同窓会
同窓会の会場は、司達の同級生の一人、菊池が店長を勤める飲食店だ。
明を先頭に、三人は雑居ビルのエレベーターに乗り込んだ。目的の階に到達し、店内に入って店員に案内してもらう。個室の座敷席には、既に十数人が揃っていた。
「おお!!西条に最上!久し振り!!」
体格の良い菊池が声を張り上げると、一斉に黄色い声が飛び交う。
「明君!!最上君も!!久し振りね~!!」
「二人共相変わらず格好良いわね!!」
キャアキャアと騒ぐ女性陣に軽く挨拶した一行は、菊池に促され、男女の境目で空けられていた中央付近の席に着く。明がさっさと雪原を連れて空いていた手前側の二席を埋めてしまったため、司が仕方なく回り込み、菊池の左隣、雪原の向かい側に座ると、女性陣が空いていた左隣の席を詰めて来た。
「その子がお前の言っていたスペシャルゲスト?」
菊池が興味津々の様子で明に尋ねる。
「そう。雪原怜ちゃん。司の秘書なんだけど、今日はWESTの宣伝でモデルやってもらってまーす。」
明が紹介すると、「おお~!」と感嘆の声が上がる。驚いたのは司と雪原だ。事前に何も聞かされていなかったのだから。
「えー!?じゃあ明君、その子の服全部WESTなの!?」
「こんな服もあるんだ。シンプルで良い感じ!」
「ねえ明君、もしかしてそのネックレスもWEST!?」
「当たり。流石、お目が高いね。」
「可愛い~!!私も欲しいな~!今度また買いに行くね!!」
戸惑う雪原を置き去りにしたまま、明と女性陣が盛り上がる一方で。
「羨ましいぞ最上!!あんな美人が秘書だなんて!!」
「あーでも最上には関係ないんじゃね?女嫌いだし。」
「じゃあ俺にもチャンスあるかな?」
「ねーよ!!そもそもお前彼女いるだろうが!」
「いや、仕事が忙し過ぎて半年前に振られた。」
「マジか。それはご愁傷様。」
司は耳に入ってくる男性陣の会話に眉を顰めていた。
「ごっめ~ん!遅くなって!!」
遅れて来たのは大谷だ。長い茶髪に少しきつめの顔の美人で、大学時代、男子から人気があった女子のうちの一人だが、司は彼女を苦手としていた。
「皆久し振り~!!あっ司君もいる!!」
司を見付けて目を輝かせた彼女は、わざわざ司の左隣に割り込んで来た。司は思わず顔を顰める。
「よし、じゃあ全員揃ったし、飲み物何がいい!?」
菊池がオーダーを取る中で、司は嬉々として話し掛けてくる大谷に早くも辟易していた。
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「でね~本当最低でしょ?そんな訳で今彼氏募集中なんだ!ねえ、司君は相変わらず女嫌いで、彼女いないの?」
司が極力無視をしているにもかかわらず、大谷は別れた彼氏の愚痴を延々と聞かせながらスキンシップを取ろうとしてくる。
「司君は最上グループの跡取りなんだし、そろそろ親とか周りが結婚に口出ししてきてない?」
内心痛い所を突かれた司は、いい加減我慢の限界を感じた。大谷の手を振り払い、トイレに行く振りでもして誰かと席を替わってもらおうと思いながら司が立ち上がりかけた時。
「えっ雪原さんって二十七なの!?」
耳に飛び込んできた菊池の言葉に、司は思わず腰を下ろした。
「そう。俺も初めて聞いた時は驚いたよ。落ち着いているから大人びて見えるし、最上グループの副社長秘書を勤めているんだから、もう少し年上かと思ってた。」
明の言葉を聞きながら、司は改めて雪原を見る。二十七なら自分の二つ年下、咲の一つ年上だ。自分より入社が遅かったから年下だろうとは思っていたが、彼女の年齢すら知らなかった事実に司は愕然とした。
「確かに、俺達よりしっかりしているよな。雪原さん、食べ物の好き嫌いはある?」
菊池が雪原に尋ねる。
「いえ、特にありません。」
これは分かる、と司は思った。接待の場でも宴会の場でも、出された物は何でも口にしていたからだ。
「じゃあ甘い物は好き?」
「はい。特にアイスクリームが好きです。」
それは…知らなかった。
「そうなんだ!じゃあ今日は是非色々食べて行ってよ。うちの店はデザートにも力を入れていて、アイスを使った物もあるし、アイス自体も何種類かあるから。」
菊池が差し出したメニューを受け取り、デザートのページを開いた雪原の目は輝いて見える。彼女がデザートを選ぶ時はいつもこんな表情をしていたのだろうか。司は記憶を辿ってみたが、思い出す事は出来なかった。




