笑顔
「やったあ!自己ベスト更新!」
「凄いですね、咲さん。」
ゲームを終え、咲は渡されたスコア表を怜に見せてはしゃいでいる。
「くそー。結局一勝一敗一分かよ。」
「それはこっちの台詞だ。折角延長したのに、最後まさか引き分けるとはな…。」
一方、明と司は共に不本意そうに呟いている。
「怜さんは初ボウリングどうだった?」
「そうですね。楽しかったですけど、悔しくもありました。見てください、折角のストライクの後のフレームで計三本しか倒せていなかったり、スペアの後ガターだったり。勿体無さ過ぎです。」
「本当だ。でももうちょっとで三桁じゃない。初めてでこのスコアは凄いと思うけどな。」
「そうなんですか?でも次は頑張って三桁目指します。」
咲と怜の会話に、司は口元を緩めた。現状に満足せずに自分で目標を設定し、上を目指そうとする姿勢は会社でもここでも変わらないらしい。スコア表を見ながら少し不満げにしている怜を好ましいと思いながら、司は彼女を見つめていた。
「怜ちゃん、次は何かしたいものはある?」
明の問いかけに、怜は少し考えて首を振る。
「いえ、私はもうボウリングを選びましたので。咲さんと司さんは何かありますか?」
「そうだなー。スポッチャも気になるけど、ちょっと疲れたしカラオケかな?」
咲の一言で、次はカラオケと決まる。カラオケも初めてだと言う怜に、咲は選曲の仕方を教えながらまずは自分が歌う曲を入力した。ノリが良い流行りの曲を、張りのある綺麗なソプラノで歌い上げる。
「次、怜さん歌ってみる?」
マイクを差し出された怜は、困惑したような表情を浮かべた。
「えっと…すみません、知っている曲自体があまりなくて、それもフルコーラス歌えるか怪しくて。今日は皆さんが歌うのを聞いていようと思うのですが…。」
怜は表情を曇らせて申し訳なさそうに俯く。
「大丈夫だよ、怜。怜が歌いたい曲を、歌える所まで歌えば良い。」
司の言葉に、怜は目を丸くして顔を上げた。
「そうそう!折角の機会なんだし、聞いているだけなんて勿体無いよ!」
「人前で歌うのが苦手な人もいるし、怜ちゃんが歌いたくないって言うなら無理強いはしない。けど、そうじゃないなら一緒に楽しもう。」
温かい言葉をかけてくる三人に当惑しながらも、怜はおずおずとマイクを受け取った。電子目次本に手を伸ばし、辛うじて歌えそうな曲を選ぶ。学生時代のアルバイト先で一時期は毎日のように流れていた、当時流行っていたと思われる曲は、全ての歌詞は覚えていなかったが、画面を見ながら最後まで歌う事は出来た。
「怜さん、上手!」
「良かったよ、怜。」
「怜ちゃん上手いじゃん!」
歌い終わると、三人が一斉に拍手した。
「あ…ありがとう、ございます。」
怜は顔を真っ赤にして俯く。
良い人達だな…本当に…。
怜は俯きながら三人をちらりと見た。皆明るくて優しい笑顔で真っ直ぐに自分を見てくれている。怜の胸にじわりと温かいものが湧き上がった。
「んじゃ、次は俺な。」
明がマイクに手を伸ばす。
「そうだ、ここからは採点しようぜ。司、ボウリングの延長戦だ。どっちが高得点出すか、でどうだ?」
「いいだろう。望む所だ。」
何故か再び対決モードになった二人に、怜は目が点になり、咲はやれやれと溜息をついた。明がアップテンポの曲で高得点を出せば、司も負けずに明るめのバラードで張り合う。
「ねえ怜さん、この曲知ってる?」
咲が示した有名なヒット曲は、流石に怜も聞き覚えがあった。
「はい、知っています。」
「じゃあ一緒に歌おう!」
二人が一緒に仲良く歌う光景を、司も明も微笑ましく見守る。
「怜ちゃん、俺とも一緒に歌おうぜ!」
明の言葉に、司は頭に血が上った。
「明!お前、二人で歌いたいなら咲と歌え!」
「いーじゃん、俺だって怜ちゃんと歌いたいし。次期社長にしては器量が小さいぞお前。」
「小さくて結構。お前とだけは断固として歌わせないからな。」
曲はもう始まっているのに、二人の言い合いは終わりそうにない。その隙に、咲はちゃっかり電子目次本を手にする。
「あーくんもお兄ちゃんも歌わないなら、私が歌おっと。」
咲は手際良く明の曲を取り消してしまい、自分の曲を入力した。
「あ!ずるいぞ咲!」
明に困り顔で抗議されても、咲はしれっとして歌い続ける。どこか得意気な表情の咲に、唖然としていた怜は何だか可笑しくなってきた。クスリと忍び笑いをする怜に、三人の視線が集まる。
…まあ、怜ちゃんが笑ってくれているなら良いか。
毒気を抜かれた明は諦めたように溜息をついて頬を緩め、咲は嬉しそうに顔を輝かせる。司は頬を染めて目を細め、愛しげに怜を見つめていた。




