血は嘘をつかない
三代続いた名門・倉持病院の血脈は途絶えた。
遠縁の養子案も、家系の“汚れ”を理由に孝夫が拒絶し、倉持家は後継を諦めたはずだった。
だが、奇跡は起きる――
悪事は、己の目にはうつらない。
三代にわたる由緒正しい倉持病院の血脈は、すでに途絶えたかに思われた。
遠縁の子供を養子に迎える案も、たちまち潰えた。その家系は犯罪の臭いが染みつき、倉持の系図に相応しくないと孝夫は断じた。
以後、子を求めることはなかった。
だが、奇跡は起きた。血は繋がらなくとも、DNAの極めて近い乳児を見つけたのだ。
倉持孝夫は血よりも遺伝子を信じた。ただし、拒まれればそれまで――そう考え、裏社会に通じる男、浦部零士に子供の誘拐を依頼した。
こうして倉持家に迎えられた子は、誠一と名付けられた。
孝夫の血を引いたかのように、容姿は驚くほど孝夫に酷似していた。しかし、その能力と品性は、孝夫の期待を遥かに下回った。
特に、品格の欠如は手に負えなかった。
十歳の頃には孝夫の財布から金を抜き、中学に上がる頃には金庫を荒らすようになった。
金の力で無理やり医師に仕立て上げたが、看護師に手を出し、度重なる不祥事と医療訴訟を引き起こした。
このまま自分が死ねば、倉持病院は崩壊すると畏れた孝夫は、再び浦部零士に連絡を取った。
ことの顛末を告げると、浦部は薄暗い笑みを浮かべて言った。
「まぁ、血はうそをつきませんからね」
孝夫が問い返すと、浦部はゆっくりと首を傾げた。
「本当の他人とDNAがあそこまで酷似することなど、あり得ませんよ。
医師ならおわかりでしょう。…誠一さんは、あなたが忌み嫌ったあの遠縁の親戚が、手放した子供です。
あなたは、都合の良い夢でも見ていたんでしょうな。普通なら、そう考えるはずですが――」
浦部は低く笑った。
「私は最初から知った上で、あなたが依頼したと思っていましたがね」
孝夫は激昂し、浦部に罵詈雑言を浴びせた。
「まぁ、いいですよ。冥途の土産に、好きなだけ吐き出してください」
「なんだと…!」
孝夫が目を血走らせたその瞬間、浦部は静かに、しかしはっきりと告げた。
「倉持さん。私はあなたの依頼でここに来たんじゃないんですよ」
部屋の空気が、凍りついた。
「誠一さんに頼まれていたんです。『親父が俺を殺す気なら、親父を殺してくれ』と」
浦部零士の唇が、ゆっくりと弧を描いた。薄明かりの中で、その目は底知れぬ闇を湛えていた。
孝夫は初めて気づいた。――この屋敷の奥深くで、自分が育て上げた「息子」が、いつから自分を「獲物」として見つめていたのであろうか。
血は、確かに、うそをつかない。善意の仮面ははずれ、
そして、倉持の血筋に相応しい闇は、その根をさらに深く伸ばすのであった。
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