表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の涙  作者: kikuna
4/28

第一章 満月の夜に④

 まただ。

 蒲団に吸い込まれるような変な感覚がして、押しつぶされそうな暗闇が目の前に広がったかと思うと、ふっと躰が軽くなる。

 「このおばはんか」

 祥子は、その声に目を凝らす。

 ぼんやりと佇む一人の少年と目が合い、祥子は慌ててしまう。

 「ぼく、アキオクン」

 屈託のない笑顔でそう名乗った子は、まだ幼いように見えた。

 アキオと名乗ったきり、少年は何かを言いたそうに、じっと見つめらるだけだった。

 数日それは続き、眠るのが今日に思えて来た祥子は、やはりストーンと奈落の底に落とされるように眠りにつく。

 「大丈夫なのか」

 最初にそんな声が聞こえた祥子は、眉を顰める。

 「たぶん大丈夫だと思う」

 いつの間にか、カーテンが開いた窓から月が見え、真っ赤な彼岸花が映える。

 「あのー」

 今日は思い切って話しかけてみようと思った祥子に、アキオは待ち構えていたかのように満面の笑みを浮かべる。

 「あのね、この子、タクちゃん。ぼくのお友達。心配して一緒に来てくれたんだ」

 「えっと、こんな質問をするのもおかしいと思うんだけど……。どうして、毎日私の夢に出て来るの?」

 タクと言う男の子が鼻を一回鳴らす。

 「あのねぼく、おばちゃんに頼みたいことがあるんだ」

 「頼みごと?」

 祥子は眉を顰める。 

 「ママにあって欲しいんだ」

 「ママ?」

 コクンとアキオが頷く。

 「伝えて欲しいんだ。僕が死んだのはママのせいじゃないって」

 死んだって……。

 祥子はそのまま絶句してしまった。

 

 きっと私は心の病気にかかっている。だからこんな夢を続けているのよ。

 祥子はぎこちない笑顔をアキオに向けながら、思いついた呪文やお経を口の中で何度も何度も唱える。

 「こいつはダメだ。アキオ、他を探そう」

 タクの目が鋭く祥子を睨みつける。

 ゾッとするくらい冷たい目だった。

 背筋に冷たいものが走り、祥子は躰を硬直させる。

 「大丈夫。おばちゃん、ぼくの話、聞いてくれるよね」

 今にも泣き出しそうなアキオに、祥子は何も答えられず下を向いてしまう。

 「だから、こいつじゃ無理だって」

 急に耳元で言われ、祥子は飛び上がる。

 「タクちゃんは黙ってて」

 アキオの叫び声に、耳元で舌打ちするのが聞こえ、祥子は只管目が覚めることを祈った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ