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指名手配と森の盲目美少女

今回お笑い少なめのチート公開

「ふぅ~、やっとシャバに出れたか…って、なんだか騒がしいな。何が有ったんだ?」


 俺が闘技場の玄関、城で言えば裏口と言える扉から出てきた所で、幾つもの足音が引っ切り無しに鳴り響いていた。


 しかも、その多くは城から城下町の方へと向かっている。


 しかし、この世界は俺のしていたゲームの世界とあまり変わらん魔導技術らしいな。


 目の前に見える厩舎の馬にしても柵に逃走防止の結界が張られているし、馬を繋いでいる鎖も遠くて分からんが、何かしらの模様が彫られている。


 恐らくあれは魔法陣を掘って馬が逃げようとしたり、盗難されたりした場合の物だろう。


 ゲームの世界でよくあった技術だ。


 しかも、所どころに現代技術も散りばめられている。


 それの代表例が各民家の上に付けられているアンテナだろう。


 この世界でどういう意味が有るのかは謎だが、何かしらの受信機だと言うのは想像が付く。


 全くもってレベルが上がればやり易そうな世界っぽいな。


 ……っと、考え込む前に召喚獣の確認と、逃げ道の確保が先か。


 それと、逃亡の邪魔になりそうだから剣は仕舞っていた方が良さそうだな。


 ってことで、俺は剣を指輪にしまうと召喚をしてみる。


「…っと、唯の召喚は頭で思い浮かべながら、召喚≪サモン≫だけで良いのか。意外と簡単だな」


 てっきり召喚壺が要ると思ってたが、これは恐らく合成の時の物だな。


 では、やるか。


「召喚≪サモン≫、サモンドック」


 俺の詠唱?の後、俺の前にゲームでよく見る幾何学模様のしかし、何故かポリゴン式の立体画像が現れ、その画像がどんどん滑らかに成り、その場に大人の犬サイズの魔物が現れた。


「ガウ!!」


 召喚された犬は、そう一声鳴くと、俺の足元に擦り寄り、「くぅ~ん」と泣きながら傍に待機する。


「…召喚獣とは思えんほど可愛いな」


 しかし、コイツの情報は見れんのか?


 思っても現れんし、それとも何か条件が有るのか?


 もしかしたら、自分のレベルを考えてその場の条件に合った召喚獣を召喚しろって事か?


 それならそれでやり様は有るが。


 まあ、今はここから逃げて何処か目立たない所に落ち着くか。


「よし、犬…ポチ。俺を乗せて…って載せれるか?」


 俺が問いかけると、先ず俺の体を眺め


「…ガ!?…ガゥ~!??」


 弱弱しく鳴き、次第に……


「…ガウ………ガウ!!」


 おお!悩んだ末に頷いた!


 こいつ、嬉しくなる反応分かってるな。


「よし、良い子だ」


 ドン!っと俺はポチの背中に乗ると、少々沈んだ体を心配しながら命令した。


「行くぞ!先ずはこの城を出て何処かの森だ!」


「ガウ!」


 っと、ポチが反応し、目の前がイキナリ移り変わった。


 …な、何が起きた?


「こ、ここは何処だ?…ポチ、ポチ?」


「ガウ?」


 ポチがまるで「何?」とでも言う様に首を傾げる。


 それに釣られて俺が周りを見ると、木が沢山生えているのでどうやら森の様だ。


 しかし、イキナリで何処を通ってきたか分からんな。


 取りあえず、更に遠くを見ると、遥か前方に城が見えるからココはどうやら一応城下町の様だ。


 しかし、城とは違って、この森の近くではそんなに慌ただしい感じはしない。


 取りあえず、ポチをここに待機させて、町の様子を見てくるか。


「ポチ、少しここで大人しくしてろ。けど、俺が呼んだら直ぐに来いよ?絶対だぞ?」


「ガウ!」


 よし、この反応なら大丈夫だろ。


 そうして俺は森を抜けた所にいる一人の男性を見つけた。


 町で初めての人間なので取りあえずこの男性に声を掛ける。


「すまんが、ここは何処だ?」


「!あ、ああ旅の奴か?あんまり見ない格好だから、魔物かと思ったぜ。けど……アンタ、人相書きに似てるな…。一応聞くが、この国の名前は?」


「知らん。教えられていない」


 イキナリ何なんだ?


「じゃあ、次。この国の…って、これも教えられてない奴も多いかな?…誰でも知ってるのってなかなかないもんだな。…っと、そうだ。アンタ位の背格好なら、レベルの上がり方に関しての知識は教えられてなくても経験で解かるだろ。…この国で育っていたのなら」


 ?どういうことだ?


「何を言ってんだ?」


「ああ、言って無かったな。どうやらこの国のお姫さんが禁忌に近いらしい異世界召喚をやらかしちまって、その副作用で序に来ちまった奴が、明日の処刑前に脱獄したらしいんだ。それで今は町中で人相書きを配って指名手配中だ。何でもお姫さんと、そのお付に召喚されたばかりの魔法使いの女の子が今そこいら中を探し回ってるらしい。俺ら民衆はその人相書きの人物を見かけたら、誰でも解る事を答えられない奴をその犯人だという事で捜査を協力してるって訳だ。俺ら民衆からすればお偉いさんの尻拭いに駆り出されてるってだけだから、捕まえても後味が悪いが、協力しなかったら上にバレて何をされるか分からんからな。特にやらかした第二王女に。今いない国王や第一王女なら、そんな心配ないんだが、居ないのは仕方ないって事で、協力も止むなしって事だ。…って事で、質問の続き良いか?」


 ……ヤバいぞ!これは非常に拙い。


 見つかったら殺される。


 どうすれば…そうだ!


「なあ、その人相書きっての、見せてくれるか?」


「?ああ、良いぜ?…っと、コイツだ」


 …何か、やけに魔道文明が発達した国なのか?


 それとも、この世界全体がそうなのか知らんが、俺がやってたゲームの文明より、少し発展してる気がする。

 少なくとも、俺の知識では、文字のスライド式の魔法紙は未だそれ程普及してなかった筈だ。


 その割には闘技場の魔物のレベルは結構知識に近かったし、意味が分からんな。


 まあ、今は似顔絵か


 どれどれ……?


 ……似てる…いや……似てるなんてレベルじゃないな。


 どれだけ俺をマジマジと観察したのか分からんが、鏡で見た事のある顔にそっくりじゃねえか。


 しかし、こうまで似てたら他人のそら似は難しいが…


 一か八か、言ってみるか。


「ああ、コイツならさっきこの奥の犬に殺されてたぞ?俺とあまりにも似てるんでビックリしたんだ。そんでそいつが履いてた履物だけ拝借して来たんだ。ほれ、この靴。珍しいだろ?この下着もそうだぜ?」


「…へー、確かに珍しい履物だな。……分かった、ありがとな?調べてみるわ。…って、よくお前は無事だったな」


「?ああ、俺は少し用を足していたんで、そのお蔭で無視されたらしい。…何で無視されたかってのは聞くなよ?」


「いやいや、お前のその体を見れば想像つくさ。…けど、それなら俺も様子を見に行くのはヤバイな」


「ああ、やめとけ。それとも、俺のパンツとお前の下着交換するか?」


「!!止めてくれ。ってか、サイズ的に合わんだろ!」


「はっはっは!そりゃそうだ!」


「…まあ、犯人が死んだならそのうちこの騒動も止むだろ。…しかし、お前って知識なさすぎだな。この国の名前と国王様、後有名な第一、第二王女様位の名前くらいは知っとけよ?」


「そんなの、俺は孤児で最近まで変な山奥に動物と暮らしてたんだ。知識なんて蓄えられるはず無いだろ」

「そうなのか?…じゃあ、文字は読めるか?読めるならこの情報誌の魔法紙をやるよ。情報をくれた礼だ」

「山に来ていた人間のを色々見てたから、もしかしたら読めるかもな?…見せてくれ」


 そして、俺は魔法紙を見る。


 ……これは!日本語じゃないか!


 しかもページの切り替えが指で触れて考えただけで進む脳波感応型だ。


 これはもう、現代と魔道のコラボって奴だな。


「おお!読める読める。有難く貰っとくわ。…これって更新って出来るのか?」


「ああ、魔力を篭めればこの国に居れば自動的に更新される。他国に行っても、戻って来れば最新から最古まで情報を閲覧するのは容易い。……時間は掛かるし、王家や学院側が提示している情報しか配信されないがな?詳しい事を知りたけりゃ、それなりの金を払って学術都市の地下図書館の館長に魔力認証をして貰えば、その金額に応じた情報は得られるらしいぜ?…俺は必要ないからやってないが。…じゃあな?情報ありがとよ!」


 おーおー、人を疑う事を知らん青年だ。


 子供の俺の言葉をすっかり信用しちまってる。


 俺もあれくらいの素直さがあればここまでの体格には成らなかったのにな……


 そう言えば!杏の話だと、この世界では普通に行動できるらしいが、多少…違うか、結構動ける様には成ったが、見た目が元の世界と同じってどういう原理だ?


 しかも、明らかに体重を支えている足の負担が少ない。


 痛覚はそれなりにあるのに、行動が出来ないくらいの痛みには至ってないのはおかしい。


 …っと、それよりも今は情報源が手に入った所でトンズラしないとな。


 下手に長居すれば、相手は俺の顔を知ってるが、俺は見た事すらないんだ。


 この魔法紙も歴史書みたいにはなっているが、安物は安物。


 似顔絵程度の…っても俺そっくりの似顔絵が書けるレベルだが、そんな画像しかない。


 簡単な人物画なら良いが、細かい造形の顔を書くのは難しいだろう。


 …そんな事考えてる間に、前から人が…?


 何か俺の顔を見て叫んでるな…


 …?待てよ?


 あいつ等は闘技場で見た顔だ。


 そして、闘技場の奴らなら、お触れが出て直ぐ俺の事に気付く。


 そして、逃げるなら、闘技場の玄関となる城の裏口って訳で…


 あいつ等!俺を探して追いついて来たのか!?


 そうなれば俺の着ている服も不味いが、あいつ等には顔がばれてる。


 服を脱いで逃げても同じだ。


 さて、如何する?


 考えろ!


 ………!


 よし、先ずはポチに手頃な魔物が居る森に連れて行って貰う。


 それからレベルを上げて召喚体を何とか召喚する。


 何とか俺の想像通りの召喚レベルの設定なら、いい感じの奴が召喚できる筈だ。


 問題は食い物だが、この際ポチに毒見して貰って大丈夫なら何でも食べるって感じで無いと無理だな。


 そうと決まれば……


「ポチ!」


「ガウ!」


 !早ぇな、おい。


 呼んで1秒経ってないぞ?


 まあ、早いに越したことは無いか。


「では、ポチ。今度は手頃な、レベルの低いモンスターが居る森に連れていてくれ。出来れば食ベられる物が有る森が良い。…匂いで解かるか?」


「…ガゥ~、………!ガウ!!」


 ?何か調べてたのか?


 一瞬ポチの反応が変だったが。


 こいつが話が出来たらいいんだが、流石に今の俺のレベルでは無理っぽいし、そもそも召喚師といっても、魔物と会話が出来るとは限らんしな。


 俺の言う事に対して反応出来るだけでも十分か。


「よし、では……っと」


 ズン!…っと、俺が乗るとやけに沈む。


 分かってる事とはいえ、やはり気の毒に成るな。


 これは早くステータス的に速さが並になるようにしないといかんな。


 そうすれば結果的に見た目も変わるから、指名手配も消えるだろうし。


「よし、では出発」


「ガウ!」


 ポチの一鳴きで、今度は結構長い間景色が目まぐるしく変わりゆく。


 人、町、草原、馬、……そうして見て行きながら、1分ほどすると、先ほどとは違った、高さが5メートル位の森に来ていた。


 それにしても、さっきの移動時にも思ったが、召喚師補正なのかゲーム上の補正なのか、召喚獣に乗っている際の慣性の法則が発生しないのが妙だ。


 普通人の視界に捉えられる範囲を超えた移動速度の場合、急停止したら、俺の体も宙に投げ出されるのが普通だと思うが、それが起こっている様子が無い。


 まるで車にでも乗っているかのような安定感だ。


 最近…と言っても半月近く前だが、最後にしたゲームのシステムも速度に応じた慣性の法則が採用され、俺自身が飛んで行っていた筈だ。


 全くもって技術水準が分からない。


 まあ、それはさておき、この森の魔物だな。


 さっきの町の森が凄まじく高い木の森だったから、ここはそれ程大きな魔物が居ない森なのだろう。


 こういったゲームの森には、その森の高さに比例した魔物や建造物が有る。


 さっきの町の森は、近くに城が有ったのもあり、その分高さが凄まじい高さの木に成っていたが、ここでは恐らく家が有ったとしても3メートル弱の小屋位の家しかないだろう。


 魔物もそれに比例し、高さが4メートルを越すジャイアントキングやビッグウルフ等の巨大生物はいないだろう。


 流石は嗅覚が発達した狼型の召喚獣だ。


「よしよし、良い子だな、お前は。これからも必要な時は頼むぞ?」


「ガウ!!」


 うんうん、可愛いやつだ。


 こんなに可愛い奴なら、このままずっと一緒でも良い位だが、それも駄目だな。


 職業レベルが上がれば良いが、如何いう理屈で職業レベルが上がるのか分からない。


 こうやって考えて頭に浮かんでこないって事は、未だ条件を満たしてないって事か、或いはアイテムでのレベルアップか、他に原因があるのか、いずれにせよ今は上がらないって事だ。


 それより今の問題は、今後どうするかと、レベルアップの方法とこの世界の事を知る事だ。


 それには先ず、この森だな。


 ここは森のどの辺りだ?


 はたして、ポチが探した魔物は居るのか?


 ……!今、ガサッという音がしたな?


 何の音だ?


 誰かいるのか?


 もしかしたら魔物かも知れんが、ポチがいる以上あまり危険は無いだろう。


 思い切って声を掛けるか。


「誰だ!?」


「…すみません、驚かせてしまいましたか?」


 俺が音のした方に声を掛けると、木の陰から女の子がひょっこりと顔を出してきた。


 そして、その姿を見た俺は、思わずドキッとした。


 ……!!か、可愛い!!


 何だ、この可愛い子は!


 幼いながらも整った顔立ちで目を開けてないが、その分、全体のバランスの良さが伺える。


 髪は黄金に輝き、何故かは知らんが、体にオーラか魔力かは知らんが、纏わりついているのが解かる。


 歳の頃は10か11か?


 これから大きく成ろうという年齢だな。


 ハッキリいって、これで瞳が蒼だったら、俺の憧れの金髪碧眼の美少女(美幼女?)の出来上がりだ。


 しかし、こんな子供がこんな森にどうして一人でいるんだ?


 しかも目を開けないで、何かの訓練か?


「お嬢ちゃん?こんな所に一人でいたら危ないぞ?親はどうした?」


「…?親は居ません。最近親離れしまして、この森で一人で住んでます。貴方は?ココでは感じたことの無い気ですが?」


 木?


 …ああ、気か。


 もしかして、眼を開けないのも気を感じ取る訓練か?


 しかし、気を感じ取るなんて、見かけに由らず武術の達人なのか?


「君は武術を何か習ってたのか?」


「?いいえ?」


「なら、気なんて普通は感じ取れる物じゃ無いだろ?」


 このゲームと似た世界なら魔力を感じる事は出来そうだが。


「いえ?私は種族的に、眼が見えない代わりに生まれた時から人や植物、魔物の気を感じてきたので、これが普通なのです。…それで、近くに珍しい気が有るので、少し見に来たと言う訳です。それに…」


「それに?」


「はい…貴方の気がとても穏やかで優しい物だったので、襲われる心配もしてませんでした。凶暴な魔物やおぞましい人間の気なら、態々見に来る事も無いのですが、貴方のは見たいと思う程に綺麗な気でしたから。そして、近くで見て改めて心温まる気だと実感しました。…っと、ここでは魔物が…あ、後ろから来ます!」


「何!?」


 俺は少女の言葉に慌てて振り向くと、そこには確かに魔物が居た


 高さ2メートル弱。


 横幅は俺より少し広い位だが、背が高い分、若干スマートな子供サイズのトロル(豚人間だ。決して俺ではない。)が俺の背後に迫っていた。


「----」


 そして、その魔物が、俺に向かってその丸太の様な腕を振り降ろそうとして……


「ガウ!!」


 ポチが俺とトロルの間に割って入って、尻尾の一振りでドガっ!っという音と共に丸太の様な腕を弾き返した。


「…危なかった~。助かったぞ、ポチ。それにお嬢ちゃんも。…っと、名前は?」


「サリナです」


「OK、サリナちゃん。コイツはこのポチが片づけてくれるから、サリナちゃんはそこで待っててくれ?」


「あ、…はい。っと…気を付けてくださいね?お兄ちゃん」


 ……おお!!グッドだ!


 小さい子にお兄ちゃんと呼ばれるこの快感。


 これだけで何かに目覚めそうだ。


 …っと、それは置いといて、さっさとこの豚を始末して貰うか。


 何故か未だに尻尾と腕で力比べをしてるが、如何もおかしい。


 もしかして、俺のレベルを上げさそうと言うのか?


 けど、職業レベルがどうやったら上げられるのか分からんから、今は倒させた方が良いな。


 レベル1でこの位の魔物を倒して上がらないのなら、俺が倒してレベルを上げないと成らんって事だからな。


「よし。ポチ、遠慮せず倒せ。許す」


「ガウ!!」


 それからのポチは正に電光石火。


 レベルのお蔭か、はたまた何かの影響か、何体もの分身でも生み出しているかの如く激しい緩急をつけた動きで相手を翻弄する。


 …序に俺も翻弄された。


 見ている間に眼が回ってドン!っという音がしたと思ったら、気が付けば俺自身が天を仰いでいる所だった。


「ガウ!?」


「お兄ちゃん!?」


 おっと、心配させてしまった。


「大丈夫だ。ちょっと目が回っただけだ。直ぐに良くなる」


「え!?す、直ぐに治します。ちょと、待っててくださいね?」


 ?どういう…?


 そう思ってサリナちゃんを見ると、小さい体を命一杯使ってこちらに近づき、俺の頭に手を当ててブツブツ呟いた。


「………」


 そうしていると、倒れた痛みも目が回った時の頭の痛みも段々と引いて行った。


 一体何なんだ?


 回復魔法か?


 それにしては詠唱が聞こえなかったが、まあ無詠唱の魔法が有るのか無いのかも分からないし、悩んでも無駄か。


 取りあえずお礼だけ言っとくか。


「ありがと、サリナちゃん。お蔭で楽になったよ。……ポチ、こっちは大丈夫だから、お前はそいつを仕留めろ!」


「ガウ!」


 俺の言葉に応え、先ほどの動きを再度して、相手を翻弄しながら徐々に切り刻んでいく。


 相手はもうポチに成されがままだ。


 これはもう謂わば昔のボクシング漫画で見た、相手が気絶しているのに、倒れさせずに遊んでいる状態だな。


 その証拠にトロルの体が…というか、足が地面を離れて宙に浮かんでるし。


 これはもう相手が気の毒だ。


 所謂オーバーキル状態だな。


「よし、止め!ポチ、もういいぞ。それ以上やっても無駄だ。そろそろ倒した後のレベルを確認したいから、ストップだ」


「ガウ!」


 俺の指示でポチが動きを止め、魔物も動きを止めてその場に立つ。


 そして今度は風の悪戯か、少し風が吹き、その所為で立っていたトロルが俺の方へ倒れてきた。


 その上、倒している筈なのに消滅してないトロルが俺の頭に、その頭をぶつけてきた。


 その結果…


 ガツン!っという衝撃と共に俺の頭に激しい痛みが襲い、「痛ェ~」と悶えながら、その痛みと共にやっとトロルの素材である目玉を残して塵になった。


 そうして目玉を指輪に入れた所で俺の頭でやはりファンファーレが鳴り響く


 レベルアップ


 通常レベル 3→10


 ステータス 変化なし


 装備品


 見習いの服


 道具


 トロルの目玉 1


 ゴブリンの牙 1


 ウルフの爪 1


 ウルフの牙 1


 合成液 1袋


 NEW 召喚体カード 1枚 ミレイ


 使用可能スキル


 召喚≪サモン≫…サモンウルフ


         サモンゴブリン


         サモンスライム


         サモンドック


         サモントロル


 使用可能魔法


 召喚≪リアライズ≫…リアライズ美空


          …リアライズミレイ


          …リアライズガラム


          …リアライズパリィ


 ……な、なんっじゃこりゃー!!


 これだけレベルが上がっても、ステータスが上がってないってどういうこっちゃー。


 もしかして、ステータスって上がる基準がレベルアップじゃないのか?


 どういった基準かさっぱり分からん!


 それに、職業レベルは上がってないのに召喚できる奴らは大幅に増えてるわ。

 …まあ、カード自体が美空のカードとミレイ以外ないから召喚できるのは2体だけだけど……


 召喚体まで召喚出来るっポイのに、職業レベルが上がってないから、出せるのは一体だけの上に、どうやってポチの代わりに召喚体を召喚すればいいか分からんし。


 誰か説明プリ~~ズ!!


 そんな感じで俺の頭は混乱を極め、俺達の後ろで眼を光らせる何者かの視線に気付く事が出来なかった。

 しかし、そこで活躍したのが眼ではなく、気を感じ取るサリナ。


「……!!お兄ちゃん、誰かがこちらを見てました。今は何処かに行きましたが、とても禍々しい気を放ってました。取りあえず私の家に行きましょう。家には結界が張ってあるので、多少の誤魔化しは可能の筈です」


「…分かった、悩んでいても仕方ない。ここは一旦何処かに腰を落ち着けて考えるか。…よし、ポチ。って事でサリナと俺の二人を乗せられるか?俺の事を思えば他の子供が何人増えても同じだとは思うが」


「ガウ♪」


「………ホンット、こういう時に素直なのは少しムカつくよな?」


「!…ガウ…ガウ~~…」


 ホント、表情が豊かで面白いわ。


 こいつが居たら後は居なくても良い気がするが、流石に他のも見てみたい気がするから、どうやったら代わりを呼べるか調べないとイカン。


 その為には、やはり職業レベルが上がらないと無理だな。


 さっきのは俺の失敗で最後俺の頭突きで倒したような物だからだと思うから、今度は離れた場所で見て置くか、いっそサリナちゃんの家で待機して、ポチだけで森で狩をして貰えば行けるだろ。


 ってか、それ以外思いつかん。


 まあ、先ずはサリナちゃんの家にお邪魔だな。


「よし、では。…っしょと、良し。…サリナちゃん、ほれ」


「あ、はい」


 俺の声に、迷いなくサリナちゃんが手を伸ばす。


 そして、少し力を入れて引っ張ると……


 ボヨーンと、俺の腹をクッション代わりにして綺麗に収まった。


「きゃ!…っと、ごめんなさい」


「いや、良いよ。…では、行くか。案内してね?」


「あ、はい。一応この方向を真っ直ぐで良い筈です」


「OK。ポチ、しゅっぱーつ!」


「ガウ!!」


 そんな感じで俺達は背後の怪しい奴らを無視してサリナちゃん宅に向かった。


 



 


 

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