第一章 満月の夜に⑥
「おばちゃん」
煌々とすべての明かりをつけた部屋で、祥子は肩をビクンと動かす。
目の前にアキオが立っていた。
「来ないで」
アキオが悲しい目で、叫ぶ祥子をじっと見つめる。
「ぼくの言ったこと、信じてくれた?」
「し、信じるって。これは悪い夢なの。私は病気なのよ。あ、明日、病院行って薬を貰えば、もうあなたなんか見えなくなるわ」
半ば自分に言い聞かせるように祥子は喚きながら、玄関へ後退りを始める。
「ほら言ったことない」
急に部屋の電気がバシバシいい出す。
「大人なんて信じちゃダメだ。俺たちみたいな子供に頼もう」
「でもタクちゃん、やっとぼくたちの信号に気が付いてくれた人だよ」
「また、インチキ坊主連れてこられるだけだ。そしたらまた何年も息を顰めさせられるんだぞ。そんなことしたら、お前の親の方が死んじまうぞ」
「おばちゃんはそんなことをしない、よね? ぼくのお願い、聞いてくれるよね」
ダメよ。私はもっと強いの。こんな簡単に壊れてしまうはずがない。
息が苦しくなった祥子はその場で蹲る。
アキオの目から涙が数滴落ちるのが、はっきりと頭の中に浮かび、祥子はやめてと叫んだ。
「おまえ、アキオを泣かしたら俺が許さねー」
けたたましい音が祥子を襲う。
「タクちゃん止めて!」
アキオの声が、一際大きく祥子の頭の中で響く。




