に正座した。
「頼む。俺が村を離れている間、畑の面倒を見ていてくれ」
そういって、農家さんは深々と頭を下げた。
農家さんが土下座をして頼み込む様子に、私は思わず叫んだわ。
「そっちかーーーーい」
こうして、農家さんは護衛の男の子とともに、村を出て行った。
評価、感想ありがとうございます!
この後の農家さんサイドの話は「勇者さんによる話」の「農家さん、夢を壊す」となります。
狩人さん視点の話は、「狩人さんによる話」に続けて投稿していきます。