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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
胸を張る為に
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想像

「そうなのか。じゃあ今の治療でがんを小さく出来さえすれば、手術で取り除けるかも知れないんだね?」

「そのようです。見付かった当初は手術が難しい大きさだったそうですが、約一ヶ月後の再検査で、がんが縮小していれば手術が出来ると。その後も治療と経過観察が必要にはなりますが、転移や再発が見られなければ、日常生活に戻れるそうです。」


病院を後にした帰り道、司が運転する車内で、怜が直樹から聞いた説明を掻い摘んで教えてくれた内容に、司は胸を撫で下ろした。と同時に少し拍子抜けもする。老い先短い老人の最後のお願い、などと雅樹が言うものだから、てっきり余命僅かなのかと思ってしまった。それとなく直樹に怜を連れ出させた事と言い、流石は大企業の会長。食えない老人だ。


「とは言え、やはり副作用の影響は相当なもののようです。今で約一ヶ月になるそうですが、倦怠感と嘔吐と食欲不振が著しく、体重の減少が止まらないと。一時は点滴のみでの栄養補給となり、このまま死んでしまうのでは、と思ったとか。」


怜の話を聞きながら、司は初対面の時の雅樹を思い出す。気丈に振る舞っていたとは言え、顔色が悪く痩せ衰えて儚げだった。彼にとって死は間近ではないようだが、身近である事に変わりはないのかも知れない。そう考えると、雅樹からの頼まれ事の重みが増したような気がした。


「ところで、私が叔父とお茶を買いに行っている間、祖父と祖母に何かあったのでしょうか?帰って来た時に、二人共何か吹っ切れたような、明るい表情になっていた気がしたのですが。」

怜の質問に、司は笑みを零した。相変わらず流石の観察眼だ。


「少し話をしていたんだ。二人共怜の事を大切に思っていたよ。怜の事を宜しくって頼まれた。」

「そうでしたか。すみません、いつも頼ってばかりで、ご迷惑をおかけしてしまって。」


恐縮した様子の怜の返答に、司は苦笑する。これは絶対、意味を分かっていないパターンだ。


「迷惑だなんて思っていないよ。いつも俺が怜の側に居たくて、勝手に首を突っ込んでいるだけだから。まあでも、藤堂会長に頼まれた以上は、ちゃんと怜の花嫁姿を見せてあげなきゃな。」

「え?」

きょとんとした顔をしている怜に、司の唇は弧を描く。


「藤堂会長が凄く見たがっていたんだ。必ず病気を治して、怜の花嫁姿をこの目で見るんだって、意欲を燃やしておられたよ。俺としても、早急にその願いを叶えてあげたいと思うけどね。」


そう言った司が歯を見せて悪戯っぽく笑うと、予想していた通り、怜は顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。


よ…宜しくって、そういう意味なの!?


雅樹に闘病意欲が湧いたのは良いが、よりによって自分の花嫁姿を見たいが為だとは。そんな姿、自分でも想像すら出来ないのに、勝手に目標にされても困る。

羞恥で顔を伏せた怜は、ちらりと横目で司を窺った。まるで悪戯が成功した時の子供のような、満足げな表情を浮かべている。


そ…そりゃあ、結婚を前提に付き合って欲しい、とは言われたけど…。


怜は視線を膝元に戻した。承諾したとは言え、自分の中ではまだその手前の交際の時点で目一杯で、結婚などまだずっと先の事のように思えて実感がなかった。それなのに、花嫁姿などと言われると急激に現実味を帯びてしまった気がして、怜は混乱する。


司さんと、結婚…?


頭がぐるぐる回る中で、怜は少しだけ考えてみた。自分の花嫁姿…は想像も出来ないので、代わりに司の花婿姿を想像してみる。司は背が高く、高級スーツでもラフな私服でも何でもモデル並みに着こなしてしまうので、タキシードもきっと物凄く良く似合う事だろう。それこそどんな女性でも一目惚れしてしまう程、絶対に格好良いに決まっている。外見だけでなく、内面だって真面目で優しい上に、物事を客観的な立場から考えて的確な判断を下したり、自分の意見を尊重してくれてそれを支持してくれたりと、頼り甲斐がある事は仕事からでも今回の一件からでも明白である。これ程完璧な花婿様は、きっと何処を探したって居ないだろう。


…私、釣り合うかな。


司の隣に並ぶ自分を想像した怜はがっくりと肩を落とした。対する自分は女子力皆無。料理など家事全般は必要に迫られてやってきたから一通り出来るものの、お洒落には興味がなく、服は可愛さよりも実用性重視、メイクも薄化粧と言う名のおざなり。面倒事に巻き込まれるのが嫌で防犯も兼ねてずっと地味な格好をしてきたが、司が見た目より中身重視と公言しているとは言え、果たしてこのままで良いのだろうか。


今度、咲さんに相談してみよ…。


涙目で決意した怜は、お洒落で女子力が高く、頼れる友人が居て本当に良かった、としみじみ思った。どうすれば司に釣り合う女性になれるのか…などと怜が考えているとは露知らず、急に落ち込んだ様子を見せた怜に、やっぱりまだ結婚を意識させたのは早かったかなと、司は隣で気を揉んでいた。

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