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『ピノキオ』を読んで混乱しちゃった、その理由 2

 さっきまでは意地悪な大人だったのに。

 思わずビビっちゃう格好したおじさんだけど、意地悪なだけの大人だったのに。

 大人達はこの人を、大人と思ってない。

 十円玉を投げてやったら、地べたに手と頭をすりつける何かだと思ってる。

 おじさんも、充分すぎるほどそれを知っててやっている!


 たまらなくなって、そばにいた母に尋ねました。

「ねえお母さん、あの人どうしたの? 何やってるの?」

 小学校にあがりたての子供でしたから、言葉をうまくあやつって自分の聞きたいことを表現できません。思いついたら、本人の前でもすぐに言ってしまいます。


 障碍者しょうがいしゃ、特に戦傷者せんしょうしゃは国のために命をかけたんだから、困らないようにしてあげないといけないんじゃなかったの?

 なのにどうして、あの人はあんなことをしなくちゃいけないの?

 頭の上からお金を投げつけたりして、ちっとも優しくしていない。人とも思ってない。一体なんなの?

 知りたかったのは、そこだったのですが。


 良識ある大人の態度で――つまり金切り声で母はしかりつけました。

「そんなこと言うんじゃないの!」

「でも……」

「でもじゃないの、だめなものはだめ! 言うこと聞かないと、たたくからね!」


 この時、胸に突き上がってきたのは激しい嫌悪と怒りでした。

「お母さんのうそつき! 先生のうそつき! 大人のうそつき!」


「私のお母さんだけは絶対に差別されてる人を見過ごしたりしない。私の先生だけは困っている人がいたら、物乞いなんかしなくてもいいようにしてくれるんだ」

 幼かったので、そう信じこんでいたのです。


 人間の価値はみんな平等だ、弱い立場にいる人は助けてやらないとだめだと、いつも口にしていたのは誰なの?

 困っている年下の子を助けないと、優しくしてあげなさいと言って怒るのは、あなた達自身が優しいからではなかったんだね!


 目茶苦茶に腹を立てたのは、しつけが厳しすぎる家庭で育ったせいでもありました。

「弱い人に差別的なことを言ったりしたりするのは、絶対に許さない」

 と言って、時にはばつを与えておきながら、自分達は堂々と差別してるじゃないか。


「貧乏じゃないのに、ああやって金をかせぐ人もいるんだ。かなりもうかるから、三日やったらやめられないって、昔からいわれてるからな。だけどあんなの、警察に連絡すればすぐに追い払われるんだぞ」

 父はそう説明しましたが、何が本当なのか混乱したものです。


 まだまだ親の保護にすがらなければ生きていけないお年頃だった私は、まわりの大人達が普通のうそつきだ、ということを受け入れることができませんでした。

 とりわけ「大好きなお母さん」にまっすぐ嫌悪をぶつけるなんて、六歳の子供には荷が重すぎたのです。

「こんなドロドロした感情を“お父さん、お母さん”に持つなんて、私は悪い子なんだ。間違ってるんだ」

 こうして行き場を失った強い感情は、“物乞いをする障碍者”のほうにはりついてしまいました。


 正確に言うと、条件反射だと思います。

 ベルの音を聞いたあとでエサをもらい続けた犬は、ベルの音だけで勝手にツバが出てくるという、学習反応です。

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