農家さん、ネカマがバレる
私は、新人記者だ。
三年前に起こった大事件。『デスゲームを解放した者』についての特集を組むよう、上司から言われた。
デスゲームが解放されてから約1年。
ようやく、そのゲームのプレイヤー達が落ち着いた生活を取り戻したようなので、取材を行おうと思う。
まず、最初に連絡を取ったのは、とある女子大生だ。
彼女を喫茶店で待っていると、真っ直ぐな黒色の髪の毛をポニーテールに結んだ活発そうな女の子がやってきた。
大学生デビューを果たしたばかりらしく、まだ高校生らしさを残しているという印象を受けた。
彼女は、取材を快く受け、嬉しそうに話し始めた。
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え?私から聞いた話が記事になるの?
確かに、生還後、記事やニュースを見たけど、でたらめが多かったものね。
もし、農家さんの話が聞きたいなら、他のプレイヤーの連絡先も教えてあげるよ。
私も農家さんとずっと一緒にいたわけじゃないしね。
じゃぁ、まずは自己紹介するわね。
私は、狩人。…といっても、これは本名でもキャラ名でもないんだけどね。
高校で、弓道部に所属していたから、最初の武器に弓を選んで狩りをしていたからつけられたゲーム内でのあだ名。
ゲームで本名と別の名前をつけてるのに、あだ名って変な話よね。
そのあだ名をつけたのは、もちろん、農家さんよ。
あの人、ゲームやったことがあんまりないから、よく分かってなかったのよ。たぶん、今も。
話す前に、どれくらい『シャロン』のゲームについて知ってる?
……うん、大体そんな感じ。
ただ、ちょっと補足させてもらうと、モンスターや魔族がいるのは別の大陸で、人間が住んでいる土地には、そんな強いモンスターはいなかったってこと。
もちろん、熊とか猪とか危険な動物はいたけど、プレイヤーハウスには入ってこないし、命の危険がすぐそばにあったわけじゃないのよ。
ちょっと不便な田舎暮らしで、お金を稼がなきゃいけない。くらいの認識で大丈夫よ。
村には、NPCが100人ほど暮らしていて、その周りにプレイヤーの土地が50人分用意されてるの。
最初に与えられた所持金で、村で剣や弓といった武器から、釣り竿、鍬といった生産系の道具を一つ買うことができる。
それらを駆使して、暮らしていこう!っていうゲームだったわけ。
まぁ、デスゲームになってからは、暮らしていこう!っていうより稼いでいこう!って感じだったけど…。
デスゲームの開始が宣言された時、みんな『時を告げる塔』にいたか?
そりゃもちろんいたわよ。このシリーズには、テレポートなんて便利なものはなかったのに、GM権限を使って、みんな自分の村にテレポートさせられたんだから。
……そして、あの少女が現れて、こう言ったのよ。
「このゲームは、デスゲームとなりました。みんなのHPは本当のあなたの命になったのです!!」
あの時、心底驚いたわ。小説とかで、よくデスゲームっていうのは耳にしてたけど、本当にそんな事件に巻き込まれるなんて。
思わず仲間を求めて、周りを見回したら、隣にいたピンク色のツインテールの女の子がきょとんとしているのを見て、私だけじゃないんだって、ちょっとホッとしたわ。
少女は、簡単なルール説明と、1000億ギルっていう無理難題を押し付け、
「それと、ささやかながら私からのプレゼント!」
彼女はそう言うと同時に、『プレゼントがあります』と表示されたわ。
その表示をタップしてみると、鏡が現れ、自分がキャラメイクしたかわいらしいアバターが映ってた。
…ちょっと、笑わないでよ!ゲームの中でくらい、美少女になりたいじゃない!!
えーおほん。
でも、その美少女体験は、1時間もしないうちに終わったわ。
手鏡を持った瞬間、いきなり自分の体が青色に光って、本当の、現実世界の私の姿になったんだもの。
驚いて周りを見回したら、みんなも同じように光って、姿形が変わっていった。
あの光景はおぞましかったわ。
あ、いや。自分の姿が変わっていくのも、みんなの姿が変わっていくのも怖かったんだけど、それ以上に怖かったのは、隣に立っている人の変化よ。
私の隣に立っていたのは、ピンク色の髪の毛をツインテールにした可愛らしい小柄女の子。
その女の子が、どんどん身長が高くなり、マッチョとまではいかないものの、がっしりとした筋肉が付き、顔がどんどん整ってはいるものの年齢を感じさせるオッサンへと変化していくのよ。
気絶しなかったのが、奇跡だったわ。
「ここは、あなたがより、あなたらしく生きられる世界。さぁ、本当のあなたはどんな人間?」
そう言って少女は、忽然と消えたけど、正直それどころじゃなかったわ。
だって!私の隣には、ピンクを基調としたファンタジー風の可愛らしいミニスカートをはいたオッサンが立っているんだもの!!
……そう、このオッサンこそが、あのデスゲームをクリアーに導いた人物、農家さんよ。
農家さんは、私が茫然と農家さんを見ているのに気が付いて、真剣な表情で「うむ」と見た目に似合った渋い声を出した。
「すまないが、農具を買う場所を教えてくれないか?」
「それより前に、恰好をどうにかしなさい!!」
これが、私と農家さんの出会いよ。
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