第五章 重なる月と太陽④
月が静かに光を取り戻していく。
祥子はメールを打った。
返事はたぶん返って来ない。それでも伝えたかった。あなたの母親であることは止めていないことを。
横断歩道に、もうアキオの姿はない。
タクが住んでいた部屋には、新しい入居者が入ったらしく、ベランダに洗濯物が干されている。
年の瀬が迫った公園のベンチに座った祥子は、砂場で遊ぶ親子連れを眺めていた。
この数日間に起きたことは、何だったのか分からない。長い長い夢を見ていたような気がする。
あれから雅春から一通だけメールが届いた。
うぜーの一言だったけど、祥子はあの子なりの優しさだと思う。
「ママさん、この子にお菓子を上げもいいかしら?」
祥子に話しかけられた母親が、きょとんとして頷く。
「金平糖って言うのよ。あなたは幸せそうだから、はい、白いの」
小さな男の子の手にのせてあげると、にっこりほほ笑む。
もっと誰かに自分の気持ちを話せたのなら、本気で心配してくれる人がいたのなら、こんな悲しみは生まれなかったのに。
神様とか、そういうものは今も信じていない。けど、あなたたちがいたのは信じる。初めて会った日が、タクの誕生日と決めたの。美味しいものをたくさん作って、お祝いをする。今度は幸せな家庭に生まれてこれるように。これが私がしてあげられるあなたへの供養。それでいいわね。そして、雅春にも会いに行こう。もっともっと強い母親になって。
そして――。
月がまた満ちて行く。 <Fin>




