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牢獄と闘技場

召喚体の設定は村から~の設定を使います

「……もう長くないか。出来ればもう一回皆と冒険したかったな…」


 俺は随分重くなってしまった体を見下ろし、そう呟く。


 俺は所謂引きこもりという病気を患っている肥満体質の子供だ。


 そんな俺は当然の如く外に遊びに行くことが出来ず、もっぱらの趣味がVRCARPG(ヴァーチャルリアリティーカードアクションアールピージー)のキャラを集めて回る事。


 これまで外に行くのを最小限にして、そのゲームをやってきた結果、様々な同系統のゲームのカードを集める事が出来たが、そろそろその趣味も終わりに差し掛かり、序に人生にも終わりが近づいているようだ。


 心残りは一緒にゲームをやったゲーム仲間ともう一回冒険できればよかったが、体が思うように動かせないから、ゲームの端末を体に取り付けることが出来ない。


 この種類のゲームの性質上、他のゲームで集めたキャラは、服の中に持ち運んでいればそのままの状態で召喚できるし、肉体も最初に設定した体をベースにしているから、今が動けない体としてもゲームでは普段のように動ける。


 まあ、普段の用に動けてもさほど運動神経は良くないから、レベルが上がらなければ意味は無いが。


 そんな風に思っていると、不意に部屋のドアが開き、妹が入ってきた。


「あ、お兄ちゃん起きてたんだ。お兄ちゃんに朗報だよ?新しいゲームが手に入ったから、やってみて?お兄ちゃんの好きな、カードを召喚できるタイプのゲームで、内容が秘密って言う変わり種のARPG物。一応βテストを兼ねてるらしいから、後で報告義務があるけど、今のお兄ちゃんだと、これで少し運動しないとホントに成人病で死に兼ねないからね。…っと、これで良いか。後は寝てたら始まるから、ごゆっくり。何か重要事項でクリア報酬が有るけど、それも秘密らしいよ。変わってるでしょ?…あ、体は見た目は変わらないけど、何故か普通に動けるし、何故かログアウト時にはゲームの中での行動が実際に反映されて起きた時には体が絞れてるっていう変なゲームだけど、本当らしいから運動には最適だって事だよ?これのαテスト版をやってる先輩が、やりだして体重が急激に減ったって言ってたから。…じゃあね?」


 妹が俺の頭に機材を取り付けると、言いたいことだけを言って部屋から出て行った。


 その後、俺はいつも通りに寝ていたが、急に体が軽くなるのを感じて、目が覚めると……




 ☆



「…何処だ?ココは」


 目が覚めると、目の前には鉄格子。


 後ろには鉄の壁に囲まれた薄暗い部屋に小汚いベッド。


 そして、俺自身は寝る前のパンツ一丁の状態で、指には何故か指輪が3つ填め込まれていた。


 更に鉄格子の向こうには見張りの様な兵士と思われる男性が一人。


 俺は取りあえずその男性に話しかける。


「なあ、ここは一体どこだ?俺は何でこんな所に入れられているんだ?」


 その言葉に男は前を向いた状態で応える。


「ああ、起きたか?お前も災難だな。こっちが無理矢理召喚したってのに、お前の姿を見た途端、「この無礼者を牢へ叩き込め!妾の前で何たる恰好、ふざけるにも程がある!」とか言って問答無用でその中だ。俺も同情はするが、雇われの身なんでどうする事も出来ん。聞きたいことが有ればしってることは教えてやるぞ?さっき言ったがこちらも無理矢理に召喚した後ろめたさが有るからな」


 俺の事を見もせずそんな事を言ってくる見張りに苦笑しつつ、取りあえずの疑問だけを聞く。


「俺は如何してこんな所に居るんだ?…ああ、アンタの主が理不尽な事を言って放り込まれたってのは理解したから、その前段階だ」


「それはこの世界の覇権を握る為の異世界人召喚を我が国の姫様が行っちまった所為だ。本来は2人の筈の異世界人が、召喚した時は3人だったのには驚いたが、その内の一人のお前はどうやら儀式魔法の副作用で召喚されたらしい」


「ほうほう」


「そんで、召喚されたばっかりのお前を見た時に、さっき言った感じでキレた姫様の命令で問答無用でココに直行。今は他の異世界人の奴らと交渉を交わしてる」


 交渉?もしかしてあんずの言ってたクリア報酬って奴か?


「その交渉って?」


「それは報酬の事だ。実際に得た宝の中で国に必要な物以外は数点手土産代わりにやるって感じだな。…まあ、大体の奴は領土や便利な魔道具を欲しがるが」


 ……はい?元の現実世界で使えもしない物を貰ってどうしようってんだ?


 領土なんかその典型だろう。


 …まあ、他のを聞こうか


「俺の他の奴らはどんなのだ?」


「会うなりいきなり姫に求婚を申し出たイケメンの男に、その場にいた全員が見惚れる位の美少女だ。しかし、こいつ等は見慣れないながらも普通の服装をしていたが、お前は何でそんな下着一枚だったんだ?その女の子が顔を真っ赤にして逆側を向いた位だぞ?」


 そりゃ~…ねえ?


 察してくださいよ……


「ま、まあそんな事はいいから、そいつらの詳しい事は?」


「それは分からん。俺もお前をココに運んできてそれっきりだ。…すまんな?」


 …なら、仕方ないか。


「なら、ここはどういう世界なんだ?」


 これは聞いておかんとこの先ゲームが進まん。


「ああ、この世界は天界まで通じる10本の塔の最上階に居る天使どもに監視されている世界だ。

 それぞれの塔に役割が有り、その塔の中の封印された武具がこの世界の理を捻じ曲げる程の力を有していると言われている。

 そして、今この国は国王と第一王女がそれぞれ、その塔の中の2つ、賢者の塔と風神の塔に入って攻略をしている最中だ。

 しかし、何時になっても国に戻らない二人に苛立ったこの国のお姫様、お前らを召喚した第二王女な?は、代々伝えられている禁忌の異世界召喚をやっちまった訳だ。

 後はさっき言った通りだ。…他には?」


「俺の指に填められていた指輪はなんだ?」

「ああ、それはアイテムをしまっておく空間圧縮の魔道具と、戦闘用の鎧やら何やらを一瞬にして収める魔道具と、ステータスを確認するための魔道具だ。

 お前らは未だレベルが1だと思うが、レベルが上がるにつれ行使できる魔法は増える。

 しかし、それを見れるのは個人だけだ。

 だから、俺としてはその中の情報は当たり前だと思う物以外は他人に話さない方が良いと思う」


 ……へ~、やはり魔法は有るのか。


 それでないとゲームとは言えんしな?


 っと、肝心な事を聞き忘れた。


「使い方は?」


「頭に使いたい物を思い浮かべるだけだ。それで魔道具がそれぞれ反応する」


 ふ~ん?


 他のとここら辺は同じか?


 一丁見てみるか?


 名前 平良たいら 清二せいじ


 職業 召喚師


 通常レベル 1


 職業レベル 1


 魔力   SS

 筋力   E

 スタミナ G

 賢さ   B

 素早さ  H


 ……召喚師ってのも俺の理想だが、レベル1で魔力SSってのはどんだけのチートだ?


 他のデータが低い分のボーナスってか?


 他のは?


 装備品


 なし


 道具


 召喚体カード総枚数1枚


 使用可能カード召喚体 0


 召喚キット


 召喚壺


 ……やはり最初からは召喚できる奴は居ないか…


 って言うか、カード枚数が1枚って書いてあるから変だと思ったら、デッキの中のカードが美空以外無くなってるじゃないか!


 なんでだ!?


 ……まさか、ゲームの仕様でイベントごとに増えていくって奴か?


 それとも、レベルアップごとに増えるタイプか?


 召喚の媒体に成るだろうし、両方の可能性が有るな…



 魔法は?


 使用可能魔法 なし


 ………なら、ゲームに良くあるスキルやアーツ関係は?


 使用可能スキル なし


 ………どういう事だ!!?


 魔法なし、スキルなしでどうやってレベル上げるんじゃい!!


 牢獄スタートの武器なし防具なし、魔法なしってイキナリ積げーじゃねえか!!


「なあ、魔法も何も使えないんだが?序に武器も防具も無い」


「……まあ、頑張れ!!応援はしてやる!…序に言うと王女さまからココに入れられたって事は、明日にでも処刑の可能性が否定できんから、地下の闘技場で何とかクラスを2まで上げて最低レベルの武器を支給して貰え。そうすれば、抜け出した後、ここらの魔物ならなんとかなると思う。…俺は一足早く姫様の護衛に戻るから、後はもし塔で会えたら会おう。…じゃあな?」


「お、おい!待て、未だ話は…、行っちまいやがった。…しょうがねえって…あれ?尻の下に何が?」


 おお!これはまさかの牢屋のカギ!


 あのオッチャン、なかなかいい奴だな。


 早速抜け出すとするか…


 俺は手に入れた鍵で牢の扉を開け、外に出た。


 そしてふと、オッチャンの居た壁を見ると…ご丁寧に詳細な城の地図が有った。


 勿論オッチャンの言ってた闘技場までのルート付。


 とにかくここから一刻も早く脱出してレベルを上げなくては!


 俺はそう思い地図に従って重い体を引きずり、ノッシノッシと歩いて行った。



 そうして、約10分後…


「寄ってらっしゃい見てらっしゃい。今からこの城名物の人間バーサス魔物の血で血を洗うバトルを開始します!飛び入り自由!参加費無料。クラスが1上がる度に装備品をプレゼント。最高のクラスでは彼の勇者ミスズが戦女神の塔90階で獲得したヴァルキュリーメイルが景品だ!さあ!最高クラスの装備品を獲得する奴は誰だ!!?」


「おい!ホントに誰でも参加できるのか!?」


 実況らしき女性に俺はそう聞くが、俺の体型を見て腹を抱えて笑いやがった。


 そして、漸く落ち着いた所で目を細めながら忠告してきた。


「…あー、笑った笑った。…お客さん、闘技場は豚の飼育小屋じゃないですよ?「武器が欲しいんだ!」…成るほど?まあ、初めの方はちっちゃな魔物ばかりだから、お客さんでも大丈夫かな?…けど、死んでも知らないよ?」


「分かってる!」


 死にそうになればログアウトすればいいことだ。


 所詮ゲームなんだし。


「じゃあ、闘技場に入って?この扉が閉まったら戦闘開始ね?」


「おう!」


 俺はそう頷くと、円形の闘技場に入る。


 広さは半径30メートルほどのそこそこの大きさだ。


 そして、その奥からいよいよ魔物が現れる。


 その姿は…


「…何時の時代のゲームだ?スライムが最低のゲームなんて久しぶりだな。」


 俺の目の前に現れたのはスライムだった。


 しかも唯の水色って事は普通のスライムだ。


 しかし、高がスライムと侮るなかれ。


 こう見えてスライムは特殊な魔物。


 物理攻撃は殆ど効果なしで、通用するのは魔法の類のみ。


 今の俺には途轍もなく厄介な相手だ。


 そのスライムが俺目掛けて、何のためらいもなく突っ込んでくる。


「ヒィ!」


 俺は情けない声を上げながら必至に成って避ける。


 その必死さが笑いを誘ったのか、観客が大いに盛り上がる。


 序に実況が其れを煽る事を言う。


「おおっと!これは情けない。高がスライムにこの体たらく、コイツは何の為にココに来たんだ?そのまんまると太った体は飾りなのか!!?」


 ……!そうか!偶然だが良い方法だ。


 相手は所詮水の塊、俺の全体重を乗せた圧し掛かりで圧迫死させてやれば何とかなる!


 俺はそう判断し、逃げ惑いながらも体制を立て直す。


 そして、スライムに向かって圧し掛かろうとした時……


「げぇー!!」


 俺の視界にスライムが飛び込み、俺の顔をその体で包み込んで窒息死させようとしてきやがった。


 そして、今の鈍重な俺がそれに対処できる筈もなく。


 あっさりと俺の顔は水の中に取り込まれる。


「ぶぶ・・ぶぶ…」


 ああ、もう限界だ…


 そろそろログアウト……


 って…システムメニューが無い!


 なんでだ!!?


 これはゲームじゃないのか?


 俺はこのまま死ぬのか…?


 …………いやだ!


 ………嫌だ!


 …イヤだ!


 まだ死ねない!


 死にたくない!


 こんなゲームの中で死ぬなんて御免だ!


 死ぬならせめて現実で死にたい!


 俺の事を未だに世話してくれてる妹だっているんだ!


 あんな妹を残して一人で逝けるか!!


「ぐぶぶ・・ぶぶぶ・・・」


「おおっとー!?これは如何した事か?一時は抵抗を辞めたかと思われた豚が、突然暴れ出した!醜い!その姿と同じ位醜い!これには観客も呆れているーー!!」


 そんなこと知るか!


 俺はなんとしても生き残るんだ!!


 如何にかして……


 …!そうだ!相手は液体。顔を包まれてるなら、鼻や口を塞がれてるなら、腹の足しにしてやれば良いんだ!


「……ぶぅ~~~(口と鼻で水を吸い込む音)」


 こうして、俺がスライムを全て吸い込み終わり、腹を撫でていると、実況が再び盛り上がった。


「おおーー!これは面白い展開!誰がこのような勝ち方を想像したでしょうか!否、やろうとしたことが有るでしょうか!最低レベルのモンスタースライムに死に掛けた豚が、起死回生で行った戦略が吸い込み!これはある意味伝説になるでしょう!」


 ふん!言いたいだけ言うがいい。


 勝てばいいんだ!勝てば!


 どうせこの闘技場で勝ち進んで武器を貰わないと、外で死ぬ運命だ。


 召喚がどうやってすれば出来るのか分からんが、この手のタイプはレベルが1上がれば最低ラインの召喚獣は確保出来る筈。


 召喚さえできれば、俺の魔力はSS。


 例え召喚獣のレベルが低くても、俺の魔力に合わせて強く成る筈だ!


 そうなればもう怖い物は何もない。


 この世界に閉じ込められたとしても、生き抜いて、生きて帰ってやる!


 そして、次の相手が来た。今度は…


「さあー、今度は打撃系の最低モンスターゴブリンだ!果たしてこの魔物相手にどういう勝ち方をするのか、わたくし、実況の立場を忘れて興奮してきました!!」


 実況の女性が言う様に、次の相手はゴブリン。


 手には錆びついた鉄の剣が握られている。


 こいつは見た目以上に素早い。


 しかし、痩せている分、攻撃は軽い筈だ。


 それなら、ここは敢て攻撃を受け、それを捕まえて向こうの武器を奪って攻撃するのがセオリー。


「キキ―!」


 何故かサルの様な話し方で向かって来たゴブリン。


 そして、その手に持つ剣を俺に向かって振り上げ……


「キー!!」


 振り降ろした。


「いてぇーー!」


 クソ!肩に何ミリか食い込んでやがる!


 しかし、これで獲物は頂いたぞ!


 この武器は絶対離さん!


 そして、ゴブリンも自分の武器を取られない様に必至の為に武器の奪い合いになって来たが、実況はその光景でまたしても盛り上がる。


「おおーっと、これはまた醜い!なんとゴブリンが持つ錆びついた剣を求めてゴブリンと剣の奪い合いを始めてしまった!これには観客全員ドン引きだー!!」


 ちぃ!


 言いたい事言いやがって!


 こっちは必至なんだよ!


 騒ぎたいなら勝手にやってろ!


 しかしこのまま続けても、刃の側を持ってる俺が格段に不利だ。


 ココは引いても駄目なら押してみなで行くか?


 …せーの!


「キキ?…キー――!!」


 俺が押すと同時にゴブリンが手前に引き、勢い余って俺と共に地面に転がる…というか、俺の下敷きとなった。


 そして、ゴブリンに突き刺さっているのは剣ではなく、俺の全体重約200キロを一点に支える膝。


 これを受けて倒れない程ゴブリンも頑丈ではないだろう。


 そして、思った通り俺の攻撃?が通用していたらしく、ゴブリンは恐らく素材となる牙を残して塵となって消えた。


 それを俺は手に取り、魔道具の中に収める


 道具


 ゴブリンの牙×1


 …さっきのスライムの素材が気になる所だが、俺自体が飲んでしまったので仕方ないか。


 そう思っていると、頭の中でファンファーレが鳴った


 レベルアップ


 通常レベル 2


 ステータス 変化なし


 ……レベルが上がったのにステータスそのままかよ!


 なんつう糞げーだ!


 そして、俺が唸っている間に次の魔物が入ってきた。


「さあー、ここからは先ほどまでの小手調べとは違って、来るぞ!?なんて言ってもこれを合わせて後2戦でクラス1の戦闘は終了だからね!肝心の魔物は……コイツだ!!」


 実況の声に合わせて登場する魔物、それは目を血走らせた狼型の魔物。


「此奴はさっきのゴブリンのように武器を取り合って倒す事も、スライムの様に吸い込む事も出来ないぞ?!さあ、今度はどんな戦法で楽しませてくれるか、張り切って戦ってくれ!」


 くそ!本当に観客を楽しませるように実況するのが得意な女だ。


 戦うこっちは生き残るのに必死で張り切るどころじゃねえよ!


「ガウ!」


「うわっ!いきなり来やがった!」


 獲物おれを見つけた瞬間物凄い速さで迫る狼。


 確か某ゲームではハウンドウルフって名前の狼だったはずだ。


 その狼がいつの間にか、考えてる俺のすぐ目の前に来た。


 その狼に対し、ゴブリンから奪った剣で応対しようとするが…


「早……ブヘっ!」


 速さに眼が追い付かず、そのまま狼の強烈な体当たりで重い体ごと吹き飛ばされる。


 そのままゴロゴロ転がり、闘技場の壁にまで転がってぶつかる。


 その拍子に奪った剣も遠くにジャララーーと擦れる音と共にコンクリの床を滑って行く。


 いてぇ~、クソ!速過ぎて追いつけないぞ。


 どうする?


 どう……そうか!追いつく必要はない!折角壁際まで運んでくれたんだ。このまま壁を背に戦えば、真正面の事だけに集中すればいい話だ!


 そうと成ったら何とか壁伝いに手放した剣を回収しないと…


 運よく離れた所の壁際に行ったから、壁伝いに行けば取れるはずだ。


 後は、それまでこちらの思惑を狼に悟られんように…!ヤバイ!来た。


「ガウーー!!」


「ヒィー!」


「ガアア!!」


「ヒャーー!!」


 転げまわりながら必至に成って壁伝いに逃げる俺。


 その姿に観客も腹抱えて笑い転げている。


 はあ…はあ…はあ…


 クソ!もう一息で剣まで辿り着く。


 もう少し……


 そして、ジリジリと逃げながら漸く辿り着いた先の剣を握り、俺は壁を背に狼を迎え撃つ。


「おーっと!ここで漸く手放した剣を再び手に入れた満身創痍の豚人間!さあ、次の一手が最終相手への切符か、はたまた地獄への直行便か!もう楽しすぎて目が離せません!」


 またまた言いたい放題言ってやがるな、あの実況。


 まあいい。武器を頂いたらこんな場所おさらばしてさっさと帰る方法を見つけるぞ!


 ………って、どうやって帰ったらいいんだ!?


 やはり塔ってのをクリアした報酬でしか帰れんのか!?


 どうすりゃ…て来た!


「ガウウぅー!!」


 さっきから殆ど衰えを知らないスピードだが、緩急も無い分、自然に目が慣れて来たぜ。


 こう見えても俺は引きこもりの前は剣術道場に通ってたし、ゲームでもシューティングやガンアクションを専門にやってたんだ!


 由って、慣れれば付いて行けないスピードじゃない!………体が付いて行くかは分からんが…


 こうなれば一か八かだ!


「…行くぞ!!…ハア!!」


 そう一声掛けると共に、俺は剣をゆっくりと突き出した。


 まあ、幾ら見えると言っても、剣を振る速度が速くなるわけでもなく、相手が遅くなる訳でもないから、横に薙げば躱されるのは当たり前。


 それよりは、少しでも遠近感の狂いが生じる突きを出せばいいと考えるのは当然だ。


 そして、その考えは功を奏し、狼は俺の剣に真っ直ぐに突っ込んで来て、そのまま俺に串刺しにされた。

 そして、素材の爪と牙を残し、狼は塵になった。


 その牙と爪を俺は手に取り、また指輪に収める。


 道具


  ウルフの牙×1


  ウルフの爪×1


 そして、アイテムを回収すると、再び実況がムカつく解説をした。


「あー、お腹痛い。笑わせてくれます豚人間!しかし驚くべき剣の突きの遅さ!あれはウルフが単細胞だったとしか言い様の無いスピード!普通の人間相手では先ず躱される攻撃です!果たして今の豚君に次の相手を打ち負かせるだけのたいりょ・・・くは始めから無いとして、運が残っているでしょうか!必見です!……さあ、そこでクラス1最後の戦い!注目のお相手は……こいつだ!!」


「「「「おおおおーーー」」」」


 ここで一際高い歓声が観客から起こった。


 一体何が相手なんだ?


 そうして、相手側の柵の方を見ると…


「おいおい、冗談だろ?これまでの相手とは格が違うじゃないか。なんであんなのが混じってんだ?」


 俺はそう呟きながら相手を見る。


 俺の相手は先のウルフよりも目が悪い代わりに警察犬の様に鼻が発達して、より凶暴化した俺の今までやってたゲームの中では匂犬しゅうけんと言われていた犬だ。


 そして、アイツの怖い所は狙われたら最後、安全エリアまで逃げないと何処までも追ってくる習性。


 ゲーム初心者は先ずコイツに一度は喧嘩を売って返り討ちになる。


 何故怖いのに喧嘩を売るか、それは素材が美味しいからだ。


 その素材は半々の確率でこいつが落とす合成液。


 つまり召喚獣を作る際に必要なアイテムの必須品だ。


 けど、そんな奴がこんな所で出なくても良さそうなもんだが…


 俺のやってたゲームと同じ規格なら、コイツは本来レベル5圏内のモンスターだ。


 さっきのウルフはレベル3だが、何とか倒したってレベルだし。


 今のレベル2で勝てるのか?


 いや、勝てんだろ!


「グブブブ……」


 くそ!獲物の匂いを嗅ぎ始めやがった。


 俺はパンツ一丁。


 匂いなんて垂れ流し状態だ。


 どうする!?考えろ!


 これが終わればここから出れて現実に戻る突破口が見えるかも知れないんだ!


 何か…


 ………!!


 あ、あれはお立ち台の階段?


 …あれを使うか!


「…よし、そうと決まったら一直線に行くか。幸い未だ気付い…って気付かれた!?…まさか、俺の口臭か?…くそ!急がねば!」


 そうして、俺は一目散に階段まで走る。


 そして、もう少しで階段って所で犬が追い付いた。


「ガウ!!」


「クソ、あっち行け!」


 俺は足で犬を突きながら急いでお立ち台に上る。


 そうして漸く一番上まで上り詰め、上がった瞬間に犬の体当たりが階段に炸裂。


「うわ!…ヤバイ、落ちる!」


 俺はそう叫びながら足と腹筋に力を入れる。


 しかし、その時何の天の悪戯か、急に体中のガスが尻まで降りて来て…


 ブゥーーー!っという音と共に俺に噛みつこうとしていた犬に屁が直撃した。


 そしたら、当然の事ながら犬は只でさえ人の何倍もの嗅覚を持つ。


 更に匂犬はその犬の何倍も鼻の利く警察犬並の嗅覚を持つ魔物。


 その結果……


「キャぅウぅ~~…」


 悲しい悲鳴を上げながら、泡を吐きだしながら、合成液を残して塵になって消えた……


 そのあまりの結末に観客席は唖然。


 先ほどからムカつく解説をしていた実況までもぽかーんと口を開き、正に開いた口が塞がらないと言った状況。


 そして、俺は取りあえず合成液を手に取り、魔道具にしまうと、そこで漸く再度のレベルアップのファンファーレだ。


 レベルアップ


 通常レベル3


 ステータス スタミナ G→F


 装備品


 錆びた鉄の剣


 道具


 ゴブリンの牙 1


 ウルフの爪 1


 ウルフの牙 1


 合成液 1袋


 使用可能スキル


 召喚≪サモン≫…サモンウルフ


         サモンゴブリン


         サモンスライム


         サモンドック


 備考……召喚獣レベル及び召喚体の強さは職業レベル×魔力に依存。魔力は10段階でSSが最高。


 例……職業レベル1で魔力Fで1×4。レベル2で魔力Eで2×16。


 召喚体は各々の世界のレベルを持越した状態で召喚。


 職業レベル~10で1種。レベル11~20で2種。各1~9レベルで1体から9体。


 ………うおおおお!!俺ってマヂチート!?


 イキナリ召喚獣1体だけど、512レベルって……もうこの時点でこの世界征服できんじゃね?


 まあ、取りあえず実況の女に景品を貰ってこの城から脱出するか。


 他の事も色々知りたいし、何より召喚体が気になる。


 俺のやってたゲームと同じ設定なら、かなり心強い。


 今の俺の姿を見ていきなり変態扱いされるかどうかが心配だが…殺されんよな?召喚師を攻撃できる召喚体ってのも聞いたこと無いし。


 大丈夫って事にしようか。


 あ、やっと復活したみたいだ。


 くそ!こいつにも散々腹の立つ事言われたが、これでココともおさらばだと思うと、なんだか懐かしく思えるな。


 さて、最後の暴言でも聞いてやるか。


「さあ、あまりの結末に言葉を失ってボー然としておりましたが、これでこの豚君のクラス1の全ての戦いを終了とします。ここで景品の授与ですが、次の中から好きな物を選んでください。

 1、見習いの剣 2、見習いの杖 3、見習いの槍 4、見習いの斧 5、頑丈な服 6、食用草10個 7、下剤10個 8、ホームレスのおっさん 9、死に掛けの婆 10、わ・た・し♪

 さあ、どれにします?」


 ………微妙……


 しかし、召喚がどうなるか分からん分、この中では食用草か?


 8.9.10は論外だな。


 本来なら1だが、召喚が出来る様になったら、途端に要らなくなるかもしれん。


 しかし、それは草も同じか…


 ココは始めの狙いどおり、武器を貰っとくか。


「1で頼む」


「分かりました。1の見習いの剣でファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサー!」


「おお!?豚君、ノリが良いですね。気に入りました!序に処分品って事で、この見習いの服も付けましょう。そのままでは、唯の変態です。防御機能は有りませんが、見た目から気にしてくれるように!…では、またのご来場楽しみにしてます!SEE.YOU.AGAIN」


 バタン!っという音と共に、会場のライトが全て消え、観客が一斉に帰り始めた。


 そして、残された俺の手には、見習いの剣と、見習いの服が有ったので、取りあえず服を着る。


 装備品


 見習いの服


 見習いの剣


 そして、戦っていた場所から出ると、ゴブリンから奪った剣が消えていた。


 ………取りあえず、剣を選んでいて正解だったか?


 さて、最後にこの城とのお別れとして何か手土産を残したいが……おお!


 良い事考えた。


 よし、早速さっきの地図の出口に行こう!





 そうして、またノッシノッシと走る事10分程度。


 漸く出口らしき扉に差し掛かり、俺は予定通り壁に文字を書く。


 そして、俺は漸くシャバの空気を吸う事に成功した。


 置き土産の『勇者セイジここに推参!』の文字を残して………


 




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