↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

血は嘘をつかない

作者: をはち
掲載日:2026/06/29

三代続いた名門・倉持病院の血脈は途絶えた。

遠縁の養子案も、家系の“汚れ”を理由に孝夫が拒絶し、倉持家は後継を諦めたはずだった。


だが、奇跡は起きる――


悪事は、己の目にはうつらない。




三代にわたる由緒正しい倉持病院の血脈は、すでに途絶えたかに思われた。


遠縁の子供を養子に迎える案も、たちまち潰えた。その家系は犯罪の臭いが染みつき、倉持の系図に相応しくないと孝夫は断じた。


以後、子を求めることはなかった。


だが、奇跡は起きた。血は繋がらなくとも、DNAの極めて近い乳児を見つけたのだ。


倉持孝夫は血よりも遺伝子を信じた。ただし、拒まれればそれまで――そう考え、裏社会に通じる男、浦部零士に子供の誘拐を依頼した。


こうして倉持家に迎えられた子は、誠一と名付けられた。


孝夫の血を引いたかのように、容姿は驚くほど孝夫に酷似していた。しかし、その能力と品性は、孝夫の期待を遥かに下回った。


特に、品格の欠如は手に負えなかった。


十歳の頃には孝夫の財布から金を抜き、中学に上がる頃には金庫を荒らすようになった。


金の力で無理やり医師に仕立て上げたが、看護師に手を出し、度重なる不祥事と医療訴訟を引き起こした。


このまま自分が死ねば、倉持病院は崩壊すると畏れた孝夫は、再び浦部零士に連絡を取った。


ことの顛末を告げると、浦部は薄暗い笑みを浮かべて言った。


「まぁ、血はうそをつきませんからね」


孝夫が問い返すと、浦部はゆっくりと首を傾げた。


「本当の他人とDNAがあそこまで酷似することなど、あり得ませんよ。


医師ならおわかりでしょう。…誠一さんは、あなたが忌み嫌ったあの遠縁の親戚が、手放した子供です。


あなたは、都合の良い夢でも見ていたんでしょうな。普通なら、そう考えるはずですが――」


浦部は低く笑った。


「私は最初から知った上で、あなたが依頼したと思っていましたがね」


孝夫は激昂し、浦部に罵詈雑言を浴びせた。


「まぁ、いいですよ。冥途の土産に、好きなだけ吐き出してください」


「なんだと…!」


孝夫が目を血走らせたその瞬間、浦部は静かに、しかしはっきりと告げた。


「倉持さん。私はあなたの依頼でここに来たんじゃないんですよ」


部屋の空気が、凍りついた。


「誠一さんに頼まれていたんです。『親父が俺を殺す気なら、親父を殺してくれ』と」


浦部零士の唇が、ゆっくりと弧を描いた。薄明かりの中で、その目は底知れぬ闇を湛えていた。


孝夫は初めて気づいた。――この屋敷の奥深くで、自分が育て上げた「息子」が、いつから自分を「獲物」として見つめていたのであろうか。


血は、確かに、うそをつかない。善意の仮面ははずれ、


そして、倉持の血筋に相応しい闇は、その根をさらに深く伸ばすのであった。



読んで頂き有難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。