第五章 重なる月と太陽②
――無意識だった。
祥子はタクを抱きしめていた。
煙ったがるように祥子の手を振り払ったタクが見据える。
小さく舌打ちを一回鳴らし、バーカとだけ言うと姿を消してしまう。
「タクちゃん照れていた?」
「うん照れていたわ」
アキオとモモコは顔を見合わせてから、ゲラゲラと笑いだす。
「母様を嫌いな子供はいないわ。何があっても母様は母様。子供にとって特別な存在よ。タクちゃんだってそんなのは分かっていると思うわ。恨んでいるとかじゃないと思うのよ」
「全然違うよ。お母ちゃんが、変な男に騙されないように見張っているって言ってたもん」
「それじゃ……」
「でもいいんだって。ぼくらと一緒に行くって。じゃないとまた生まれて来れないからって」
祥子はその場に泣き崩れる。
「私は酷い母親よ。あんなことをしてしまったの。だからあの子にはそんな思いのまま生きて欲しくない」
モモコがピンクの風船を祥子に差し出す。
「間違いは誰にでもあるわ。きっと許されないことだってあるけど。でもね、世界共通、うんうん、私たちにもね」
モモコがウィンクすると、アキオがコクンと頷く。
「ママがいなければぼくらは生まれてこなかった。ぼくらは少なくてもママのお腹にいた時間は無条件で愛されていたと思う」
「まぁおませさんね」
アキオはモモコに冷やされ、えへへと笑う。
「タクちゃんが教えてくれたんだ。俺だってママに愛されたことがあるって。あのバカな母ちゃんだってちゃんと俺を産み落としたんだからな。流れ上だけどって言ってたけどね。ぼくもそうだと思った。だってね、陽子先生が言ってたけど、赤ちゃんを産む時ってすごく痛いんだって」
「そうよ。すごく痛いのよ」
「モモコさん知っているの?」
モモコの言葉に、アキオが目をまん丸くして聞き直す。
「内緒」
そんなやり取りに、祥子は顔を上げ泣き笑いをしてみせる。




