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興味

翌日。


「おはようございます、副社長。土曜日はどうもありがとうございました。」

出社した司に、雪原が深々と頭を下げた。相変わらずいつもの格好をし、伊達眼鏡もかけている。


勿体無い、と司は思った。あれだけ美人なのに、どうしてお洒落をしないのだろうか。女性は皆お洒落好きだと思っていたのに。


「おはよう。土曜日はお疲れ様。」


挨拶を交わしながら、司はさりげなく雪原の首元を確認した。予想していたとは言え、やはりネックレスが着けられていなかった事に内心で落胆する。雪原の手前、気取られないように注意し、副社長室の椅子に座ってから溜息を吐き出した。


気に入ってもらえなかったんだろうか。凄く良く似合っていたし、嬉しそうに笑ってもくれていたのに…。


項垂れていた司は、コンコン、と副社長室の扉をノックする音を耳にし、慌てて姿勢を正した。


「失礼します。」

いつものように雪原が淹れたてのコーヒーを持って来た。


「副社長、もし宜しければ、受け取って頂けませんか。」

コーヒーカップを置いた雪原は、紙袋を差し出して来た。


「これは?」

「土曜日のお礼です。素敵な服とネックレスを頂きましたので、そのお返しに。…と言っても、気持ちだけですが。」

紙袋の中には綺麗にラッピングされた菓子箱が入っていた。司の好きなブランドの焼き菓子の詰め合わせだ。司は思わず顔を綻ばせた。


「ありがとう。嬉しいよ。服、気に入ってもらえていたらいいんだけど。」

「勿論です。本当に嬉しかったです。ありがとうございました。」

「それなら良かった。ネックレスも普段使い出来る物だから、着けてもらえると嬉しいな。」

そう言って雪原の目を見つめると、雪原は戸惑ったような表情を浮かべた。


「その…私は普段アクセサリーの類は着けませんし、副社長から頂いた物なので恐れ多くて。万が一にも失くしたくありませんし、大切にしたいので、普段はしまっておいてここぞという時に着けようかと。」

雪原の返答に、司は安堵の笑顔を見せた。


「そんなに大切に思ってもらえるなんて光栄だよ。でも、しまっておかれるよりも普段から身に着けてもらった方が俺は嬉しい。失くしたらまたプレゼントするから。」

「とんでもないです!失くさないよう気を付けますから。」

「じゃ明日から着けて来てくれる?」

「…分かりました。」

雪原の約束を取り付けた司は、満面の笑みを浮かべた。


「あと、伊達眼鏡はやっぱり外さないのか?折角美人なのに勿体無いと思うけどな。」

「先日も申し上げましたが、この方が面倒事に巻き込まれなくて済みますので。」

「面倒事って?…もしかして、君が恋愛に興味ない事と関係ある?」


不興を買う事を承知の上で敢えて訊くと、一瞬、雪原が顔を強張らせたのが分かった。注視していなければ気付かなかったような些細な変化だった。


「そのような事をお尋ねになって、どうなさるおつもりですか?」

雪原が平然と訊き返す。司は立ち上がり、雪原の隣に移動して向かい合った。


「俺は君と二年間一緒に働いてきたのに、君とする話は仕事の事ばかりで、君の事は殆ど知らない事に今更ながら気付いたんだ。…失礼な話だよな。そんな状態でプロポーズしていたんだから。…だから、君の事をもっと良く知りたい。君が秘書として、俺の事を良く分かってくれているように、俺も君の事をもっと分かるようになりたいんだ。」


想いを込めて雪原の目を見つめる。雪原は視線を外して俯いた。


「…私が伊達眼鏡をかけているのは、このような面倒事を避ける為です。」

雪原が呟くように口にした言葉に、司は顔色を失った。


「私に興味を持って頂くのは、二ヶ月後、副社長がお相手を見付けられなかった時にしてください。…失礼します。」


一礼して雪原が背を向ける。立ち去る彼女を引き止めたいのに、司は掛ける言葉を見付けられなかった。

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