最期の地
「うってください」
まだ、二十代前半と思しき男が俺に封筒を渡す。中には帯で封じている万札が一束入っている。
この男は身なりからして裕福な男には見えない。
「この金、どうやって集めたんだい?」
「日雇いで貯めたんですよ。おかげで体が鍛えられましたね」
屈託の無い笑顔で答えるその姿はどこにでも居る爽やかな好青年だ。
「そこまでしてうって欲しいのか」
「ええ、そのために半年頑張りましたから」
「わかった。望みどおりにうってやる」
俺はその男の脳に銃弾を届けこのつまらない世界から解放してやった。最近俺の仕事はこんなのばかりだ。殺し屋に自分を殺してくれと頼むやつが以前の何倍に増えたことか。
不況だから俺も断ることはないけどな。今日はもう一件依頼が入っているので待ち合わせ場所にタクシーで向かう。
依頼主は俺を飼っている男の部下であった。
「まさか親父を殺せと言うんじゃないだろうな」
「違いますよ。殺して欲しいのはあなたです」
「俺?」
「ええ、あなたを殺してください」
「そろそろお払い箱かい。いくら出すんだ?」
「一千万です」
依頼主はキャッシュで報酬を用意していた。俺は無言でそれを受取りハワイへと飛び立った。
ハワイで豪遊した俺はホテルで自分のこめかみに銃口をあてる。人生最後の贅沢を楽しめ後悔は何も無い。
なんでハワイを死地に選んだのか?
それはこの州には死刑がないからだよ。