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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
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恋愛話

「雪原さん、お腹一杯になったかしら?」

「はい。とても美味しかったです。ご馳走様でした。」


アイスクリームを食べ終え、怜は軽く頭を下げた。華と咲は嬉しそうに顔を見合わせて笑っている。三年前に初めて会った時も思ったが、こうして見ると二人は一目で母娘だと分かる程、本当に良く似た顔立ちをしている。咲は明らかに母親似、司は目元からして父親似だなと思いながら、怜は食後に出されたコーヒーを口にした。


「ところで雪原さん、一つ訊いても良いかしら?」

「はい。何でしょうか?」

笑顔で訊いてきた華に、怜は表情を引き締めた。


「雪原さんの好みの男性って、どんな人なの?」

華が身を乗り出して尋ねる。

「あ、それ私も知りたい!」

咲も同様に身を乗り出した。

「好み…ですか?」

予想とは違った質問に、怜は面食らった。


「私は恋愛に興味がなかったので、考えた事がありませんが…。」

答えながら怜は、先週同じ質問を司にされた事を思い出す。

「…強いて言うならば、私の短所を含め、全てを受け入れてくださる方、でしょうか…?」

「あら、随分守備範囲が広いのね?」


華は首を傾げた。先週、電話で聞き出した限りでは、司は彼女に告白はしたものの、未だに片思い中で振り向かせようともがいている所だと言う。母親である自分が言うのも何だが、息子は本人の希望を別にしてそれなりにモテる方だと思っているので、彼女が余程男性の好みに煩いのかと考えたが、どうやらそうでもないようだ。司の配慮で、彼女には色々複雑な事情があるらしい、としか聞かされていない華は、その事によるのだろうかと、あまり首を突っ込まない方が良さそうに思えた。


「広い方なのでしょうか?もし宜しければ参考までに、お二人の場合をお聞かせ願えませんか?」

怜の申し出に、華と咲は楽しそうに笑顔を見せた。咲が「そうだなー。」と言って語り始める。


「私の場合はね、包容力のある人が一番だったな。他にも明るくて気が合って、とか色々思っていたけど、どうしても外せない所って言われたらそこ。お兄ちゃん曰く、私はお父さんとお母さんに甘やかされたから我が儘らしいんだよね。自分でも多少の自覚はあるけど。で、それを受け入れてくれる人って言うのがタイプの男性、だったかな。」

咲は顔を赤らめて笑った。


「明君は包容力だけじゃなくて、理想的な男性なんでしょ?」

「うん!あーくんと最初に会った時は、単にお兄ちゃんの友達っていう認識だったけどね。格好良い人だとは思ったけど、イケメンはお兄ちゃんで見慣れていたし。一目惚れしたって告白されて、あーくんの事お兄ちゃんに色々訊いてみたら、女好きだから勧められないけれど、それまで周りを取り巻いていた女性陣とはすっぱり手を切ったみたいだから、お前の事は本気なのかもなって言われて。一回デートするくらいなら良いかなって思ってしてみたら、色々エスコートしてくれるし我が儘も聞いてくれるし明るくて楽しいし。他の女の子にも優しい所は相変わらずだけど、私だけは特別だっていうのが分かるから、結婚するまでになっちゃった。」

咲は照れたようにはにかんだ。


「咲は本当に良い人と出会えて良かったわね。」

華はにこにことしながらコーヒーに口を付け、静かに話し始めた。


「私の場合は、理想が高すぎたのよね。仕事が出来て格好良くて、スポーツマンでお金持ちで、優しくて私の我が儘を聞いてくれる人、って。でもそんな理想的な人なんて中々いないし、いたとしても凄く競争率が高くて、私みたいな我が儘な女よりも、もっと可愛げがある子を彼女にしていたわ。」

「それでは、どのような経緯で社長とご結婚されたのですか?」

怜の質問に、華はふふっと笑った。


「お見合いよ。」

「お見合い…ですか。」

怜は意外そうに目を丸くする。


「身の程を知らずに理想ばかり追い求めていたから、二十代半ばになっても彼氏の一人も出来なくてね。出会いは少なくなる一方だし、周りはどんどん結婚していくしで、私だけ置いて行かれている気がして焦って、親の勧めでお見合いをする事にしたの。それでも最初は条件を譲る気になれなくて、何回もお断りしてしまったわ。でも漸く反省して自分を見つめ直す気になってきた頃に、お見合いしたのが主人だったの。」

華の昔語りに、咲が思い出したように口を開いた。


「その頃のお父さんは、仕事一筋だったんだって。女っ気が全然なくて、生活習慣も滅茶苦茶で。遂に過労で倒れちゃって、心配した周囲が結婚したら少しはましになるだろうと、お見合いを勧めたんだってさ。」

「何処かで聞いたようなお話ですね。」

呆れたような眼差しをする怜に、二人は苦笑する。


「主人は理想そのものとは言えなかったけれど、何度か会ううちに、一緒に居ると穏やかになれる自分に気が付いたの。多少の我が儘は聞いてくれるけど、度が過ぎたものはちゃんと諭してくれたり、私が感情的になってしまっても面倒臭がらずに、話をきちんと聞いた上で冷静な見解を述べてくれたり。まだまだ子供じみた所がある私に比べて、彼は大人なんだなって段々惹かれていったの。主人も徐々に私と過ごす時間を大切にしてくれるようになって、それまでの働き方を見直して、何でもかんでも自分で抱え込まずに、人に任せられる仕事は部下に割り振るなど改善したそうよ。結婚してもう三十数年になるけれど、何だかんだ言っても結構幸せに過ごしてきたわね。」

華はそう言って気恥ずかしそうに微笑んだ。


「ごめんなさいね。おばさんの惚気話なんて、あまり面白くなかったでしょう?」

「いえ、大変参考になりました。」


怜は軽く頭を下げた。手を伸ばしてコーヒーを一口飲んだ時、コンコン、とガラス戸をノックする音が響いた。最も近くに座っていた咲が立ち上がり、レースカーテンとガラス戸を開ける。


「母さん、ちゃんと片付けたから。」

憮然とした表情の司が、お皿やコップを運び入れる。

「あらあら、思ったより早かったわね。余程雪原さんの事が気になるのかしら?」


華はクスクスと笑いながら、咲と一緒に洗い物を台所へと運んだ。怜も手伝おうと立ち上がったが、運搬を早々に切り上げて中に入って来た司に腕を取られる。


「怜、母さんに何か嫌な事とか言われていないか?」

「いいえ?アイスクリームを頂いて、お二人の馴れ初め話を伺っていただけですが。」


半ばきょとんとしたような表情を見せる怜に、どうやら心配は杞憂に終わったようだと、司は胸を撫で下ろした。そんな司の様子に首を傾げつつ、怜は華がいる台所の方を見遣る。


司さんの事、心配されているんだろうな…。


部下とは言え、他人の自分でも司のオーバーワークを心配するくらいだ。家族ともなれば尚更だろう。社長が見合いを切っ掛けに働き方を改善し、結婚して幸せな生活を送ってきたのであれば、昔の社長と酷似した状況である司の身を案じて、本当に倒れてしまう前に、同様の解決法を提案し、またそれを望んでいるであろう事は想像に難くない。


…話す気なんて、無かったけど…。


怜の脳裏を、過去が過ぎる。司達と過ごす一時を手放したくはなかったが、司の為を思えばこのまま打ち明けずに壁を作ったまま、ずるずると今の関係を継続するのは良くないと思った。過去を洗いざらい話し、その結果皆が去って行っても、そう、元の生活に戻るだけだ。例えそれが以前よりも寂しく、より孤独に感じられるものになったとしても。

怜はそっと唇を噛み締めた。

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