農家さん、保護する
人の多い休日のファーストフード店にて、とある少女と待ち合わせをしていた。
少し待つと、長い髪をもつ少女が、おろおろしながら現れた。
私を待たせたことを、こちらが若干引くくらい謝りながら、ゆっくりと腰を下ろした。
は、はじめまして…。
だだだだ大丈夫です。すみません…。
マシにはなったほうなんですけど、まだ男の人がちょっと苦手で…。
…そうなんです。小さいころから母子家庭で、こんな性格なのでよく男の子からいじめられていて…。
あ、トラウマってほどじゃないんですよ!ちょっと、動悸がして冷汗がガンガン出てくるってだけで!!
…変にポジティブ、ですか?
よく言われるけど、なんででしょう…。
…ふぅ、だいぶ落ち着いてきました。もう大丈夫です。
え、どうしてゲームを始めたか、ですか?
そうですね・・・。もともとゲームはそれなりに好きでしたが、オンラインゲームは避けていました。
どうしても、キャラクターの後ろに人がいると思うと怖くて、取り乱してしまうからです。
・・・すみません、農家さんの話をする前に、少しだけ農家さんとで会う前までの話をさせてください。
「ごめん、これ以上は付き合いきれない」
そう言ったのは、リアルでも仲の良かった友人でした。
私も彼女も学校で中々友人ができず、あぶれもの同士仲が良かったんです
彼女はいわゆるオタクで、非常にゲームの好きな子でした。
私が『シャロン』のゲームを始めたのも、彼女に誘われたからです。
サービス開始直後、彼女は『剣術』のスキルと剣を買い、私は『魔術』のスキルと杖を買いました。
あのシリーズの中では、魔術師はマイナーでした。
というのも、『ヒューマン』の種族が持つ魔力量が少なく、レベルをかなり上げるまで使い物にならないからです。
その理由を友人に説明されながらも、私はせっかく、ゲームの世界なのだから、と選んでしまったのです。
友人も「まぁ、レベル上げ付き合って上げるよ」と呆れながらに言ってくれました。
・・・でも、その数時間後、状況は一気に変わりました。
「このゲームは、デスゲームになりましたー!クリアー条件は、1000億ギル集めること!」
時を告げる塔の上で、声高らか宣言したGMを名乗る少女。
その当時の私は、状況を理解できず、いえ、理解しようとせず、ただ呆然としていました。
友人は、そんな私の手を握り、
「クエストを回収しに行くよ」
と言って、走り出しました。
私と同じように、呆然とする人が多い広場を抜け、私たちは片っ端からクエストを受けて回りました。
「ひとつの村でクエストを出すNPCは限られているため、時間が経てば長蛇の列ができる。その前に、一通りのクエストを受けておかないと・・・。」
ゲームの世界の彼女は、学校での沈んだ雰囲気とは違い、しっかりと前を見つめた凛とした雰囲気でした。
・・・いえ、あれが本来の彼女だったのかもしれません。
学校では、友人が作れないあぶれ者同士だったのに、彼女は次々と友人を作り、パーティーを組み、町を変え、クエストを受け、難易度の高いクエストをクリアーしていきました。
なぜそんな彼女が、学校では友達を作れなかったのか、その真相を察するほど彼女のことを理解しておらず、そして、理解する前に、あぁ言われたのです。
「ごめん、これ以上は付き合いきれない」
ゲーム開始から三ヶ月を過ぎた辺りのことだったとおもいます。
彼女に言われた時、ショックでした。でも、それと同時に納得もしました。
魔術師が、レベルの上げにくい職業で、足手まといになるといわれたにも関わらず、選んだのは私です。
そして、私たちの村で一番スタートダッシュが早かったにも関わらず、レベルは中層止まり。
その原因は、誰に言われずとも、私のせいだとわかっていました。
当時の私は、「足手まといでごめん」と謝ることができませんでした。
謝れば慰めてもらえる、許してもらえると分かっていて、謝るのはこのデスゲーム下において、卑怯なことだと思ったからです。
あの時も、今も、友人に置いていかれる私よりも、置いていくことへの罪悪感で顔を歪める彼女の方が辛かっただろうな、と思います。
これが、普通のゲームだったら・・・。
そう思いながらも私は必死で笑顔をつくって
「今までありがとう。私も私なりに頑張るね」
そう話して別れました。
・・・そうです。その別れた場所が『始まりの村』、農家さんの住んでいた村です。
私は、レベルの低いクエストを受け、ソロで活動していました。
ですが、やはり魔術では攻撃力が低く、魔力の消費も激しいため、一日に何個もクエストをこなすことができず、赤字生活でした。
それでも、今まで必死に高めたスキルポイントが惜しく、また剣で戦える自信はなく、自分のプレイヤーハウスにまで戻れる自信もなく、スキルを変えることができませんでした。
そうこうしている間に、食費がなくなり、宿にも泊まれなくなり、どうしようかと、プレイヤーエリアで動物でも倒してお金にしようと、ふらふら歩き・・・そして倒れました。
極度の飢えと、気づかぬうちに溜め込んだ精神的疲労が上限を越えたのだとおもします。
アクティブモンスターがいないとはいえ、いつ何があってもおかしくない危険な状態の中、
「おい、大丈夫か?行き倒れか?」
そう優しく声をかけてくれた人がいたんです。
その声音が男性のものだと分かりながらも、極限状態の中、久しぶりにかけてもらった声が嬉しく、顔を上げると・・・
・・・髪の毛がピンク色のおっさんが目の前にいました。
「びゃあああああああ!!!」
あまりのゲテモノを前に、その日、私は再び気を失ったのです。
これが、私とゲームを変える、農家さんとの出会いでした。
魔術師さんによる話が始まりました。
ファーストコンタクトは、農家さんの容姿に驚くのがデフォルトになりつつあります。