過去篇~成り行きで~
今回はユニ視点です
「各地での魔物が活性化していますね…これはもしかしたら…」
「もしかしたら…なんですか?」
「魔王が…復活するかもしれません」
困った顔をしながらイブ様は言いました。彼女にはイブと呼ぶように言われているけれど本当の名前は知らないのです。
「勇者を召喚しましょう。」
そういって儀式の準備に取り掛かりました。
「こ、ここはどこだ?うわっ綺麗な人。ど、どなたですか?俺は輝と言います。」
呼び出された勇者が困惑しながらも鼻を伸ばしています。勇者は茶髪でイヤリングをしていて、チャラそうな奴です。
「ここは地球のある世界ではありません。つまり貴方方の言うところの異世界、というやつです。」
勇者が頭の上にクエスチョンマークを乗せています。あんまり頭がよくないのかもしれません。
「これから貴方には固有のスキルを与えます。そして魔王を討伐して頂きます。」
勇者が理解したようです。手をポンと叩き言いました。
「ようはここはゲームみたいなもんだと思えばいいのか!」
イブ様が苦笑いをしています。
「ま、まあそうですね」
勇者が尋ねます。
「それで、スキルっていうのは魔物を倒したりする能力ってことでいいんですか?」
「そうです。スキルには固有のものと普通のものがあって、人によって違うのが固有スキル、研鑽によって習得するのが固有スキルです。」
「俺にはどんなスキルを下さるんですか?」
勇者の目がキラキラしています。
「そうですね…貴方に与えるのは…」
イブ様が思案しています。勇者は不安そうな顔でイブ様の顔色を伺っています。
「《重球》を貴方に与えます。これは強力な重力場を作り出すエネルギー球を出す能力です。」
勇者がとても嬉しそうにしています。
「すげー!かっこいいスキルをありがとうございます!」
「気に入ったようで何よりです。ではパナザ国に貴方を送り出します。」
勇者はニコニコしながらイブ様の力でワープしていきました。
「まともなやつだといいんだけれど…」
イブ様が不安そうにしているので私まで不安になるのでした。
王国の姫と仲良くなった勇者は姫と数人の仲間を連れてパーティーを組み、順調に攻略していきました。私はイブ様と一緒にその様子を見守っていました。
ある日、城下町に魔王の配下が現れました。町を放火しながら町の人々を次々と拐い始めました。
「とうとう人拐いが始まってしまいましたか…」イブ様が溜め息をついています。
配下に勇者達が立ちふさがりました。
「俺の名はルトヴィン。魔王の配下だ。邪魔をするなら殺す。」
「なんだと?町の人に手を出すんじゃねぇ!《重球》!」
しかし配下の悪魔は余裕で回避して、勇者の耳元で言いました。
「こういうの『当たらなければどうということはない』って言うんだっけか?」
「無理だ…強すぎる…」
研鑽を怠り、ゲーム感覚で進んできた勇者には強さも緊張感も足りていませんでした。勇者はあまりの強さに恐怖を覚え、逃走しました。町は壊滅し、勇者は城に引きこもり、女を侍らすようになりました。
「やっぱりこうなってしまいましたか…」
イブ様が柄に合わず頭を抱えています。
「もう一人勇者を召喚したらどうですか?」
私の提案にイブ様は首を振りました。
「一人の天使が召喚出来るのは一人までです。ああ…どうすれば」
イブ様は何度か勇者に新しいスキルを与えるから戦ってくれと説得しましたが聞く耳を持ちませんでした。
そして魔王が侵略を繰り返し、地上に災厄が訪れました。国は次々と滅んでいきました。
とうとうイブ様がおっしゃいました。
「私の命を触媒に時間を巻き戻します…貴方は生き延びて…世界を救ってください…」
私は何も言えませんでした。
時間は10年前に戻り、私も異世界人を召喚しようと思いましたが、あの勇者のことを思いだし、実際に見て誰を連れていくか選ぶことにしました。
しかし話かけても相手にしてくれる人はいませんでした。世知辛い世の中です。不貞腐れて見知らぬ人のベットの中でゴロゴロしていると押し潰されてしまいました。
話をしてみるといい人そうでした。しかも顔が好みのタイプです。顔がにやけているのを必死に直そうとしている所もグーです!
そして私達は結婚することになりました。唐突かな?でも結構悪くないと思うんですよ。