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農家さんがデスゲームを解放した件について  作者: 夏南
勇者さんによる話
12/22

農家さん、盗賊に出会う

 農家さんのログイン理由。

それは、某有名VRMMORPGライトノベルのヒロインと同じ理由だった。


 あ、記者さんも、あの小説知ってる?

そりゃそうか。ただでさえ、元々アニメ化や映画化して有名だったし。

それに、実際にVR機器ができて、しかもデスゲームが始まってから、重版がかかるほどまたブームが起こったらしいしな…。


「そういえば、実際の姿になったわけだが、作られたあの姿は、どこに行ったんだ?」


「作られた姿って、キャラメイクしたキャラってことか?あれは確か、VR機器ごとに設定したはずだから、VR機器にセーブされているんじゃないか?」


「…どういうことだ?」


「VR機器に保存されてます。ログアウトできれば、もう一度あの姿になることができます」


「なるほど。兄さんが一生懸命作った姿だったらしいから、なくなっていなくてよかった」


 そんな会話をしていると、俺の『索敵』スキルに反応があった。

街道から外れた茂みの中に、三人。PL反応だ。


「農家さん、走れますか?」


「大丈夫だ」


「よし、走り抜けるぞ」


 そう言うと同時に走り始めた。

農家さんは、その見た目にあったキレイなフォームで走る。

ロバも頑張って、その姿を追いかける。

追いかけた、うん。追いかけてたんだが…。


「ロバ、おっそっっ!!」


 みるみるうちに、ロバとの距離が離れていく。

手綱を持っている農家さんも、自動的に速度が制限される。

そして、少し広めのところで、ピタリと止まった。


「すまない。大丈夫じゃなかった」


「でしょうね!!!」


 早歩きくらいのスピードしか出してないのに、ロバは疲労困憊のご様子だった。

止まったタイミングを待っていたかのように、盗賊が茂みからその姿を現した。

その手には、ギラギラと光るサバイバルナイフやサーベルを持っていた。


 数は三人。『索敵』スキルと同じ人数だ。

俺の『索敵』スキルは結構高いから、『隠密』スキルも破ることができる。

俺はすぐに、農家さんの前に出て、剣のグリップに手をかけた。


「護衛を頼まれた者だ。怪我をしたくなければ、立ち去れ」


「立ち去れって言ってるぜ」


「ロバに触ってみたい!ぜ!」


「あれを売れば、回復薬なんていくらでも買える。逃す手はないぜ」


 若干一名、ロバのことしか喋ってないやつがいたが、引く気はないことは分かった。

俺は、剣を抜こうとした…ところで、農家さんが俺よりも前に出てきた。

その顔は、この緊急事態にも関わらず涼しげで、その背中は、たくましく、実戦慣れしているようだった。

…そして、その手に握られるは、二本のゴボウだった。


「ゴボウ?!農家さん、それ、ゴボウ!!!」


「少々違うぞ、少年。これは、新ゴボウだ。早めに収穫したゴボウで、一般的なゴボウよりも柔らかく、風味がいい」


「つまり、ゴボウじゃん!!!」


 あの補足説明が、いったいなんの意味を成すのか。

というか、柔らかいんじゃ、一般的なゴボウよりも、武器にならない。

そもそも、ゴボウは武器じゃない!


「おいおい、あのオッサン、俺らをなめてるぜ」


「ロバって、人に懐くのかな?」


「ゴボウ二本で俺らの相手をしようなんぞ、なめられたもんだぜ」


 ロバのやつの語尾から「ぜ」が消えたところで、農家さんはゴボウを投げた。

ぽとり、と盗賊たちの前に落ちるゴボウ。

いきなりのことに、反応できない俺らの前で、農家さんはほんの少し口角をあげ、どや顔で言った。


「腹が減ってるんだろ?新ゴボウは鍋にすると、いい出汁が出る」


「…はぁ」


「そうだ、握り飯があったはずだ。結構握ってきたから、お前らも食べるか?」


「…………ちょいちょいちょいちょいちょいちょい!!!」


 ひとりでに話を進め、レジャーシートを取り出しそうとまでする農家さんを、抑え込んだ。


「なんだ?」


「なんだ?じゃないよ、農家さん!!今の状態分かる?襲われてるの、盗賊に襲われてるんだけど!!」


「なぁに。ゲームの外でも、腹を空かした野球少年が、よく畑の作物を取ろうとしたものだ」


「よく見てええ!彼らが持ってるの、野球バットじゃない!!ナイフ!!人を殺せるナイフ!!」


 盗賊たちを指さすと、農家さんは首を傾げた。


「なら、彼らは何少年だ?」


「盗賊だよ!!」


 平和ボケすぎる。

いや、もしかしたら、そうした姿を見せて、相手の敵意をそごうという作戦か?!


「んだとゴラァ!!」


「ロバ持ってるからって、えらっそうに!!」


「やっちまえ!!」


「ダメじゃん!!」


 叫びながら、俺は剣を抜いて、駆けだした。


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