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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
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お墓参り

翌週の土曜日の朝、怜を迎えに行った司は、都外にある墓地へと車を走らせていた。


「すみません、付き合わせてしまって。」

「いや、全然構わないよ。」


司は怜に微笑みかけるが、怜は今朝会った時からずっと沈痛な面持ちをしている。お墓参りに行きたいと言われた時は、少し驚きつつも彼岸だからかと納得していたが、怜のあまりにも暗く悲しげな表情に、どうやらそれだけではないような気がしてきた。継父と母が眠る墓にはもう五年も行っていないと言っていたが、その事も何か関係があるのだろうかと考えながらも、司は怜にかける言葉が見付からず、自分の情けなさに歯痒さを感じながら運転していた。


やがて車は目的地に到着した。仏花を抱えた怜を気遣い、司は手桶と柄杓を借り、水を汲み入れて運ぶ。雪原家の墓に着き、掃除を済ませた怜は、仏花を飾って線香を手向け、長い間合掌していた。五年分の報告をしているのだろうか。その様子を司は隣で見守っていた。


「あら…どなた?良輝よしてるのお友達かしら?」


声のした方に目を遣ると、四十代くらいの女性が戸惑ったように歩み寄って来ていた。親族で来ているのだろうか、後ろには彼女の夫らしき男性と、年配の夫婦と思われる男女、中学生か高校生くらいの少年が続いている。


「…お久し振りです、あかりさん。良輝さんの継子の怜です。」


今まで聞いた事もない、怜の低く、冷たい声に、司は思わず振り返った。怜は心底彼女達を軽蔑しているかのように、氷のような視線で睨み付けている。見ているこちらまで寒気を感じる程で、司は思わず息を呑んだ。

そう言えば、と司は怜の話を思い出す。継父と母が他界した時に、継父の親族に家を追い出されたと言っていた。まさかその心無い親族とやらが彼女達なのかと、ふつふつと湧いてくる怒りを胸に、彼女達に疑念の眼差しを向ける。


「行きましょう、司さん。」


柄杓を入れた手桶を持った怜は、今度は彼女達などまるで眼中にないかのように、一瞥もせずにすたすたと歩いて行く。慌てて怜の後を追いかけながら彼女達とすれ違った時、司は少年以外は皆、青ざめて微かに震えている事に気が付いた。


「母さん、あの人誰?」


少年のものらしき声を背後に聞きながら、司達は歩みを進め、手桶と柄杓を返して墓地を後にする。司の車に乗り込んだ怜は、はあっと大きな溜息をついた。


「すみません、司さん。お見苦しい所をお見せしてしまって。」

「いや。それよりも、あの人達が、まだ高校生だった君を家から追い出したっていう親族なのか?」

「はい。」

怜の返事に、司は頭に血が上った。今すぐに引き返して彼らに怒りをぶつけたいという衝動に駆られる。


「司さん?」

ハンドルを握る手に力を込め、震わせていた司は、怜の声に我に返った。怜は心配そうな表情で司の顔を覗き込んでいる。


「大丈夫ですか?怖い顔をされていますが。」

怜の言葉に、司は苦笑して肩の力を抜いた。


「それはこっちの台詞だよ。怜の方こそ大丈夫なのか?もうあんな人達には会いたくなかったんじゃ…。」

気遣わしげな表情を見せる司に、怜は視線を外して眉根を寄せた。

「そうですね。正直、もう金輪際関わりたくなどありません。…母の事も、私の事も悪し様に言う人達とは。」


あの親族が近くにいる場所にはもう長居したくないのだろう。苦々しげに表情を歪めた怜に車を出すように頼まれ、司はエンジンをかけてアクセルを踏み込む。暫くの間二人共無言でいたが、やがて怜が口を開いた。


「…司さん、少し私の昔話を、聞いて頂けますか?」

「…ああ。」

前を向いたまま、何処か遠くを見つめながら静かに尋ねてきた怜に、司は少し驚きながらも、ゆっくりと頷いた。


「…以前、私の過去について、大まかにお話しした事は覚えてくださっていますか?」

「勿論だ。忘れた事なんてない。あの時は、無理矢理聞き出してすまなかった。」


脳裏に生気のない表情をした怜が蘇り、司は改めて怜に詫びた。罪悪感と共に、もう二度とあんな表情はさせたくないという強い決意を噛み締める。


「いえ、良いんです。今から聞いて頂きたいのは、あの時お話ししなかった部分なんです。」

怜の言葉に、司は驚愕した。


「大丈夫なのか?だって思い出すのも辛いんじゃ…。」

「はい。でも、心を閉ざして全てを拒絶した為に、後悔した事もありましたから。…司さんにだけは、お話ししておこうと思います。」


怜は相変わらず前を向いたままだったが、彼女の強い意志が伝わってきて、司は戸惑いながらも口を噤んだ。

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