出会い
彼との出会いは高校2年生だった。
私はその頃、学校ではなんとか上手くやっていた。性格したらふつうは浮きまくるはずなのだが、それを隠し、毎日興味のないことに騒いだり、嘘笑いをして学校生活をやり過ごしていた。
皆からはよく笑うと言われた。私はいつも笑って全てを流していた。
彼とは、その年初めて同じクラスになり、委員会も一緒だった。
彼はクラスの中では真ん中くらいの位置にいた。クラスの権力者のグループの一部であった。委員会以外では別に接点も何もなかった。
週に一回、昼休みの図書館で一緒にカウンターに座るだけ。話も、あまりしなかった。
ただ彼は、挨拶だけは必ずしてくれた。毎週、カウンターに彼が来たとき。クラスでも時々。その時の笑顔は今でも思い出せる。
具体的なきっかけはなかったと思う。ただ、挨拶が少し長引き世間話になった。世間話が徐々にお互いの話になった。そして夏休み後には下の名前で呼び合うくらいにはなっていた。
一番多かった話は本についてだろうか。趣味が合い、好きな本をおすすめし合っていた。
彼と私は、ミステリーが好きだった。最初に途中まで読んで犯人とトリックを考え、議論する。そして次の週、最後まで読み終えた私たちはその本自体を議論する。私たちはこれをミステリーの会、訳して「ミス会」と呼んでいた。彼は熱が入ると、犯人役を自らやりだし、語り始める。それがまた、おかしかった。
学校生活の中で、私が本当に楽しかったのは彼と話す時間だけだった。彼との会話の時間と比べると他のクラスメイトとの時間はあまりに無意味に思えた。
それなら、クラスでも彼と喋ればいいかって?無理無理。クラス内で私のいたグループの中心人物と彼のいたグループの中心人物は折り合いが悪く、話すことなど滅多になかった。
一定の安定はクラスで上手くやっていくためには不可欠だ。目立つことは避けなければならない。ただ、影のように過ごすことを私は望んだ。
その日は、やっと夏も終わり、涼しい風が吹き始めた日だった。前期も残すところあと1か月となり、私は焦っていた。後期になると委員会は変わり、彼との話す時間が無に等しくなってしまうからだ。
いつも通りカウンターにの席に着くと彼は私の顔をじっと見つめた。私も負けじと見つめ返した。
「果歩ってさー、よく笑うよね」
彼は私の目の奥をしっかりととらえながら言った。そして、何かを探っているかのような視線は、なぜか私をドキドキさせた。
「そう・・・かな・・?」
「うん。本当に心の底から笑ってるんだろうなっていつも思う。毎日幸せそうだよね」
心に急に重い石が乗っけられたような錯覚を起こした。私にとってその言葉は最も触れてほしくなかったものだった。
心の底から常に笑えたらといつも思う。しかし、世の中には様々な笑い方がある。
本当に面白かった時に出る笑い。愛しいと思った時の自然な笑み。
相手に合わせる愛想笑い。皆に合わせる嘘笑い。微妙な時の苦笑い。
自分の中でその言葉を肯定することは許せなかった。心の底から笑うことなんて滅多にない。そんなの、蒼の前くらいだろうか。私にはそれが悲しい。それが苦しい。
「でもね・・・僕の前の果歩の笑顔とクラスでの果歩の笑顔は違うと思うんだ。それで僕思ったんだ。逆なんじゃないかって」
「逆・・?」
「そう。果歩は幸せじゃないから、笑っている。果歩の笑顔。それは、満ち足りた空間の中に入るためのパスポートのようなものなんだよ」
彼は私をミス会の犯人のようにして語り始めた。




