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君がいた場所

作者: taishi

初めて刑事物を書きました。産み出すのに苦労しましたが、産みの苦しみが大きかった分、愛着のある作品です。

<狛江市・竹林>

鉛色をした空から小雨が降って来た。

季節柄、夕立の様な大雨にはならないにせよ気分は滅入ってしまう。

谷坂信二はパトカーの窓からそんな空を見ながら憂鬱な気分になっていた。

彼を憂鬱にしている原因は雨ともうひとつある。それは狛江市で起こったバラバラ殺人の現場に立ち会う事になったからである。この手の事件は長引きそうだ・・・谷坂の刑事としての感がそう思わせた。

「谷坂さん、何浮かない顔してるんすか!」

運転席の曽我は気分が高揚しているようだ。

曽我は狛江市警察4年目の26歳の刑事、去年交通課より異動となり晴れて刑事になった。

しかし、刑事になったものの平和な狛江市で起こる事件は殺人や銀行強盗ではなく、空き巣や引ったくりなどの軽犯罪であり、来る日も来る日も聞き込みと報告書の毎日で曽我は若干ふてくされ気味だった。

「殺人事件が起こって喜ぶ馬鹿がどこにいる。」

谷坂は車の窓から空を見上げてぶっきらぼうに言い放った。

だが、谷坂の警告など曽我には馬の耳に念仏だった様だ。

「だって、来る日も来る日も空き巣の聞き込みばっかっすよ!刑事になって4年!ついに俺にもチャンスがまわってきた。このチャンス、逃すわけにはいかないっす!」

「いいから、前向いて運転してくれ。」

曽我の高揚とは裏腹に、谷坂はため息交じりで返答した。

確かに今回の事件は全国紙にものる大きな事件だ。練馬区で起きたバラバラ殺人ともつながりがある。

警視庁が動き出す事件になる事は間違いないだろう。

はやく事件が解決してくれればいいんだが・・・谷坂は鉛色の空を見ながら祈った。


現場である狛江市の竹林についたのは15時をまわったところだった。

すでに捜査員が入り、野次馬の前には黄色いテープが巻かれていた。

鑑識も証拠品を集めている、谷坂達は最後の到着だろう。

「すいません、通してください。通してください!」

子供の様な曽我が野次馬をかき分けて現場に入ろうとしている。

谷坂も白い手袋をしながら黄色いテープの内側に入った。

「おーい、こっちだ!遅かったじゃねえか。」

現場の奥で聞き覚えのある声が聞こえた。

同じ狛江警察署の丸山と猪狩だ。

丸山は50代半ばのベテラン刑事、温厚な性格と鋭い観察眼で狛江市で起こる事件を解決に導いてきた名刑事である。取調べが得意で「取調べなんてモンは、聞き出すんじゃねえ。しゃべらせるんだよ。」と豪語する落としの刑事である。

一方の猪狩は190cm、90kgの筋骨隆々の20代後半の刑事である。無口で眼光鋭く、地場のチンピラ相手に大太刀まわりをする事もあるが、優しく、面倒見が良い性格から足を洗った犯罪者からの信頼も高い。

その為、猪狩独自の情報網を持っており、事件解決の糸口になった事も多い。

「重役出勤とは、流石天下の谷坂巡査部長様だ。」丸山が防止を取り、禿げ上がった頭を恭しく下げた。

「勘弁してくださいよ。駅前のマンションの空き巣の聞き込みが長引いちゃってね。」

「丸さん、言ってやって下さいよ。谷坂さん、この事件があるってのに聞き込みやめないんですよ。証拠品没収されたらどうするんですか。」

曽我が丸山にすがる様に言う。

「仕方ないだろ。俺たちの仕事は殺人事件だけじゃないんだ。空き巣を解決する事も立派な仕事だ。」

谷坂は足元にある青いビニールシートを見つめながら言った。

これかい?目で猪狩に問いかけたら、猪狩は首を立てに振った。

谷坂と曽我は一度手を合わせ、勢い良くビニールシートをめくった・・・。


「うっ!」

曽我が青いビニールシートの中を見て吐きそうになっていた。

すぐ様、猪狩が紙袋を曽我に渡した。

現場を嘔吐物で潰すわけいもいかない。

谷坂は猪狩に曽我を現場から遠ざけるよう目配せをした。

そこには被害者の頭部、胴体、足がそれぞれ並べてあった。

死後3日ほどたった遺体からはウジが湧き出ており、切断部分は黒く変色していた。

大きさから言って女性であることがわかる。血液で所々変色したセーターがめくれあがり花柄の下着か見えていた。

「どうして?」と訴えかけるように目と口は見開いたままだ。

「死亡推定時刻はおとといの深夜、年齢は10代後半から20代前半の女性。暴行の跡もなく、所持品のバックも近くの用水路で見つかっている。物取りや暴漢の仕業ではないようだな。

第一発見者は近所に住む60代の男性、近くをジョギングしていたところカラスが密集していたので近づいてみると、マネキンのような物を発見、同時に異臭もした為110番したとのことだ。お前どう思う?」

「・・・今回もアレはあるんですか?」谷坂は丸山に聞いた。

「ああ、現場には犯行に使われた刃渡り15センチほどのナイフが残されていた。それと同時に体の一部が持ち去られている。先週におきた練馬のバラバラ殺人の時は脚だったよな。ちなみにお前はこの被害者を見てどう思う?」

「練馬の事件と類似しているところがありますね。ただ、犯人は犯行に使った凶器を遺留品として残してはいるが指紋ひとつ残っていない。おそらく自己顕示欲が強い、神経質な人間が犯人ではないかと。」

「ちがう、ちがう、俺はこの被害者の顔をみてお前のタイプかどうか聞いているんだ。」

???谷坂は不思議な質問をする丸山をしげしげと見た。

しかし、この男が意味の無い質問をするとは思えない。もう一度、被害者の頭部を見た。鼻の穴からムカデが這い出てきて、土にまみれていたため肌の色は判別し辛い。しかし、整った顔立ちをしているのは何となくわかる。

頭髪も長く、髪留めもピンクのリボンの形をしたモチーフであり、生前は可愛らしい女の子だったのかもしれない。

この被害者も司法解剖にまわされ、子宮と肛門の中を隅々まで調べられ、マグロのように解体され、事件が解決するまで紙のタグをつけられ冷凍庫に保管されると思うといたたまれない。

「・・・・まあ、タイプは別として可愛い部類にはいるのかと。」

「なるほどな、実はな、練馬の方の被害者の身元が判明した。

名前は木本ゆりあ 16歳 人気アイドルグループ・バタフリーのメンバーなんだ。しかも同じメンバーの君江萌 15歳も3日前から行方不明だ。この仏さんがその行方不明のメンバーかもしれん。」


〈狛江市警察署・大講堂〉

すぐさま警視庁が狛江市警察署の中に捜査本部の帳場を開いた。戒名は「アイドルグループ連続バラバラ殺人事件」

講堂には長机が用意され、前列から警視庁の刑事が陣取り、後ろを所轄が固めるように座った。

最前列の対面に杉山監理官、伊藤警部、吉澤警部補が座った。

「今からアイドルグループ連続バラバラ殺人の報告会を行う!まず、先週練馬区で起きたバラバラ殺人事件の概要から頼む。」伊藤警部補の良く通る声がこだまする。

最前列の男が手帳を手に取りながら立ち上がった。

「被害者は木本ゆりあ、16歳最近テレビなどで人気のアイドルグループ・バタフリーのメンバーです。被害者は頭部、導体、手足をバラバラにされた状態でコンビニのごみ箱から発見されました。第一発見者はそのコンビニのアルバイトでゴミ出しをする際に異臭がするため中を探ったところ被害者の頭部を発見、直ぐさま警察に通報したとの事。死亡推定時刻は死体発見の2日前、ちょうどその日は被害者である木本さんがメンバーと口論になり勝手に仕事ばから帰宅した日でした。以上です。」

次、死体の解剖結果!と伊藤警部が声を張る。次々と報告が終わるなか谷坂達所轄には発言する時間は与えられなかった。

「以上、所轄は引き続き聞き込みをしてくれ。何かあれば連絡をするように。」

帳場から刑事達がぞろぞろ出ていく。

「ちょ!谷坂さん!いいんすか?俺達何もないまま終わりですよ。これじゃ、いつもの空き巣とかわらないじゃないですか!」

曽我はただあたふたしている。曽我が期待しているような仕事は所轄にいるかぎり絶対に回ってこないだろう。

警察社会は常に階級社会だ、縄張り争いは一般企業の比ではない。

今回の事件も所轄ごときに事件を解決されてたまるかというプライドがありありと見えている。

「くだらない事言ってないで聞き込みだ。それと今日の駅前マンションでの空き巣の報告書、早めにまとめておけよ。」

へーいと曽我は気の無い返事をした。

「おーい!谷坂!」

後ろから良く通るだみ声が聞こえて来た。50過ぎのごま塩頭のがに股の男が近づいてくる。

「お久しぶりです。警部に昇進されたんですね。おめでとうございます。伊藤さん。」谷坂は深々と頭を下げた。

「おい、おい水臭いじゃないか、単なる飾りの昇進だ。」

伊藤は照れ臭そうに頭を書いた。

伊藤秀久警部、現在は仏の秀さんと呼ばれるほど誰からも愛されているが、つい5年前までは鬼の伊藤としてヤクザ事務所を潰してまわっていた男だ。

警視庁では珍しい叩き上げの刑事である。

「どうだ、元気でやってるか?所轄に来てヒマしてるんじゃないか?」伊藤はガハハと笑いながら質問する。

「毎日が刺激的ですよ。」苦笑しながら谷坂は応えた。

「・・・お前の椅子は用意してある。いつでも戻って来い。それともまだあの事件を引きずってるのか?」伊藤は谷坂を見詰めた。

谷坂は下を向いて思いつめる。

「あれはお前の責任じゃない。俺だってお前の立場だったらそうした。だから・・・」

「いえ、警部。俺は今の所轄が好きなんです。今の仕事を精一杯やります。」

谷坂は伊藤の言葉を遮った。

「伊藤警部、監理官がお呼びです。」後ろから吉澤警部補が呼びに来た。

「お呼びが来たようだ、その件は真剣に考えておいてくれ、じゃあな。」

谷坂の肩をポンと叩いて足早に伊藤は去って行った。

呼びに来た吉澤が一瞬、谷坂を憎悪に満ちた目で睨んだが直ぐに去った。

吉澤が今回の首脳にいるか、面倒だな。

「すごいじゃないっすか!伊藤警部と知り合いなんて!どこで知り合ったんすか!?」

隣で曽我がはしゃいでる。

「ああ、昔ちょっとな。」

その時、館内放送が流れた。狛江市役所近くの公園で引ったくり発生、犯人は・・・。

谷坂は引ったくり事件に意識を集中させた。


〈郊外・アパート〉

「ただいま。」

「おかえりなさい。早かったね。」

扉を開けると美味しそうな料理の匂いと、舞香の声がした。

「ああ、ちょっと管内で事件が発生してな。明日から本格始動だ。」

上着を脱いで、背伸びをしながら谷坂はリビングに向かう。

「そうなの、大変ね。」

舞香は料理を皿によそおう。今日はロールキャベツのようだ。

舞香と出会ったのは一年前、交通課の婦警が良く通うショップのショップ店員だと紹介されたのだ。

第一印象はツンとした感じの女性だと思った。しかし、外見とは違い非常に気配りの出来る女性だった。

普段は女性に奥手だった谷坂も彼女を知り食事に誘い、二回目の食事で交際を申し込んでいた。

そして交際して一年後には同棲を始めていた。

舞香は背が割と高くスレンダーな体型をしているが、あまり派手な服は好まず今日も黒いTシャツに細身のコットンパンツと地味な格好である。髪も後ろでひとつにまとめている。

谷坂はリビングに座りテレビを付けた。テレビではドキュメンタリーでホウジロザメの生態についてナレーターが語っていた。「鮫と言うのは歯が抜けても何度も生え変わる性質を持っています。」

なるほど、じゃあ歯を折っても次の歯がでてくるわけか。

すると突然テレビが消えた。

振り返ると舞香がロールキャベツを持って来ていた。

「食事中のテレビはお行儀悪いわよ。」

「悪い。」

二人でロールキャベツを食べ始めた。

「最近、寒いわね。風邪引かないようにね。」

「ああ、外での聞き込みが多いからな。」

年は舞香の方が下だが、どこか母親じみた所がある。そんな世話焼きな所も谷坂は嫌いではなかった。

「はい、これ。」

舞香は男性用のレッグウォーマーを谷坂に渡した。

「マフラーは捜査の邪魔になるってつけてくれないでしょ。それなら邪魔にならないから、つけてみたら?」

舞香の気遣いを谷坂は照れくさく思いながらも内心はものすごく嬉しかった。


〈東帝テレビ・Gスタジオ〉

「みなさん!本番入ります!」

若いADの声と共にスタジオの照明が消えた。

曲のイントロが流れた瞬間、一斉にサリュウムが折られ暗闇に光が浮かぶ。

スポットライトが舞台に当たった瞬間、きらびやかな衣装を着た三人の女の子が歌い、踊る。

「まいまい~!」

「あみた~ん!」

「ふみっき~!」

三人の名前を呼ばれるたびに彼女達は飛び切りの笑顔をファンに向ける。

彼女達はアイドルグループ・バタフリー。

練馬区で被害者になった木本ゆりあと、狛江市の被害者・君江萌が所属している。

狛江市のバラバラ遺体をマネージャーに確認してもらったところ君江萌に間違い無いと言っていた。

君江萌は事件の前日、リハーサルを終えた後、消息を絶っていた。

翌日、マネージャーがもしかしてと思い連絡を入れたが音信不通だったそうだ。

「あの日は萌がメンバーと衝動して、機嫌が悪かった日なんです。あの時、僕が萌を送っていればこんな事には、ああ、ゆりあの時もそうだ。僕はマネージャー失格だ!」

マネージャーの木村は頭を抱え泣き出した。線の細い色白の若者だ。

聞き込みには谷坂と警視庁から吉澤が派遣された。

「お気持ちお察し致します。もう一度、二人に会った最後の日の事を聞かせて貰えませんか?」谷坂は優しく木村に問い掛ける。

二人の疾走にはそれぞれ共通点がある。それは疾走する前にメンバーと衝突している事と、知らない間に一人で帰ってしまった事である。

谷坂と吉澤は聞き込みを続けた。


「私、忙しいの。」

舞台の上で見せていたキラキラのアイドルスマイルは嘘の様な仏頂面だ。

尾崎あみは椅子に座り踏ん反りかえってる。

「貴様、警察に対してその態度はなんだ!」

吉澤が一喝するが、尾崎も負けていない。

「はあ?何言っちゃってるの?マネージャーこの人むかつくから帰る!」

「ごめん、忙しいのに時間とらせて不愉快にさせて。もう少しで終わるから、我慢してくれないかな?」

席を立とうとした尾崎の間に谷坂が立ってなだめる。

「・・・まあ、お兄さんイケメンだしいいよ。」尾崎はしぶしぶ座り直した。

「木本さんと君江さんが亡くなる前にどこか変わったところ無かったかな?」

「べつに、ゆりあはダンスの振りの覚えが遅れてていらついてたかな?それで萌と口論になって更衣室に行っちゃったの。気が付いたら帰っていて・・・・、萌の時も同じ、萌が勝手にキレて更衣室に入って、気が付いたら帰ってた。」

喧嘩、更衣室、帰宅・・・この三つしか共通点は浮かび上がらない。


次は井上文香を面談した。

井上は携帯をいじったままこちらを見ようとしない。

「あの・・・・メールなら後にしてくれるかな?」谷坂は恐る恐る言った。

「うるさい、ブログ更新してるから。」携帯から目を離さずに井上は言った。

すると、その携帯を吉澤は奪い取った。

「ちょ!何するのよ!!」井上が金切り声をあげる。

「貴様、こっちが取り調べてるのにその態度はなんだ!」

「はぁ!まじイミフなんですけど!返してよ!」井上は吉澤から携帯を取り返そうとする。

「待て!待て!吉澤さんも携帯を返して。」

吉澤は渋々、井上に携帯を返した。井上は勢い良く携帯を取り返す。完全にヘソを曲げてしまった様だ。

「すまなかった。事件当日の二人の様子を教えてくれないか?」

谷坂の問いに井上は応えない。

「なぁ、頼むよ。」

すると、井上が携帯の画面を見せてきた。

ウザイ!消えて(`皿´)


「まったく!何なんだあいつらは!大人を舐めてるとしか思えん!」吉澤は相当ご立腹の様だ。

「仕方ないだろ、彼女達も身近な人間が二人も殺されたんだ。平常心じゃいられないさ。」

すると吉澤は立ち止まり意地悪そうな目で谷坂を睨んだ。

「貴様・・・、俺にタメ口とはどういう事だ?」

はっ、と谷坂は気がついた、吉澤とは警視庁時代の同期である。そして吉澤の執念深い性格も谷坂は知っている。

「貴様はもはや所轄の一刑事だ。警視庁のエースでもない。俺とお前には雲泥の差がついている。解るか?」吉澤はあえて解るか?を強調した。警察組織は常に縦社会、例え年齢や実力が上だとしても階級には逆らえない。

「申し訳ありませんでした。」谷坂は深々とお辞儀をする。

「まったく、警視庁のエースと呼ばれた貴様があの程度の事で所轄勤務を希望するとは、情けない。」

谷坂は頭に血が登るのがわかった。普段は冷静な谷坂もあの事件に触れられると怒りが収まらない。

とっさに吉澤の胸倉を掴み、廊下の壁に押さえ付けていた。

「お前が言うその程度の事で俺は今でも苦しんでいるんだ。お前にその苦しみが解るのか!」

谷坂は吉澤の首を絞めつける勢いで叫んだ。

吉澤はその勢いにただ押されるばかりだ。

谷坂はようやく手を緩めた。吉澤は谷坂の手を乱暴に解いた。

「こ、この事は本庁に報告する!次やってみろ!俺がお前をクビにしてやる!下らん子供からの聞き取りは貴様一人でやれ!」

そう言うと吉澤はその場を去った。

谷坂の怒りに満ちた目が恐ろしくて仕方なかったんだろう。

谷坂は気持ちを落ち着ける為にベンチに座った。

今でもあの事件は谷坂の心に深い傷を負わせている。

あの日、あの時の一発の銃声が今も耳に焼き付いて離れない・・・・。


谷坂は一息ついて最後のメンバー、三浦舞の元に向かった。


ダンスのレッスン室で三浦は汗だくになって踊っていた。

バタフリーの曲とは違うアップテンポの曲を一心不乱に踊り続ける。

その鬼気迫るダンスに谷坂も圧倒されていた。

「凄いでしょ、バタフリーの裏センター、三浦舞。」

マネージャーの木村が知らない間に横に立っていた。

幽霊の様な佇まいに三浦はギョッとしたが、木村はそれも気にせず続けた。

「ダンスも歌の実力もピカイチ、ルックスも良い。ファンへの対応も評判で人気も高い。しかし、何で舞がセンターじゃ無いか解りますか?」確かに三浦はバタフリーのセンターではない。それどころか、ポジションも一番端である。

「舞の事務所が弱小事務所だからですよ。亡った二人を含めて四人は大手プロダクションの所属だけれど、舞は違う。この世界は努力や実力ではどうしようもない事が多過ぎるんですよ。」木村は悲しそうに舞を見詰めていた。

ダンスの曲が終わり、舞がこちらに駆け足でやってくる。

「すみません。ダンスに集中して気付かなくて。マネージャー・・・こちらの方は?」

「狛江市警察の谷坂です。亡くなったメンバーの二人について少しお聞きしたいのですが。」

「はい、私に出来る事でしたら。」


「ゆりあがいなくなったあの日、私達はレッスンでした。ダンスのポジションの事で萌と激しく口論していたのを覚えています。」

三浦はひとつひとつ確かめる様に話した。

「そのうち、ゆりあが怒って帰ってしまったんです。最近私達メンバー同士の衝突が多くて・・・怒ってよく帰ってしまうんです。だから、いつもの事だと思っていました。そして、ゆりあが怒って更衣室に入って行くのを見たのが最後でした。萌の時も同じでした。マネージャーから遅刻癖が治らないのを注意してくれと頼まれて。それで私が注意したら気分が乗らないって・・・、更衣室に行ってみたら萌の荷物は無くなってました。」

被害者を最後に見たのは皆、更衣室に入る前だった。それ以降は見ていないか。谷坂は首を傾げて考えた。

ふと顔を上げると三浦は今にも泣き出しそうだった。

メンバーの死を心から悲しんでいるようだ。

「私がいけないんです。ゆりあと萌を引き止めていたらこんな事にはならなかった。もっと皆で話し合うべきだったんです。」

三浦は仲間を死なせてしまった責任を感じ、押しつぶされそうになっているのだ。

根が真面目で優しい、しっかりとした印象を谷坂は受けた。

泣き出しそうな三浦に気を使って。谷坂はすぐさま話を変えようと話題を探した。

するとたまたま目に三浦のレッスン服が写った。

「あ、そのTシャツかわいいね。」

「ああ、これですかサンキストジュエルってブランドとバタフリーがコラボしているんですよ。舞台衣装とかもサンキストジュエルのショップ店員の方が舞台事に選んでくれるんです。その店員さんに貰ったんです。」

三浦は少し嬉しそうだった。やはり年頃の女の子はファッションにも敏感なのだろう。

サンキストジュエジュエルかぁ、直ぐにどんなブランドか頭に浮かばない自分は歳をとったなぁと谷坂は思った。




〈2009年1月東京湾埠頭〉

「犯人は銃を持って逃走。東京湾第七倉庫に女性を人質に立て篭もっている。逃走中に警官が二人打たれて一人が重傷、一人は死亡が確認された。」

あの日、警部補であった伊藤が部下に指示を出す。立て篭もり専門のチーム10名その中に谷坂もいた。

直ぐさまホワイトボードに倉庫の見取り図、犯人の位置関係が張り出され谷坂達はその位置関係を頭に叩き込んだ。

谷坂の位置は犯人から右少し後ろの窓付近、もしもの事があったら犯人を狙撃する役割である。

チームの中でも谷坂の狙撃の腕前はピカイチだった。

現に何度も犯人を狙撃し人質を解放している。

狙撃すると言っても腕や、足を狙うだけで大体の犯人は戦意を失う。

いつも通りやれば解決出来る事件だった。


谷坂達は現場に到着すると所定の位置に着いた。

中では男が意味不明な言葉を叫びながら銃を乱射している。

男の銃はグロック12S、リボルバータイプの銃なら弾切れを待てるがそうは行かないようだ。

まずは伊藤が犯人に話し掛ける。

しかし、相手は薬物中毒による幻覚で話しが通じる相手ではない。

これは狙撃の必要ありだな。

谷坂はライフルを構えた。

スコープの先に犯人の姿が見えた。いつも通り照準を合わして無線からの狙撃の指示を待つ。



・・・・・・1時間後、状況は一向に変わらない。

人質である女子高生はぐったりしている。長丁場で谷坂の集中力も限界に近づいてきている。

この緊張感で同じ姿勢はきつい、手足がしびれてくる。1月なのに汗が頬を伝う。鼓動が自分の耳に聞こえてきそうだ。

喉が渇く。

すると、スコープの先で予期せぬ自体が起こった!

なんと、人質の女子高生が暴れて犯人に抵抗し始めたのだ。

犯人も激情し今にも人質を撃ち殺す勢いだ。人質は最後の力を振り絞り抵抗する。

「ザーッ、谷坂聞こえるか、犯人は激昂している。狙撃せよ。」狙撃命令が下った。

谷坂はスコープに意識を向ける。

スコープの前では犯人と人質が揉み合っていた。変わる変わるスコープの前に現れる。

この状況では間違って人質を撃ってしまう可能性もある。しかし、犯人は激昂していていつ撃ち殺すか解らない。抵抗している人質の体力も限界だ。

落ち着け、犯人と人質が離れる瞬間を狙うんだ。

ドク!ドク!ドク・・・谷坂は自分の鼓動が高まるのが解った。

「ザーッ谷坂、何をしている!狙撃しろ!」

もう一度意識を集中させるが、息苦しくなってしまう。

手が震える。もし、間違って人質に当たったら。

「ザーッ、谷坂!応答しろ!谷坂!」

うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!!

次の瞬間、犯人が人質の額に銃を突き付けた。まずい!

谷坂は思わず目をつむり弾き金を引いた。


パン!と乾いた音が倉庫にこだまする。

スコープはライフルから出る煙りで見る事が出来ない。

少しして煙りが無くなった。

最新に谷坂の目に飛び込んで来たのは女子高生の顔だった。





・・・・その顔は被弾し半分を失っていた。呆然と立ちすくむ女子高生・・・、スコープ越しに彼女と目が合った。残った片方の目で谷坂を見詰めた。唇が僅かに動いた。


「ど・う・し・て・?」

そしてその目は生気を失い。その場に崩れ落ちた。


崩れ落ちた先に犯人が立っていた。

人質の反り血を浴び、赤い悪魔の様に見えた。喉仏から血液が滝の様に飛び出ていた。

人質に当たった弾が貫通し犯人の喉仏に当たったのだ。

ぐぅ、と小さなうめき声を上げて倒れ、女子高生の亡きがらと重なった。

「ザーッ、確保!」

谷坂はただ放心状態でその場に崩れ落ちた。



二人の人間を殺した・・・。

警視庁のベンチで谷坂はうなだれていた。

俺は人を殺したのだ。

しかも、罪もない人を殺したのだ。

「お前のせいじゃない。お前でなくても失敗していた。」

伊藤は谷坂の肩を叩いたが谷坂の耳には届かなかった。


しばらくベンチに腰をかけていると誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「失礼致します。人質の方の遺留品の中に気になるものがありまして、その・・谷坂巡査長しかいらっしゃらないものでして、その・・・確認の方を・・・」

この若い制服警官も今回の件を知っているのだろう。少し言いにくそうだった。

「解った。今行く。」

谷坂は重い腰を上げた。


無機質な机の上には人質だった女子高生の遺留品が並べられていた。

携帯、財布、ノート、手帳、コスメセット、お菓子、定期券などごく普通の持ち物だ。

そんなごく普通の人生を俺は奪った。

その中に血が飛び散っている小さな便箋と長方形の箱があった。

谷坂はその便箋を開いた。


「お姉ちゃんへ

お誕生日おめでとう。

昨日は喧嘩しちゃってごめんよ~。

本当は喧嘩なんかするつもりじゃなかったんだ。

ただ、お姉ちゃんが大学卒業して一人暮しをすると思うと、寂しくてさ・・・。

だってもうすぐじゃん?今までみたいに一緒にお買い物行ったり、好きな人が出来た時相談したり、お化粧教えてもらったり出来ないんだよ。綾香寂しいよ~。

なんてね笑

もう、甘えん坊の泣き虫綾香は卒業するんだ!

だから初めて自分でバイトしてプレゼントを買ったんだよ。

お姉ちゃん、今までわがままで甘えん坊な綾香と仲良くしてくれてありがとう。一人暮ししたら遊びに行くね。これからも仲良くしてね。

素敵な彼氏できたら紹介しろよっっ。

綾香より」


「うあああああああああああああああああああああああああ!!」

谷坂は狂ったように叫び、壁に何度も頭を打ち付けた。

額から大量の血が流れ出る。

俺は生きる価値のある人間なのか・・・?



人質となった女子高生の葬儀は翌日にしめやかに行われ、谷坂もその葬儀に参列した。

遺影には明るく笑う人質だった女子高生が写っていた。

こんな表情をするんだなぁと谷坂はぼんやりと遺影を見詰めた。

谷坂は遺族のいる場所に明日を運んだ。

人質だった女子高生の父親、母親、そして姉らしき人物がそこに立っていた。

「警視庁・谷坂です。この度はご愁傷様でした。」

「綾香の父、義光です。今日はこのような場所にご足労頂き誠にありがとうございました。」

父親、母親が頭を下げる。姉は俯いたままだ。

「いえ、娘さんの遺留品の中に手紙が入っていました。失礼ですが中身を調べさせて頂きました。どうやら、お姉様への手紙の様です。」

姉と思われる女性は俯いたまま手紙を受け取る。しばらく手紙を読み突然号泣し始めた。

母親が近くに寄り添って慰める。

「・・・ろし、・・・ごろし、・・・人殺し!」

急に姉と思われる女性が立ち上がり谷坂を睨みつけた。

顔は覚えてはいないが、その充血し怒りと憎しみに似た目は今でも覚えている。

人殺し!人殺し!人殺し!人殺し!

そこら辺にあるものを谷坂に投げ付けた。

谷坂はそこで死んでしまいたかった。

「すみません!!すみません!!」

谷坂は土下座して泣きながら謝った。

しかし、姉の罵声が止む事はなかった。





「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ、ハァ、ハァ。」

谷坂は悪夢にうなされ目覚めた。汗をたくさんかいてしまっている為、洗面所で顔を洗う。

鏡に写った自分の顔を見てみる。

ひどいものだ。目は窪み、くっきりと熊が出来ている。

まるで、逃走中の犯人の様に頬は痩せこけていた。

そこに警官としての威厳は無かった。

罪に潰されそうになり、そこから必死に逃げ回る臆病な男がそこには写っていた。

「大丈夫、結構うなされていたようだけど。」

後ろから舞香の声がした。

鏡を見ると舞香が心配そうな顔をして立っていた。

「ああ、大丈夫だ。心配ない。起こしてしまってすまなかった。」

今の顔を見られまいと谷坂は後ろを向かず応えた。

舞香は何も言わずに細い腕を回して後ろから谷坂を抱きしめた。細い腕には華奢な可愛らしい腕時計がはめられていた。

「・・・・・・君には人に言えない過去はあるか?」

「・・・解らないわ。けど、今私はあなたとこうしている。それだけで過去なんてどうでもいい。」

谷坂は舞香の腕に巻いてある腕時計に目をやった。

時計は深夜4時を回っていた。


〈深夜0時・親日テレビ・スタジオA〉

「君が~大好き!」

「はい、カット!お疲れ様です!」曲が終わったと同時に尾崎あみが井上文香を小突いた。

「ちょっ!何するのよ!」

「あんたね、言って良いことと悪い事があるわよ!」

「はあ、何のことよ?」

「あんたね!私の肌荒れの事裏で笑ってるんでしょ!マネージャーから聞いたわよ。あのクレーターみたいな肌が気持ち悪いって散々笑ってたそうね!」

「はあ!?言って無いし、まじイミフですけど!」

「てかあんた最近センターだからって調子のってない!」

二人はまさに一触即発だった。

三浦が間に割って入る。

「ちょっと、止めなよ二人共!みんな困ってるでしょ!」

しかし、二人の勢いは止まる事を知らない。

スタッフやマネージャーも止めに入れずただおろおろするばかり、もし止めに入って今人気のバタフリーに嫌われたらこの世界で生きていけない。

皆、心のどこかで誰かが止めてくれるのを期待するしか無かった。

真ん中に入った三浦もただもみくちゃにされるだけでまったく意味をなしていない。

「もう!私帰る!!」

井上がついに怒ってスタジオを飛び出した。

「文香ちゃん、今は一人になっちゃ危ないよ。」マネージャーが弱弱しく止めに入るが井上は止まらない。

「どいて!」マネージャーの静止を押しのけて更衣室の中に入って行った。


「なによ!あみのやつ!私は行ってないって言ってるじゃない!」

井上は乱暴に衣装を脱ぎ捨て下着姿で化粧を落とし始めた。

「もう!最悪!あー、怒ったから皺が増えたじゃない!プロフィールでは16歳なのに、本当は25歳ってばれちゃう!あー、足痒い!水虫かきたいよ~!むかつくから今晩はこないだナンパしてきたチャラ男とやりまくろ。携帯、携帯。」

井上はふと閃いた。そうだ、事務所の公式HPにあみの酷評を散々送りつけてやろ。

私の携帯から送ったらばれるから、マネージャーのパソコンから送っちゃえ。

井上は下着姿のまま、マネージャーの鞄の中を探り始めた。

ギィ・・・・・・、更衣室の扉が開いた。

井上はキャ!っと短い悲鳴を上げたがすぐに落ち着いた。

「なんだ、あんたか・・・、入る時ぐらいノックしなさいよ。衣装そこにあるから回収しておいて。」

すぐさま井上はノートパソコンを探す事に意識を戻した。

「えーと、あ!あった、あった。」

井上はパソコンを開き公式HPに入る為インターネットを開く。

しかし、誤ってマネージャのメールボックスを開いてしまった。

「何よマネージャー、面白いメールが一通も無いじゃない。仕事のメールばっか・・・・ん?この暗号みたいなメールなんだ?さてはエロサイトからのメールだな。見ちゃお。」

井上は興味身心で中身を開こうとした。


すると目の前にV字の物体が顔に張り付いた。

それが人の手であり、顔を鷲掴みにされている事に気付くのには少し時間がかかった。

何?何?何?

悲鳴を上げようとしても上げれない。

暴れようとしてもプロレス技の様に完璧に固められて身動きが取れない。

やがて井上の顔を鷲掴みにしていた手が無理やり井上の顔を上に押し上げた。

急に上を向く形になったので首に寝違えたような痛みが走る。

恐怖と混乱で叫び声を上げようとしたが口も声が出ないように押さえられてしまった。

指と指の間から天井と蛍光灯が見えたと思った瞬間、額に激痛が走った!

叫ぼうにも声が出ない。あまりの激痛に手足をジタバタさせるが無駄な抵抗だった。

体が痙攣し口から泡が出てくる。

痛みはだんだん深くなっていき、体の穴という穴から体液が漏れ始めた。

そしてその痛みが絶頂に達した時、井上は眼球が飛び出るほど目を見開き、口からだらしなく舌と泡を出しながら絶命した。


<都立病院・解剖室>

「死因は出血多量じゃねえ、これだ。」

種沢医師が東北訛りの声でうどんをすすりながら死体の額の部分を突付く。

遺体を前に肉うどんをすすりながらしゃべる種沢を曽我は恐る恐る見つめた。

「あの爺さん頭大丈夫ですか?」曽我は谷坂に耳打ちする。

「種さんは法医学の第一人者だ。間違いは無いさ。なあ、種さん。じゃあ被害者は何で殺されたんだい?」

すると種沢は鋭い眼光をこちらに向けて近寄ってきた。

思わず谷坂はのけぞる。

「これだから、お前ら刑事はいげね!すぐ、結論ばかりを知りたがる!だいたい検証もせずにだ、遺体ばっかこっちにまわして・・・・・・・」2時間経過。

「まあ、この仏さんは額に針を刺されて死んだわけよ。」

「額に針!!ひゃー、考えただけでも寒気がする!けど、そんなに簡単に針なんて刺さるんすか?」

すると種沢は曽我の額にでこピンを喰らわせた。

「いて!何するすか?」

「小僧!そんな堅い額に針が通ると思うか?普通の人間じゃまず無理だ。」

種沢の言葉に谷坂はすぐに反応した。

「すると、普通の人間じゃなければ出来ると?」

谷坂の返答に種沢は嬉しそうに鼻を啜った。

「へっ、坊主もちっとは解かるようになったな。これは完全にプロの仕業だ。

マグロ漁知ってるか?釣ったまぐろが船内で暴れない為、マグロの額に針を刺して殺すんだ。この方法は血も出ないし外傷が残りにくい。最も効率のいいプロのやり方だ。わざわざ現場にナイフまで残してバラバラにしたのは犯人が狂った人間だとおもわせる為の付箋にすぎねぇ。」

言い終えると種沢はうどんの上に載っていた肉を君江萌の首の横で美味しそうに口に運んだ。

「谷坂さん、てことは・・・。」

「あくまで俺の予想だが今回の犯人は二人、一人は殺しを依頼した人間。もう一人は殺しを実行した人間だ。」

解剖室には種沢のうどんをすする音が響いた。


「恐らく、依頼した犯人は被害者の身近な人物だ。被害者は一人になった所をすぐに狙われている。

一人になった瞬間をすぐに共犯者に知らせる事が出来る人間に絞られる。」

「じゃあ、さっそく聞き込みっすね!燃えてきた!」

谷坂と曽我が車に乗ろうと駐車場にでる。

「待てよ!」

聞き覚えのあるねっとりとした声が谷坂達を止めた。

吉澤がにやにやした顔でそこに立っていた。

「種沢のじいさんから何か聞けたか?隠さず言えよ。お前ら所轄は俺たちに情報を提供する義務がある。」

吉澤は高圧的に言い放った。下手に隠さない方がいい、谷坂はありのままの情報を吉澤に伝えた。

「今回の事件は殺し屋による犯行の可能性が高い。そして、殺しを依頼した人間が被害者の見のまわりにいる可能性が高い。今すぐ、バタフリーの元へ行かなければ彼女達の命が危ない。」

「そうか・・・、なるほどね。けどな谷坂!バタフリーへの聞き込みは警視庁の役割だ。今回は伊藤警部がお前を押してくれたから同行させてやったが、今回は・・・・。」

「はーい!自分いくっす!」

曽我の間の抜けた返事に吉澤はぽかんとしている。

「だって、谷坂さんが駄目なら自分がお手伝いしますよ。アイドルの聞き込み件、ナイト役なんて最高じゃないっすか!」

曽我は胸の前でガッツポーズを作る。

「あのなぁ・・・、これは遊びじゃ。」

そう言うとする谷坂を曽我は制した。

谷坂は曽我の表情を見て驚いた。

普段はお調子者の曽我の顔が真剣だった。使命感に燃えているというのかもしれない。

曽我は吉澤に向き直り深くお辞儀をした。

「吉澤警部補!自分を同行させてください!」

吉澤は曽我の真剣なまなざしに目を合わす事が出来なかった。

「フン、所轄を一人つれて行くのはルールだからな。好きにしろ!」

「はい!ありがとうございます!」

曽我は急いでパトカーの手配をした。


パトカーの中で曽我はいろいろな事を考えていた。思えば自分が警察官になったのは6年前だった。

地元では札付きのワルだった曽我が刑事になったきっかけは暴走行為で警察に連衡された時、担当してくれた刑事だった。

署についた途端にいきなり拳骨で殴られた。曽我はその時カッとなったが刑事の顔を見て唖然とした。

その刑事は泣いていた。

「街で暴れて、迷惑掛けて、お前は人生無駄にして楽しいのか?」

曽我は自分の為に初めて叱ってくれる大人に出会った。

この人みたいに人のことを思いやれる人になりたい。

曽我は警察学校の門をくぐった。

2年間派出所勤務を続けて刑事になった。派出所勤務は嫌いではなかったがやはり刑事になりたかった。

そこで出会ったのが谷坂という男だった。

普段は無口でクールな男だ。しかし、その洞察力や行動力は郡を抜く。何より何事にも動じない精神を谷坂は持っている。まさに曽我にとってはヒーローだった。

あの人に認められたい!!

丸山など他の刑事にはほめられる事はある。

しかし、それは出来の悪い息子が頑張った時のほめ方である。

もっと、谷坂の様な上司から認められたい。今回の連続殺人事件はまさに千載一遇のチャンスだと曽我は思っていた。


バタフリーが所属する事務所に着くとそこではマネージャーが世話しなくうろうろしていた。

完全に落ち着きを失いカチカチとつめを噛んでいる。

奥のソファーには尾崎あみ、三浦舞が真っ青な顔をしてうつむいてソファーに座っていた。

吉澤、曽我の存在に気付くとマネージャーの木村は吉澤に泣きついてきた。

「け、け、刑事さん!大変です!大変です!文香が!文香が!」

木村は気が動転していて言っている事も支離滅裂だ。

落着いてくださいと吉澤が言っても聞こえていない。

「あの、昨日、文香がいなくなったんです。未だに連絡も取れなくて。」

三浦舞がソファーから立ち上がって言った。その瞳は恐怖と必死に戦っていた。

「なんだって!吉澤さん!やばいっすよ!今すぐ本部に連絡を!」

「・・・・待て、犯人は身近な人間だという事を聞いていなかったのか?犯人確保が先だ。」

「な!なに言ってんすか!?早く知らせないと!新しい犠牲者が!」

「命令だ!今すぐ事務所を閉鎖しろ!」

吉澤の命令に曽我は渋々従った。

バタフリーの芸能事務所の扉を締め切り、中で働いていた30名を吉澤が取り調べ、曽我が怪しい物が無いか調べる事になった。


曽我は地下にある倉庫から調べる事にした。

倉庫の中は薄暗く過去のテレビなどで使った衣装や備品などがところせましとならんでいた。

曽我自身も以前テレビで見たことのある備品に心動かされながらも周囲を探った。

埃と格闘しながら数分探してみたがそれらしきものは見当たらない。

仕方なく倉庫を出ようとした時、真新しい黒いバックを発見した。

その黒いバックをあけて中を確認すると中からノートパソコンが出てきた。

曽我はそのノートパソコンを開いてみる。

白いキーボードの最新式のノートパソコンだ。

早速、立ち上げて見るとキーボードのバックスペースキーに汚れのような者がついていた。

曽我は目を凝らして見て見る。

「これは・・・・血液だ。」

おそらく飛び散った血液を拭いた際に拭きそびれたのだろう。このパソコンが現場にあった可能性が高い。

曽我はパソコンのデスクトップを注意深く見る。

中に一つだけ不明なファイルがあった。

曽我はそのファイルを開いてみた。


受信 Date:11月4日 02:02:44

From:Mr

Subject:ターゲット1

   to:shark

ターゲット1、現在メンバーと口論になり、更衣室に一人。


受信 Date:11月4日 03:28:55

From:Shark

Subject:ターゲット1完了

   to:Mr

ターゲット1、抹殺完了。OO橋近く練馬区河川敷にて遺体放置。

添付:ターゲット1 脚画像


受信 Date:11月4日 04:00:30

From:Mr

Subject:Reターゲット1完了

   to:shark

ターゲット1、先ほど遺体確認。


受信 Date:11月10日 01:38:55

From:Mr

Subject:ターゲット2

   to:shark

ターゲット2、現在メイクルームに一人。


受信 Date:11月10日 01:38:55

From:Shark

Subject:ターゲット2完了

   to:Mr

ターゲット2、抹殺完了。狛江市竹林(狛江市00町00)にて遺体放置。

添付:ターゲット2 腕画像


受信 Date:11月10日 04:15:38

From:Mr

Subject:ターゲット2完了

   to:shark

ターゲット2、遺体確認。


受信 Date:11月13日 03:52:38

From:Mr

Subject:ターゲット3

   to:shark

ターゲット3、スタジオ楽屋、一人。


受信 Date:11月13日 04:59:30

From:ahark

Subject:ターゲット3完了

   to:Mr

ターゲット3、抹殺完了。XX埠頭、XXコンビニ・XX店 駐車場近くのゴミ箱に死体遺棄。 

添付、ターゲット3 胴体





「これは・・・!」

曽我はこの事件に関する重要な手がかりを手に入れた。

自分の鼓動が早くなるのがわかる。

落ち着け、落ち着け。この証拠を誰に知らせる?吉澤か?いや、奴なら手柄を独り占めにしかねない。このメールを谷坂さんに送ろう。

曽我はノートパソコンから谷坂のアドレスへメールを送った。メールが重く送信時間がかかっているようだ。

「くそっ!早くしろよ!」

曽我は苛立ちを隠せない。メール送信中の画面がこれ程までに長く感じた事早くなかった。

すると、曽我は背後に気配を感じた。

刑事としての感が曽我に危険を感じさせた。

振り向いた時、暗闇に光る銀色の物体が曽我の喉元を深くえぐった。

「ぐあっ・・・。」

大きく開いた傷口からは大量の血液が流れ出る。

曽我はその人物にタックルをしたが、逆に背中にナイフを突き立てられてしまう。

曽我はうずくまりながらも相手の足首を掴み何とか顔を上げ犯人の顔を見た。

それが曽我が生きているうちに最後に見た人間だった。


〈警視庁・霊安室〉

・・・ハァ!・・・ハァ!・・・ハァ!・・・ハァ!

谷坂は息を切らして全力で走った。

途中、警視庁の人間に廊下でぶつかりそうになり怪訝そうな顔を向けられても谷坂の目には入っていなかった。

3時間前に谷坂のパソコンに見たことの無いアドレスからからメールが入っていた。

本文をみて谷坂は驚きを隠せなかった。

これは明らかな殺人依頼の内容だ。

ターゲット1は練馬区の被害者・木本ゆりあ、ターゲット2は狛江市の被害者・君江萌、ターゲット3は恐らく現在行方不明のメンバーだろう。しかし、一体誰が?すぐさまこのメールを伊藤に転送し連絡を入れた。

「谷坂です。今、殺人依頼と思われるメールが送られて来ました。恐らく今回の殺人事件のものだと思われます。」

「解った。すぐに確認する。それより谷坂、大変な事が起こった。」


谷坂は未だに曽我の死を受け入れていない。

きっと何かの冗談だろ。

「どっきりっすよ!」なんて言って曽我がひょっこり出てくるのではないか?そんな期待をしていた。

しかし、霊安室で見た曽我は清められて、間違いなく死んでいた。

霊安室には伊藤、丸山、猪狩そして吉澤がいた。

「曽我・・・。」

呼びかけも曽我は返事をしない。

「バタフリーの事務所廊下で首を掻っ切られて倒れていたそうだ。倉庫で首を掻っ切られた状態で這い出してきたらしい。たいした根性だ。はいずりながら伝えようとしたのだろう。見所のある奴だった。」伊藤は悔しそうに言った。

4年前に真新しいぶかぶかのスーツを着た曽我が挨拶をした日を今でも昨日の事の様に覚えている。

「本日、狛江市刑事1課に所属になった曽我猛っす!ばんばん、逮捕しちゃうのでよろしくお願いします。」

困った奴が来た・・・・、谷坂の第一印象はそんな感じだった。

案の定、曽我は初日から飛び出してミスを連発、署内から苦情の電話が鳴り止まなかった。

しかし、曽我の評価を変える出来事に谷坂は遭遇する。

空き巣の犯人を確保した時の事、犯人は空き巣の証拠となる書類をシュレッターにかけてしまったのだ。決定的な証拠が無い限り犯人を逮捕できない。谷坂達は途方に暮れた。

その日の深夜、谷坂は忘れ物をした事に気付き署に戻った。

すると、一つだけ電気のついたフロアがあった。

注意深く眺めていると曽我がシュレッターにかけられた証拠を一枚一枚取り出していた。

だれもが嫌がるその仕事を曽我は自ら引き受けて地道にやる。

刑事として一番重要なことを曽我から教わったような気がした。

曽我も谷坂にはよくなついた。

「谷坂さん、俺、谷坂さんみたいな刑事になりたいっす。」

「俺みたいにはなるな。そんないい人間じゃない。」

そんなやり取りをしているときは気恥ずかしくも嬉しかった。

しかし、曽我はもう死んでいる・・・・・。


「ふん、馬鹿なやつだ。警察として背後を取られるなんて愚の骨頂だ。」

ベンチでうなだれて座る吉澤が言った。

その瞬間、谷坂は吉澤を無理やり立たせ、思い切り顔面を殴った。

吉澤は鼻血を出しながら霊安室の廊下に倒れ込んだ。

猪狩が慌てて止めに入った。それでも谷坂の怒りは収まらない。

「なんで曽我を一人にしたんだ!二人一組で動くのが原則だろ!なぜ応援をよばなかったんだ!」

猪狩に羽交い絞めにされながら谷坂は狂った様に怒鳴り散らす。

「よせ!そんな事したって曽我は戻ってこん!」

伊藤の一言で谷坂はおとなしくなった。

「こ、このことは本庁に報告してやる!」吉澤は逃げる様にその場から立ち去った。

「メールを送った主は判明している。お前が取り調べるか?」丸山は谷坂に聞いた。


<警視庁・取調べ室>

取調べ室にマネージャーの木村は亡霊のように座っていた。目には生気を全く感じない。

生きながらに感情を殺されたといった方が適切だろうか?抜け殻の人間がそこにはいた。どんなに凄んでも、優しく聞いても木村は不気味な薄笑いを浮かべるだけだ。

もはや自分はどうなってもいいのだろう。自暴自棄になった人間ほど恐ろしいものはない。

「どうだ?何かしゃべってくれたかね?」丸山がのっそりと顔を出した。

谷坂と猪狩は首を横に降る。

「やれやれ、ちょっくら腰をかけるよ。」立てかけていたパイプ椅子を広げ丸山は腰をかけてタバコを吸いはじめた。

「あんたも吸うかい。」

「・・・・。」

「女房と息子には吸うなって言われてるんだが、これがなきゃやってられなくてな。」

「・・・・。」

「あんたあれだってな、アイドルのマネージャーだってな。俺も若い頃はアイドルに憧れたもんだ。ピンクレディーだっけか?ランちゃん、すーちゃん、」

「それはキャンディーズだ。」

「おお、いけねぇ、いけねぇ。歳取るとどうもな。こないだも携帯電話なくして家でわー、わー言ってたら、息子が鳴らしてくれてよ。」

「・・・フッ」

「息子も芸能人が好きでよ。なんだっけか、あの・・・、あれだ、月9に出ている女優の池谷?池袋?」

「池田真奈美だ。」

「そう!それだ!彼女はあれかい?普段でもあんなしゃべりがゆっくりなのかい?」

「あれはキャラを作ってるだけだ。普段の彼女はもっと傲慢でプライドが高い。現場で見る度、胸糞が悪くなる。」

「そうかい!あの女は主演の俳優と付き合ってる噂は本当かい?」

「あれはあくまでマスコミがでっちあげたものだ。熱愛中なのは脇役のベテラン俳優とだ。」

「ひゃー、歳の差いくつだい!」

「あの女はシスコンだ。」

あそこまで黙秘を続けていた木村があれ程までに饒舌になるとは、谷坂達はただ丸山の職人芸に黙って見ているしかなかった。

しばらく丸山と木村は話続けた。まるで久しぶりに会った親友のように話合った。

丸山の技術は素晴らしいの一言につきる。相手にしゃべらせる為に膨大な知識を蓄えている。

落としの丸山は今でも健在だ。

そして、一息ついて丸山はふわりと優しい笑顔を向けた。

「で、なんでこんなことしちまったんだい?」

木村は一瞬黙って下を向いた。しかし、もう丸山の前で黙ることは出来ないだろう。

ぼそぼそと小さな声でしゃべり始めた。

「舞をセンターに立たせたかった。彼女は俺が見てきた中で10年に一度の逸材だと思っている。

能力だけでは無い。ハートも一流だ。誰よりもファンを大事にし、誰よりも努力していた。両親にもようやく認めてもらい、芸能活動を始める事が出来た。将来はアメリカに渡ってプロのダンサーになる夢だって持っている。

それなのに舞はバタフリーでは干されている。何も努力せず大手プロダクションにもコネで入った他のメンバーは日が当たるのに、舞だけは・・・・!」

木村は唇をかみ締めた。血がにじみ出て吐血をしているようにも見えた。

「けどよ、殺すことはなかったんじゃないか?」

丸山は諭す様に言った。

「・・・かもしれないな。

俺が依頼した殺し屋はMクラブという殺し屋集団だ。その中のシャークと呼ばれる殺し屋が今回全ての殺しを行った。尾崎あみについてだが、殺しの依頼は済んでいる。奴は恐らく尾崎を確実に狙ってくるだろう、奴の狙いは」


ガタン!


木村は突然思い切り頭を机に打ち付けた。まるで電源がオフになった人形様に・・・・・・・・・・・、その頭には刃渡り15センチほどのナイフが刺さっていた。

机の上が木村の血で赤い湖の様に広がっていく。

谷坂は銃を構え窓の外を見た。一瞬、細身のシルエットが月に照らされたが、闇に消えた。

「あいつがシャークか?」


警視庁より緊急配備がしかれたがシャークの行方は解らなかった。

隣のビルの窓からナイフを投げ込み木村に命中させる。

相当に訓練された者でないと無理だ。

今回の事件はなかなか厄介だな。

谷坂が警視庁の廊下を歩いていると後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。

振り向くとそこには種沢がいつもの仏頂面で立っていた。

「これ見てみろ。」

種沢がぶっきらぼうに透明の袋に入った物を渡す。

「種さん・・・、これは?」

中には血で汚れた金ボタンが入っていた。

「あの坊主が最後まで握っていた物だ。お前心当たりないか?」

曽我は何かを伝えようとしてたんだろう。金ボタンを凝視するとアルファベッドで何か刻印されている。

「サンキスト・・・ジュエル?」


谷坂は考えていた。曽我を殺した人間はこのボタンのついた服を着ていたのだろう。

考えながら道を歩いていると自宅の玄関前で舞香にあった。

「よう、遅かったんだな。」

「うん、店の売上計算してたらね。」

「そっかぁ、今日の飯は何?」

「今日はポトフよ。」

曽我の死と木村の死をまじかで見た事で谷坂の心はひどく疲れていた。

そんな時に舞香の存在は心の支えになっている。

中に入り靴を脱ぐ、舞香は細身の黒いパンツを履いており、裾のところにボタンが並びで着いていた。

谷坂も靴を脱いでソファーに腰をかける。今日はひどく疲れた。今にも寝たい気分だ。

部屋着に着替えた舞香が暖かい飲み物を持って来てくれた。

「お疲れ様。」

無駄な事は言わず、そっと側に居てくれる。心から舞香の存在を愛おしく思う。

二人でソファーに腰をかけて口づけをする。二回、三回。

次第にその口付けは深くなり、舌どうしでお互いを求めあうようになっていた。

舞香を抱き寄せ、大きくは無いがかたちのいい胸を優しく揉んだ。

口からせつない吐息が漏れ、舞香の顔が少し困ったように歪む。その顔に谷坂は反応し舞香をそのまま押し倒した。

舞香の部屋着をずらそうとした時、手で制された。

「電気消して。」

電気を消し、お互いシルエットだけになって二人は激しく求めあった。


しばらくして谷坂は目を覚ました。どうやら掛け布団をかけずに寝てしまったらしい。

隣で舞香も寝息を立てている。

暗闇の中で電気のスイッチを探す。

それらしき感触を見つけスイッチを入れる。電気をつけて掛け布団を探そうと思った時、衝撃が谷坂の目に飛び込んで来た。

すやすやと眠る舞香の細い裸体、その体には無数の傷跡が刻まれていた。谷坂は慌てて電気を消す。

「君は、人に知られたく無い過去があるのか?」

以前、舞香にそんな質問を投げかけた。

この体の傷は彼女の過去なのか?


〈某所〉

「依頼人を殺害したそうだな。」

「我々の存在を話そうとしたから抹殺した。」

「しかし、依頼の報酬は全額振り込まれている。ターゲットは一人残っている。」

「その一人を抹殺して任務終了?」

「いいだろう。」


〈警視庁・会議室〉

「捜査打ち切りとはどういう事ですか!」

館内中に響き渡るような伊藤の怒鳴り声がする。

「仕方ないだろう!これは上からの命令だ。とにかく中止だ。」

納得が行かないと思いながらも伊藤は中止の理由が解っていた。

Mクラブの存在が表に出たからだ。

Mクラブを逮捕することは警視庁の目標である。

しかし、Mクラブの顧客には政財界の大物が多い。

おそらくどこからか圧力が掛かったんだろう。

「くそが!!!」

伊藤は怒りを壁にぶつけた。

俺達は正義の為に動いているんじゃないのか?何故、邪魔をされなければならないのか?

憤りを抱えながら歩いていると、携帯の着信が鳴った。

「もしもし」

「谷坂です。」

「おお、どうした。」

「今回の事件の犯人、つまりシャークの正体が解りました。恐らく奴が次に現れるのも大体想定が付きます。バタフリーのスケジュールを教えていただけますか?」

「何!しかしなぁ、残念な知らせがあるんだ。上から捜査の打ち切りを命じられてな。まいったよ。」

「・・・・・随分、丸くなりましたね。」

次の瞬間、谷坂は電話の向こうで何かが切れる音を聞いた。

「おい!今なんて言った!」

先程の人の良い声とは変わって、低くドスの効いた声が聞こえてくる。

予想通り、いや期待通りだ。

「丸くなったって言ったんですよ。そろそろ引退を・・・。」

「貴様~!!!!!!!!!!!誰が丸くなったって!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そこには仏の秀さんはいない。鬼の伊藤の完全復活だ。

「恐らくシャークは明後日のお台場で行われるファン感謝イベントを狙うでしょう。まあ、丸くなった伊藤さんには機動隊を用意なんて無理でしょうが。」

谷坂はわざと嘲笑う。

「明後日お台場だな!警視庁一の機動隊を完全配備してやる!今すぐお前の持っている情報を送れ!いいな!!!!」プチッ、ツー、ツー、ツー。

目の前では間違いなく言えないな。

谷坂は苦笑いをした。


そしてもう一人の人物に電話を掛けた。

「もしもーし、大堀でーす。」

少し鼻に掛かった女性の声が聞こえる。「谷坂だけど久しぶり。」

「やだー、久しぶりじゃないですかぁ!元気ですか~!」

狛江交番勤務の大堀婦警は谷坂に舞香を紹介した人物だ。

警察の制服を着ていなければどこにでもいる女の子だ。

「舞香の事だけど・・・」


〈自宅〉

舞香は野菜を切りながらため息を着いた。ここ最近、仕事の連続で精神的にまいっていた。

明日で一段落つく予定だ。

今の仕事は正直限界だ。

しかし、今の仕事を辞めて行くところなどあるのだろうか?私の居場所は何処にもない。

そんな事を思いふけっているとドアの開く音がした。

谷坂が帰って来た。

「あ、おかえりなさい。」

「おう。」

今日の谷坂は何処かよそよそしい。さては女性と密会をしてきたか、女の子のいるお店にいったのだろう。

やれやれ、そんな事を咎めるほど子供じゃないのに。それでもそんな秘密を隠そうとする男の人が可愛く見えてしまう。

いつまでもこの人と一緒にいれないかな?そう思う事は何度もある。

けど、彼は仕事あっての人、私といても心はいつも事件の事ばかりを追っている。きっと結婚してもこんな感じなんだろうな。私の事は愛してくれている、けど、私の事は必要としてくれているかは正直不安だな。

はぁ、と小さなため息をついて野菜を切りつづけた。

苛立ちなのか、落胆なのかいつもより切った野菜が不揃いだった。

クリームシチューを作ってダイニングに運ぶ、部屋着に着替えた谷坂ものそのそと席につく。

なぜか谷坂はシチューをじっと見詰めていた。

熱でもあるのかなぁ、舞香は心配したが手を合わせていただきますと言った。

「食べる前にちょっといいか?」

突然の谷坂の問い掛けに舞香はびっくりした。

「なに?どうしたの?」

生真面目な谷坂の事だ。隠していた浮気でも謝るのか?

舞香は頭の中でフル回転で想定したが、しっくりくる答えが見つからなかった。そんな事をよそに谷坂は部屋着のポケットをごそごそ探り始めた。

机の上にハートの形をした赤い箱を置いた。

ぽかんとする舞香に谷坂は照れ臭そうに頭をかき開けろと目配せをした。

その箱を空けると細くシンプルなデザインの指輪が入っていた。

「・・・綺麗。これって?」答えは何となく解っていた。

けど、舞香は谷坂の口から聞きたかった。

一瞬、谷坂は俯いたが舞香の目を射抜くように見つめた。

舞香が姿勢を正す。


「結婚しよう。俺はこんなんだからいつどうなるか解らないが、君がいいなら側にいてほしい。」

舞香は今まで堪えていたものが決壊したのが解った。自分はこんなに幸せであっていいのか?

うんと返事を返したつもりだったが、嗚咽で聞こえたか解らない。

谷坂が照れ臭そうにわらった。

「クリームシチュー冷めるぞ。」


〈お台場・メインステージ〉

バタフリーは二人になっても人気は健在だった。500人入るステージを一気に満員にする力はやっぱりすごいとしか言いようがない。

それだけにバタフリーは命を狙われている今でもステージに立たざる終えないのだ。

ステージ周りには伊藤が選抜した選りすぐりの機動隊が50名、狙撃部隊が20名配備されている。本当にシャークは現れるのだろうか?

伊藤は疑問に思っていた。

まあ、ステージが始まる前にあれだけ関係者を調べ上げた。入り込む事はまず無理だろう。伊藤はそう思いながらも各機動隊員の報告を聞いていた。

きゃあ!と観客席の後ろの方から悲鳴が聞こえた。伊藤の陣取る西側本部からは良く見えない。

「・・・ザーッ、こちら北西側、こちら北西側!緊急自体発生!凶器を持った集団と現在交戦中!至急応援を頼む!相手の特徴は!ぐきゃゃあ!!」

機動隊員の断末魔と共に無線は切れた。

伊藤は無線機をひっつかみ大音量で叫んだ。

「全隊員に告ぐ!!!!北西側に犯人と思われる集団が機動隊員と交戦中、各持ち場一名を残し、北西側の応援に出向いてくれ!繰り返す!」

なぜだ?シャークは集団なのか?奴は何故機動隊と戦うのか?そこまでの戦闘狂なのか?

・・・・・・・待てよ!奴はMクラブの一員。今、北西側で交戦中の集団がシャークが所属するMクラブのメンバーだったら!

伊藤は机の上にある無線機を乱暴に引っつかんで指令を出した。

「各持ち場!現状報告せよ!現状報告せよ!」

直ぐさま各持ち場から異常無しとの返答が帰ってくる中、ステージ裏側の控室近く南東側の応答が無い。

「南東側応答せよ!南東側応答せよ!」

一向に返事が無い。くそっ!伊藤は乱暴に無線機を床にたたき付け、近くの警官に詰め寄った。

「何か!状況を確認出来る物は無いのか!」

詰め寄られた警官は慌てて監視カメラのモニターボタンを探す。

「ありました!今、画面に写ります!」

伊藤は食い入るように画面を見つめた。南東側の映像には機動隊員が頭から血を流して絶命している姿が映し出された。その少し先にマネキンの足の様な物が写っていた。

それは衣服を脱がされた女性スタッフの死体だった。

「まずい!全員に告げる!犯人侵入!犯人侵入!」

伊藤が声を荒げるが北西側の犠牲者は増える一方であった。


南東側の警備が手薄になった事で楽に侵入することが出来た。

殺害した女性スタッフも本日派遣されたばかりの人材をチョイスした。おそらくいなくなったところでしばらくは気が付かないだろう。

何食わぬ顔で楽屋付近に張り込む。曲が終わってバタフリーのメンバーが楽屋に戻ってくるはずだ。今までサンキストジュエルのショップ店員として彼女達に衣装を届けてきた。

彼女達も私には警戒心を解いているはずだ。

彼女達が油断しているところを後ろから回り込み額に針を差し込む。

鮫は背後から周り込み獲物を襲う。私がシャークと呼ばれる由縁だ。

いつもなら依頼主の木村がメンバーを楽屋に一人にする状況を作り出し、それを狙う。

しかし、木村はもういない。

多少荒っぽいが楽屋に入ったところを捕まえて強引に抹殺する。

すると、向こうから尾崎あみが一人で歩いて来た。

ステージではアンコールが鳴りやまない。尾崎は一人楽屋に入って行った。

直ぐさま後を付けて中に入る。隅の席に腰をかけて座っていた。私は足音を潜めて尾崎の背後に周り込んだ。

そして、彼女を捕らえる為、手を伸ばした!

「うおぉおぉお!」

突然の怒鳴り声と共に脇腹に強烈な痛みが走った。

物陰に隠れていた大男がタックルをして私の体を押し倒したのだ。私は抵抗するが男は私を離そうとしない。私は腰に常備しているナイフで男の腕を刺した。

男は流石にうめき声を上げて私を離した。直ぐ様、体制を立て直して男の鳩尾に拳を食らわせ、顎に回し蹴りを喰らわせた。

近くで尾崎あみがキャーキャー悲鳴を上げている。

うるさい女だ。もうすぐ殺してやるからおとなしくしてろ。大柄の男が膝をついてうずくまる。私はとどめを刺すべくナイフを逆手に持ち替えた。


「動くな。」

後ろから低い男の声と、後頭部にひんやりとした何かが突き付けられた。

それが銃口だという事は振り向かなくても解った。「シャークだな?現行犯で逮捕する。」

警察というのはこの非常時でも段階を踏まなければならないのか、私は少し呆れた。

直ぐさま腕を後ろに反らせ銃口を掴むその勢いで警官の体を引き寄せ肘鉄を食らわす。

銃を突き付けていた警官のうめき声が聞こえた。

警官はまだ銃を離さない。

私はうずくまる警官から離れ尾崎あみの手を取り楽屋を出た。

花嫁を教会から連れ出すワンシーンに似ていたが、現状は全く違う事に私は苦笑した。


〈お台場・関係者通路〉

谷坂は先程受けた肘鉄の痛みをこらえながら犯人を追った。

尾崎が楽屋に戻る瞬間をシャークは逃さない。

谷坂が楽屋ロッカー内に、猪狩が楽屋荷物内に張り込んだ。

シャークらしき人物が凶器を取り出したところで猪狩が飛び出し取り押さえにかかったが相手の能力の方が上だった。

直ぐさま猪狩が、そして背後を取った谷坂までもが倒されてしまった。

ナイフで怪我を負った猪狩を残し、谷坂はシャークと尾崎の背中を負った。

すれ違う人達を突き飛ばしシャークは逃げていく。

あの走力、そして戦闘能力は鍛え抜かれたプロの殺し屋だ。

どんどん谷坂は距離を離されていく。

鳩尾に喰らった肘鉄のダメージが今頃になって効いてきた。

意識が遠退く、胃の奥から酸っぱい物が出そうになる。

駄目だ。このままじゃ止まってしまう。



「谷坂さん、千載一遇のチャンスすよ!」


頭の奥から曽我の声が聞こえた。

ここで取り逃がしたらシャークは二度と現れないだろう。

そしたら俺は曽我の墓前でどんな顔をして会えばいい?

そう思うと谷坂の体の底から力が沸いて来た。

逃げるシャーク、ついに谷坂はシャークをステージの上まで追い詰めた。

突然の殺し屋とアイドルと警察の登場で500人の観客はどよめいた。

シャークは尾崎を連れてステージを横切ろうとする。

「止まるんだ!舞香!」

谷坂の叫び声にシャークは舞台の真ん中で足を止めた。


〈お台場・ステージ上〉

私は聞き慣れた声に足を止めた。

まさか、そんなはずはと思いながら私は振り返った。

そこには私の愛するあの人が息を切らせながら私を見詰めていた。

一瞬、時が止まったように思えたが私は直ぐさま冷静になった。

今の私はシャーク、殺し屋。

私は尾崎を羽交い締めにしナイフを首に添わせた。

尾崎は涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら喚き散らしていた。

「いつから気付いていたの?」

「俺が悪夢にうなされて起きた時があったろ?あの時、君は深夜寝ているのに腕時計をしていた。寝ている人間が腕時計をしない。その人は井上文香が殺害された日だった。」

「それだけで解ったの?大した警察ね。」私は小さく笑った。

「いや、決定的だったのはこれだ。」

すると彼はポケットから透明なプラスチックの袋を出した。中には小さな金ボタンが入っていた。

これはサンキストジュエル限定品のズボンについている物だ。ボタンにシリアルナンバーがついていて君が履いていたズボンと一致した。君を紹介してくれた大堀さんにも聞いたよ。彼女はサンキストジュエルのショップ店員でバタフリーの衣装も担当して、実際に現場に届ける仕事もしてるって。」

あのおしゃべり女、大堀のケバい顔を思い出した。

「何故だ!何故君が殺し屋なんて・・・なんで、罪もない曽我まで殺したんだ!」

「・・・・罪もない私の妹を殺したのは誰よ?」

彼は一瞬首を傾げたが、目を見開いて口を開けた。

「君は・・・あの時の?」


〈お台場・ステージ上・雨〉

ポツ、ポツと鉛色の空が泣き出した。

やがてそれは大号泣となって地面に降り注いだ。

二人の間に冷たい雨が降り注ぐ。

「そんな・・・、君は、あの時の綾香さんのお姉さん。」

舞香の顔が怒りに満ちていた。谷坂が今まで見た事も無い。恐ろしく、悲しい形相だった。

「そうよ!私は三谷綾香の姉、三谷舞香よ!あの日、妹は貴方に命を奪われた、未来を奪われた!この時計はあの子がくれるはずだったプレゼントよ!綾香は私のたった一人の妹だった。掛け替えの無い大切な宝物だった!それを貴方は無惨にも奪った。私の大切な妹を!彼女の可能性を未来を奪った!」

ハァ、ハァ、ハァ・・・・、感情を爆発させて舞香は狂った様に叫んだ。

谷坂は耳を覆いその場でふさぎ込みたかった。

持っている拳銃で頭を撃ち抜き死にたかった。

しかし、目の前の人質を犠牲には出来ない。谷坂は拳銃を舞香に向け息を整えた。

舞香も先程の形相から打って変わって、氷のように冷たい表情で不気味な笑みを浮かべた。

「舞香を殺された私は弁護士になって貴方の罪を罰する事を決めた。しかし、勉強を進めると貴方の罪を罰する事が出来ない。社会のルールでは貴方を罰する事は出来ないの。

私は絶望した、貴方を罰する事が出来ない悔しさに自暴自棄になっていた。

そんな時にある男に声をかけられたの、ルールの中で成立しないなら、俺がルールの世界で成立させればいい。

それがMクラブの代表の男だった。

私は特殊な訓練を受けて殺し屋になった。あれから何100人と人を殺してきた。

気が付くと私は血に染まり、泥沼から抜け出せなくなっていた。

そして、あの大堀とかいう婦警に近寄り、貴方の近くにつく事が出来た。

貴方を殺して全ては終わる。綾香への復讐は幕を閉じるの!」舞香の表情は雨に濡れ、泣いているのか、怒っているのか解らなかった。

谷坂は言葉は出なかった。舞香の一言一句が谷坂の心を深くえぐった。

「武器を捨てるんだ・・・人質を離せ!」

ようやく出た言葉がその一言だった。


カチャ!応援の狙撃部隊が到着し、四方から舞香をライフルで狙った。

チッ、舞香が舌打ちをする。

「止めろ、人質を解放するんだ!」

「この状況で解放したところで私は捕まって死刑よ。それどころかMクラブの人間に消されるわ。」

「そんな事は無い!頼むから武器を捨てるんだ!」

谷坂は泣いていた、舞香を助けたい!その一心で叫んだ。

指輪を買うとき誓ったんだ。俺は舞香を幸せにすると・・・。

フッと舞香が笑った。

「いつまでたっても甘いのよ、貴方は。私はたとえ死んだとしても任務は遂行する。」

舞香は尾崎の首を目掛けてナイフを振り上げた!


パン!!・・・・・


谷坂の銃が火を吹いた。




その弾道は舞香のナイフを弾き飛ばした。


「・・・・どうして?」

谷坂は舞香の持つナイフだけを見事に打ち抜いた。

「もう二度と人を殺さない。そして君を離さない。」


しばらく二人は見つめあった。

谷坂が両手を広げた。

「これからはお互い罪を償いながら生きていこう。愛してる。」

土砂降りの雨の中、舞香の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。

それでも彼女は最高の笑顔を見せ谷坂の元に駆け出した。


パン!!


谷坂の腕の中に納まる3歩手前で・・・・舞香の顔の半分が弾け飛んだ。


「あ・り・が・と・う。」


最後に舞香の唇がそう動き、谷坂の腕に飛び込む直前で崩れ落ちた。


「あそこだ!追え!」

伊藤が北西側を指差す。その距離から狙える腕前となるとおそらくプロの殺し屋だ。


「舞香!舞香!舞香!!!!!!!!!!」

谷坂は舞香を抱きしめ呼びかける。

舞香は目を瞑ったまま何も応えない。

舞香の左薬指には昨日谷坂が与えた婚約指輪がはまっていた・・・・・・。




あれから何があったのだろう、何時間、何日過ぎたのだろう。

谷坂は暗い部屋の中で舞香との思い出を思い出していた。

舞香のいない部屋は広く、そして冷たく感じた。

ひょっこり得意の料理を持ってキッチンから出できてくれるのでは無いか?そんな期待をするだけむなしくなる。


ふと舞香が使っていたアクセサリーボックスに目をやると小さな便箋が入っている事に気がついた。

谷坂はおもむろに開いてみた。


「あなたへ

今日は素敵な指輪をありがとう。

今から私の秘密を手紙にするね。

実は、私はショップの店員以外にもある職業についているの、その職業が何かは深く聞かないでほしい。

けど、貴方を愛し、これから人生をともに歩んで行く為にその職業を辞めます。

その職業に就く理由となったのが妹の死が原因でした。

感のいいあなたなら気づくかもしれないけど、貴方が殺してしまった三谷綾香の姉は私です。

最初は貴方を殺してやりたいほど憎かった。

けど、いつの間にか貴方を愛してしまった。

だから、この手紙を最後に新しい人生を歩む事にしました。

確かに貴方は私の妹の命を奪った。

そのことはこの先も許さないし、忘れない!

けど、復讐をしたところで妹は帰ってこない。

天国の妹もそれは望んでいないと思う。

だから、このスパイラルをここで断ち切ろうと思うの。

貴方といつか妹の墓参りにいってそこで謝ってほしい。

そして、二人で幸せな人生を送る事が、妹への供養なのかもしれない。

長くなってごめんね。

これから夫婦になって二人で人生を歩んでいくなんてなんか不思議。

けど、笑ったり、けんかしたり、泣いたりしてひとつづつ進んでいけたらいいなぁと思います。

不束な嫁ですが、これからもよろしくお願いします。


追伸・幸せになろうね。


谷坂舞香」


谷坂は声の限り叫び、泣いた。周りの家具をなぎ倒し、壁に頭を打ちつけ泣いた。

舞香は殺し屋を辞め、新しい人生を歩むはずだった。

俺は舞香を守ってやれなかった。

俺はこの先・・・・・どう生きていけばいいんだ?


真っ暗なへやで谷坂は壁にもたれそのまましゃがんだ。

もう声も、涙も出しつくした。


その目線の先にリボルバー式の拳銃が不気味な光を放ち床に転がっていた。


谷坂は拳銃を握り締めた・・・・・。



最後に谷坂は銃を握って何をしたのか?そのあとは皆様で想像してください。

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