農家さん、料理する
っと、話がそれたわね。
農家さんの着替えと家への招待だけで1時間ちかくかかったわね。
飲み物のお替りを頼んでいい?
え、経費で落ちるの?なら、ケーキも頼んでいいかしら!
ここのモンブラン、お気に入りなのよ!!
すみませーん!注文お願いしまーす!
…そういえば、あの世界でも栗拾いしたなぁ~。
って話がまたそれるところだったわ!
あ、モンブランセット一つ。飲み物はミルクティーで!
記者さんはどうする?…すみません、アイスコーヒーも追加で。
さて、話を進めるわ。
農家さんのプレイヤーハウスで、ちゃぶ台の前に座って、竹でできたコップで水を飲みながら、倉庫が出来た経緯を聞いていたわ。
最初出会ったときは、正直、このデスゲームを解放する戦力にはならないだろうなって思ってた。
けれども、倉庫に入れられていた種類の増えた農具や工具、私の家よりも多い家具を見て、この人の方が稼いでるかもしれないって考えを改めたわ。
「結構、納品クエストって稼ぎがいいんですね」
「いや、収入はそんなによくない。ただ、食べ物や飲み物は自分で手に入れられるから、生活費を安く抑えられているだけだ」
あれは不思議だったんだけど、ゲーム内なのに、なぜか食欲や睡魔があったのよ。
私たちの体は病院で横たわっているし、栄養は点滴で補っているのに不思議よね。
村には一軒、レストランがあって、そこで簡単な食事を食べられるわ。
プレイヤーハウスにもキッチンはあるけど、『料理』スキルを取得するほど枠に余裕はなかったしね。
そうそう、スキルの説明を忘れてたわね。
スキルっていうのは、特定の行為を行う、もしくは補助するのに、必要なものよ。
私の場合、『索敵』のスキルをもつことで、動物やモンスターの居場所を探したり、『弓』のスキルを持つことで、弓矢の軌道を自分の視界に表示させていたわ。
最初に与えられるスキル枠は3つ。
一定のレベルを超えると、その数は増えて、行動しやすくなっていくわ。
その設定レベルが、気が遠くなるほど高いのなんのって。
モンスターを倒していれば、ストレスなく上がるのかしらね?
これまでの話から、農家さんは『農業』――畑を耕したり、管理したりするのを補助するスキル――、『加工』――トンカチといった工具を使うのに必要なスキル――、『伐採』――斧や鉈で木を切るのに必要なスキル――、を持っているのだと思っていたわ。
でも、食べ物を自分で手に入れて、食べるには、『料理』、キッチンを使うのに必要なスキルがないと無理だもの。
もうすでに、私よりもレベルが高いんじゃ…。
そう思ったけど、そういうのを聞くのはマナー違反だから、当たり障りのないことを言ったの。
「農家さんの手料理、食べてみたいです」
「手料理と言っても、野菜を皿にのっけただけだけどな」
ヤサイヲサラニノッケタダケダケドナ。
一瞬、理解できなかったわ。
もう一度言うけど、農家さんに再会したのは、ゲーム開始から数か月後。
農家さんは、数か月もの間、野菜、しかも生の状態ででしか胃を満たしていない。
確かに、ゲームだからそれで胃は満足かもしれない。
でも、このゲームの味覚エンジンは優秀で、ちゃんと食べた品物の味がする。
トマトからお肉の味がするわけないのよ。
まぁ、栄養に関しても、偏ったとしていても、それでアバターの動きに支障をきたすわけでもないし…
「ただ、栄養のことを考えて、大豆を増やしたんだ」
「問題はそっちじゃない!そっちじゃないわよ、農家さん!!!」
確かに、大豆は畑のお肉だと言われている。けど!!
大豆なんて、出来ても生のままだと味は美味しくないじゃない!!!
私は慌てて、農家さんに『料理』スキルを教えてあげると、農家さんはすぐに取得して、使えなくてお蔵入りしていた(実際に倉庫に放置されていた)まな板と包丁を使って、大根を切って目を丸くしていたわ。
「切れた…。何度試しても、切れなかったのに…」
「『料理スキルを取得してください』ってメッセージが出てたと思うんですけど…」
「あぁ、あれはそういう意味だったのか…」
それ以外にどういう意味が?
そんなことを思いながら、水をすすっていると、農家さんはお茶請け代わりにと言って、切った大根とトマトを出してきたわ。
そこで、遅かれながらに私は気づいたの。
農家さんの食糧事情、全く変わってない!!!!
農家さんのやることが、作者である私にも意味不明すぎて思ったより先に進めません。