農家さん、帰宅する
こうして、村長さんが主軸となり、農家さんがアドバイザーとして始まった里山計画。
それは、村長さんにより、『里山プロジェクト』として、村の人々に発表された。
ゲームならではの悩みもありながらも、大体は農家さんの知識でカバーでき、順調に進んでいった。
あ、ちなみに農家さんが持ってきた大量の野菜は、俺と村長の二人と物々交換した。
ダンジョン系のアイテムを持っている奴が、俺らしかいなかったからな。
農家さんは、武器や鎧にならないような変なアイテムばっかほしがったけど、まぁ、本人が満足そうなので俺たちは何も言わなかった。
「長いこと、手伝ってもらってすまなかった。あなたの協力がなければ、この計画はこれほど順調に進まなかっただろう」
村長はそう言って、農家さんと固く握手した。
農家さんは、2週間滞在して、里山プロジェクトに参加していた。
里山を作るなんてことを、2週間でできたのは、ゲームだからってのもそうだけど、農家さんの豊富な知識、なにより村長の人を動かす能力の高さによるものだ。
村長は、今まで村を離れて、ダンジョンに潜っていたとは思えないほど、村の人たちに慕われ、そして、村の人たちのことを把握していた。
彼女の指示に、一切の無駄はなく、それぞれに適した仕事を割り振っていく様子は、現実でそういった仕事についているだろうって想像できるほどだ。
実際、後から村長の職業を聞いて、「やっぱりな~」って思ったぜ。
ま、それは後にして…。
「これからは、里山プロジェクトだけでなく、貿易路の確保などもしていく予定だ。もし、農家さんが良ければ、またこの村に『物々交換』に来てくれ」
その時には、たくさんの種類のアイテムが揃うようにしよう。と自信に満ちた顔で村長は言った。
…え、なんで俺が最後まで一緒にいたかって?
まぁ、あれだな。俺の力が必要だったっていうか、ほら、魔物退治とか…。
間違っても、なんとなく仲間はずれが嫌だったとか、そういうんじゃないからな!!
帰りだって、農家さんに護衛を依頼されたしな!!!
「そういえば、あの盗賊たちはどうなったんだろうな」
「あの後、畑を頼んだ人から何度かメールが来たが、うまくやっているようだ」
メッセージで事前説明あったが、いきなり盗賊三人が現れたんだ。
びっくりしただろうな。それでも、うまくやっていけるなんてどうな人なんだろう。
それが気になって、農家さんの家までついていった。
そこで、俺は衝撃を受けた。
「まったく!おっそい!!盗賊が弟子入りに来るわ、事業とか意味の分からないこと言い出すわ!!こっちの都合も考えてよね!!!」
家に入った瞬間、そう叫んだのは、赤色の髪の毛をポニーテールにした女の子だった。
赤色といっても少しくすんだ色で、日本人ながらも少し勝気な顔立ちとなじんでいる。
服装は、農作業をするようにオーバーオールだが、その下に革製の胸当てが装備されているところから、彼女が弓使いだということを示していた。
だが、そんな情報はどうでもいい。
重要なのは、農家さんの家に行ったら、女の子。しかも、美人。
前にも言ったが、このゲームで女子は少ない。
にもかかわらず、女子とお友達。しかも、畑を任せるほど仲のいい友達。
「うらやましい…」
「あの…、狩人さん、農家さん、帰ってきたんですか?」
思わず本音が漏れていると、赤髪の少女の後ろから、恐る恐るといって様子でこちらを伺う少女と目が合った。
「ひっ…!」
目が合った瞬間、すぐさま後ろに隠れてしまったが、『索敵』スキルを鍛えまくった俺には、しかと見た。
水色の長髪を後ろで緩く結び、丸い大きな瞳の小動物系美少女を!!
先ほどの赤髪の女の子が、頼りになる姉御系なら、今の子は守ってあげたくなる妹系。
「なんだ、ここは、天国か?」
「俺の家だ」
知ってる。
農家さんを怒っていた赤髪の少女は、俺を見て怪訝そうに見つめた。
「え、それで彼は誰なの?」
「彼は、勇者だ。俺を隣町からここまで、行きも帰りも護衛してくれたんだ」
「え、勇者…?!」
この時初めて、農家さんの中で、俺の名前が勇者になっていることを知った。
え、そんな恥ずかしい名前なの聞いてない。しかも、そんなの女子の前で言ってほしくなかった。
だが、時、すでに遅し。
勇者だと紹介された少女は、「いつものあだ名か…」とつぶやいた後に、俺を下から上を見て、正確には俺の服装を見て、納得いったと言わんばかりの笑顔を浮かべた。
「はっはーん。それで、勇者か…」
俺は今まで史上、最高の速度で装備システムを開き、黒色のコートを装備から外した。
勢いよく、装備システムを消すと、笑顔で挨拶をした。
「初めまして!農家さんをここまで護衛した…」
「勇者さんですよね?」
「やめて!そのあだ名やめてください!!!」
人生で初めて、俺は土下座した。
初対面で、別にそんなに助けてもないのに、勇者と紹介されるなんて、どんな黒歴史だ!!
その後も、何度も普通のPL名で呼んでもらおうと苦心したのだが、盗賊三人に加えて、あの妹系美少女にも、勇者という名前で呼ばれるようになったのは、言うまでもない。
その様子に、主犯である農家さんは、なぜこうなったのかわからないという顔で、首をかしげていた。
のんびり更新ですみません。
きまぐれな更新スピードですが、優しく見守っていただけると幸いです。