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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
胸を張る為に
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手料理

翌週の土曜日、司は怜の自宅アパートを訪れていた。


「司さん、お越しいただき、ありがとうございます。」

怜が玄関扉を開けて出迎えてくれた途端に、食欲をそそる良い匂いが鼻腔を満たした。

「こちらこそ、お招きありがとう。これ良かったら。」


ネットで取り寄せたハーゲンダーツのギフトセットを手渡すと、怜は恐縮しながらも目を輝かせて喜んだ。狭い所ですがどうぞ、と苦笑する怜の言う通り、アパートの一室は狭いものだったが、綺麗に片付けられているからか、古い事を除けば住み心地は良さそうな部屋だ。怜が手際良く料理を並べていく食卓の傍らに、写真立てが二つ並べられている事に気付いた司は、お邪魔します、と軽く頭を下げた。


「どうぞ、召し上がってください。」

「ありがとう。いただきます。」


怜に勧められ、司は豆腐とわかめの味噌汁に手を伸ばす。食卓にはきのこの炊き込みご飯、豚の角煮、ごま野菜炒め、ツナポテトサラダが並べられており、そのどれもが自分好みの味付けで、司は顔を綻ばせた。


「美味しいよ。怜は本当に料理が上手いな。」

「ありがとうございます。お口に合って良かったです。」

美味しそうに次々と平らげていく司に、怜はほっとしたように口元を緩めた。


「なあ怜、良かったら今度、料理を教えてくれないか?」

司の頼みに、怜は意外そうに目を丸くし、そして微笑んだ。


「はい、喜んで。司さんも遂に自炊される気になられたんですか?」

「いや、そこまでではないんだけれど…。でも少し前から自分でもちょっとくらいは料理出来るようになった方が良いかな、とは思っていたんだ。」

司は苦笑して言葉を続ける。


「今までは俺一人だったから、食べる物にはそこまで気を遣っていなかったし、慣れない料理をするよりも買った方が断然早いし美味いから、自分で作る必要性なんて全く感じて来なかった。でもこれから先は、俺は怜とずっと一緒に居たい。怜の手料理を毎日のように食べたいとは思っているけど、作るのを全面的に怜に任せ切りになってしまうよりは、俺も少しは出来るようになって、一緒に作った方が楽しいかなって思ってさ。この間咲の所でパンを作った時、凄く大変だったけれど、出来たパンは意外と美味しかったし、皆にも喜んでもらえてちょっと嬉しかったし。だから、今は何も出来ないけど、いずれは色々作れるようになって、俺が作った料理を怜に食べてもらえるくらいになれればな、って思っている。」


そう言った司が照れたように笑うと、怜は少しばかり頬を染めて、嬉しそうな笑顔を見せた。

「とても素敵ですね。司さんの手料理、凄く食べてみたいです。」

怜に期待を込めた眼差しで見つめられ、司は何時か必ず実現させようと心に誓った。


「怜の手料理の方が絶対に美味いけどな。」

「そうでしょうか。司さんが料理に嵌まれば、直ぐに追い抜かされるかも知れませんよ。」

「それはないな。怜の方が絶対に美味しい。」


お互いにクスクスと笑い合いながら料理に舌鼓を打つ。怜は二人分にしては少し多めに作ったつもりだったが、司は全部綺麗に平らげてしまった。


「ご馳走様。本当に美味しかったよ。ありがとう。」

「いえ、お粗末様でした。」


怜に恐縮されたものの、作ってもらったのだからと押し切って、二人で後片付けをする。


「何だかこうしていると、新婚の夫婦みたいだな。」

司の言葉に、怜が顔を赤らめた。

「…そう言われてみると、そうかも知れませんね。」


自分が拭いた皿を片付ける怜の動きが分かりやすい程ギクシャクし始めた。司は苦笑しつつ片付けが終わったのを見計らい、怜を背後からそっと抱き締める。


「なあ、怜。この間の事、もしかして嫌だった?」


不意に深刻味を帯びた司の声色に、怜は目を見開いた。この間の事、とはきっとキスの事だろう。逃げるように帰ってしまった事は後で詫び、司もこちらこそいきなりでごめん、と苦笑していたのだが、やはり気にしていたのだろうか。


「そ、そんな事ないですっ!あれは恥ずかしかっただけで、嫌なんかじゃ…!」


焦って勢い良く振り向いた怜の目に飛び込んできたのは、アップになった司の顔。そして発していた言葉は、司の唇によって遮られた。


「良かった。」


暫くして唇を離し、司はにっこりと微笑んだ。暫し呆然としていた怜は、その笑顔に徐々に我に返る。一見、心底嬉しそうに見える司の笑顔だが、若干性質の悪さが見え隠れする、見覚えのあるこの笑顔。今のは絶対、確信犯だ。


「つ…司さんの意地悪っ!!」


羞恥に顔を真っ赤にして涙目になりつつ、胸をポカポカと叩いてくる怜も可愛い。司は満面の笑みを浮かべながら、怜の些細な抵抗を物ともせずに、愛おしげにぎゅうっと抱き締めた。

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