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的確すぎて

「…と、いう訳だ。」


最早ヤケクソ。

思ってもいなかった失態を犯した事で開き直った司は、これまでの経緯を全てぶちまけてグラスを呷った。相手に失礼にならないように、且つ理路整然と話す為に酒を断ったのに、こんな事になるなら寧ろ酒の方が良かったかもしれないと思いながら。


「…お話は分かりました。ですが、私を選ばれた点に関しましては理解致しかねます。咲さんの推薦があったとの事ですが、私でなくてもその条件とやらに当て嵌まる方はいらっしゃると思うのですが。」

「他に心当たりがなかったんだ。今から探した所で見付かるかどうかも分からない。それに見付かったとしても猫を被られていたらどうする。期限まであと三ヶ月、本性を見極めるには時間が足りない。実家に連れて行ったら直ぐに結婚させられかねないからな。」

俯いて吐き捨てるように言った司は、顔を上げて雪原の目を見た。


「その点、君なら問題ない。それは副社長秘書として二年間、俺の傍で勤務してくれた事で証明できる。俺は自分の苦手な要素が一つでもある女性にはどうしても苦手意識を持ってしまうんだ。だが君にはそれを感じた事が一切ない。だから出来れば君に承諾して欲しいと思っている。」


司に真っ直ぐに見詰められ、雪原は困惑したように下を向いた。


「…あっセクハラじゃないからな!?勿論受ける受けないは君の自由だし、断ってくれても構わない。出来れば断って欲しくないんだが…。でもそれで君の評価をどうこうするつもりなどないから安心してくれ!」

「お気遣い頂かなくても大丈夫です。副社長はそんな真似をされるような方じゃない事くらい、承知しておりますので。」

一瞬慌てた司だったが、落ち着き払って返答する雪原にほっと胸を撫で下ろした。


「そ…そうか。助かるよ。その…こんな事を訊いたらまたセクハラになってしまうかもしれないが、今君は彼氏はいないのか?」

「おりません。そもそもそういった事に興味などありませんから。」

即答した雪原に、司は驚いて雪原を見た。


「…恋愛には興味ないのか?」

「ありません。生涯独身の予定で、定年退職するまで頑張ってお金を貯めて、老後はゆっくり一人で過ごすつもりでおりました。」

「そうだったのか…。」


その言葉を最後に、暫く二人は黙り込んでいた。


生涯一人で過ごす予定だったのは俺も同じだ。だとしたら尚更彼女に無理強いする訳にはいかない。参ったな…彼女だけが頼りだったんだが…。


司はそんな事を思いながら、何故か胸の痛みを覚えていた。断られる事も想定していた筈なのに、現実となってしまった事が思っていた以上にショックだったのだろうか。


「…副社長。私がもし断った場合はどうなさるおつもりだったのですか?」

雪原の問いに、司は力なく口を開く。


「…そうだな。結婚相談所にでも当たってみるよ。条件は伝えるけれど、こればっかりは運次第だな。まあ少なくとも、用意される見合い相手よりは幾分マシになるだろう。」

司は無理矢理口角を上げたが、落胆を隠し切れていないその様子に、雪原は溜息を付いた。


「…では副社長、この件は一旦保留にさせて頂いても宜しいでしょうか?私もサポート致しますので、副社長は三ヶ月間、理想とするお相手を全力でお探しになって下さい。その上で三ヶ月後、どうしても見付からなかった場合のみ、条件によっては善処させて頂きます。」

雪原の言葉に、司は目を丸くする。


「断らないのか?だって君、生涯独身で過ごしたいって…。」

「はい。ですがもし私が断り、副社長が完璧にはご自分の意に沿わない相手とご結婚なさった場合、奥様に遅かれ早かれ苦手意識を持たれる事になるでしょう。そうなってしまうと副社長の事ですから、今まで以上にご自宅に帰られなくなり、その分会社で仕事される事が目に見えております。今でさえ無茶な働き方をされておられるのに、そんな事をすればいずれ倒れられてしまいます。その場合の会社への影響、ついでに副社長秘書である私の仕事への影響も考えた結果、最悪の場合は私が承諾した方が良いと判断しました。」


雪原の言葉に、司は片手で顔を覆った。雪原の指摘があまりにも的確すぎて、自分でもその様をありありと想像できたからだ。


「すまない。君には本当に迷惑をかける…。」

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