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優秀な秘書

仕事始めの日。

司はいつも通り早めの時間に出勤し、自分に宛がわれた副社長室へと向かう。


「あ、副社長!明けましておめでとうございます!」

ロビーで出くわした社員と新年の挨拶を交わし、役員専用のエレベーターへと乗り込んだ。


「年明け早々副社長に会えるなんてラッキー!相変わらず格好いいわね!」

「いつもクールで話しかけ辛い雰囲気出しているけど、そこがまた良いのよね~!」

ロビーに残された女子社員達がキャッキャと騒ぐのも、最早見慣れたいつもの朝の光景である。


そう、司はモテない訳ではない。むしろ大学時代、陰では明と並んで二大イケメンと評され持てはやされていたくらいだ。母譲りのサラッサラの茶髪、切れ長の目に高い鼻、薄い唇。男らしく整った顔立ちに百八十を越す高身長。目つきがやや悪く、普通に見るだけでも睨まれていると勘違いされる事も多々あるせいか、近寄り難さが醸し出されているが、そこがまた良いとクール系イケメンとして本人の知らぬ所でかなりの人気があったのである。

最も、当の本人はそんな事には微塵も興味がなかったのだが。


カチャリ、と副社長室へと続く副社長秘書室の扉を開ける。


「あ、副社長。新年明けましておめでとうございます。」

先日の事もあってか、抑揚のない声の主、雪原に多少動揺しながらも、司も平然と挨拶を返す。そして副社長室へと入り、鞄を置いてパソコンを立ち上げる。


「失礼します。」

いつもの様に雪原が淹れてくれたコーヒーには、フィナンシェが添えてあった。


「…これは?」


司は怪訝な顔をして雪原を見た。いつもはコーヒーだけなのだが、司の仕事が忙しい時やあまり寝ていない時、果ては機嫌の悪い時には、上手く隠しているつもりでも何故か雪原には分かるようで、司の好きなブランドの焼き菓子等を添えてくれる。

今回はそのどれにも当て嵌まらない筈だが…。


「先程ご挨拶申し上げた時に、副社長が若干上の空のご様子だった事が気になりまして。何か問題をお抱えになっておられるのではないかと思い、業務に集中していただけるようご用意しました。」


無表情で答える秘書に、司は内心で舌を巻いた。

「ありがとう。頂くよ。」

苦笑してコーヒーに口をつけ、自分の部屋へと戻る秘書の後ろ姿を見つめる。


雪原怜ゆきはられい。新入社員採用試験で過去最高の成績を叩き出し、入社半年で定年退職した社長第二秘書の後釜に抜擢され、今は副社長秘書として勤務している。服装はいつも黒のパンツスーツで露出は少なく、肩までの黒髪を無造作に一つに束ねて垂らし、長い前髪に眼鏡で基本無表情。見た目でも仕事内容でも良い意味で女を感じさせないため、妹に指摘されるまで彼女が女である事を失念していた事実に、司は内心で彼女に詫びた。


思えば副社長に昇進した際に宛がわれた秘書達が皆、自分が苦手とする女達だったせいではないだろうか。揃って不必要なくらい胸の谷間を強調した服に、屈んだら下着が見えそうな丈のミニスカート、長い茶髪の巻き髪に濃い化粧、派手なネイルで、鼻にかかる甘ったるい声。コーヒーのお代わりだのお菓子を頂いただのとしょっちゅう理由を付けては副社長室に入って来るわ、仕事を与えても質問ばかりしに来るわで自分の仕事すら捗らない有様。堪りかねて何度秘書を代えたか分からない。いい加減次は男性秘書と限定してやろうか、と思った所で異動して来たのが雪原である。


彼女が秘書になったお蔭で、司は漸く心の安寧を得た。他の秘書達の様に媚を売るような真似はしない。それどころか、父に鍛えられたという事もあって雪原は非常に優秀だった。日々のスケジュール等は一応手帳に書くものの完璧に諳んじているようで、仕事は常に設定した期限よりも早く終わらせ、ミスもなければ優先順位を間違える事もない。司とハードスケジュールの外回りや出張に出ても深夜まで仕事に付き合わされても、顔色一つ変えずにこなし、体力面も文句の付けようがなかった。

…だからこそ女性という認識が徐々に薄れていってしまったのかもしれない。


司は先日明に言った条件を思い出していく。

我が儘でなく理知的、話も要点を抑えていて簡潔、決断も早く金銭感覚もあり、見た目も派手ではない、問題も冷静に自己解決できる…と、確かに咲の言う通り、雪原ならこれら全てに当て嵌まっている気がした。しかも会社の役に立っている事は明白である。


「雪原君、か…。」


司の呟きと時を同じくして、雪原は隣の部屋で急激な悪寒に身を震わせた。

設定は適当な所が多々あります…。

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