天才の手札 番外編 地図がないので口で説明します
トワです。
今回は番外編です。
殿下の交渉を理解するには、この大陸の地理を知っておいた方がいいと思いまして。地図があれば一発なんですが、ないので口で説明します。
頭の中でざっくり描いてみてください。難しくないです。
まず、縦に三段に分けて考えてください。
一番上の段に、ヴァルテ連合。
複数の都市が集まって連合を組んでいる北方の勢力です。ガルディアと並ぶくらいの実力があって、両者はずっと張り合っている関係です。
真ん中の段に、ガルディア帝国。
この大陸で一番大きな国です。軍事力も経済力も飛び抜けている。「帝国」という名前の通り、周辺国をじわじわと飲み込んできた歴史があります。
一番下の段に、南方諸国。
いくつかの中小国が集まっているエリアです。ガルディアの顧客、という立場に近い。
これだけです。三段。
次に、真ん中のガルディアの南側に、小さな国をはさみます。
それがドレツァ王国です。
小さいです。軍事力も経済力も、ガルディアとは比べ物にならない。正面からぶつかれば三日と持たないと国王陛下ご自身がおっしゃっています。「ガルディアと南方諸国の間にある、ちょっと小さな国」。これがドレツァの基本的な立ち位置です。
もう少し横に広げます。
ガルディアの右隣に、コルハットという国があります。ドレツァよりは大きいですが、ガルディアには遠く及ばない中規模の国です。
ガルディアの右奥、コルハットのさらに東には、山岳地帯が広がっています。けわしい山で、道の整備が遅れています。
これで横に並べると——左からヴァルテ連合、ガルディア、コルハット、山岳地帯。その下にドレツァ、その下に南方諸国。だいたいこんな配置です。
さて。
ガルディアが南方諸国に穀物と染料を売るとき、どのルートで運ぶか、という話になります。
主なルートは三本あります。
一本目。北回りルート。
ガルディアから東に向かって、コルハットを経由して、南方へ抜けるルートです。
ただし、今はガルディアとコルハットの関係が悪化しています。このルートは実質的に使えなくなっています。
二本目。東回りルート。
コルハットの右、山岳地帯を越えて南に抜けるルートです。
こちらは道の整備が遅れていて、大量の荷物を運ぶには向いていません。今すぐ使えるルートではない。
三本目。南回りルート。
ガルディアから真南に下りて、ドレツァを通り抜けて、南方諸国に届けるルートです。
途中にダーガ峠という山越えがありますが、道は整備されていて使えます。
つまり。
今まともに使えるルートは南回りだけです。
そして、その南回りルートの真ん中に、ドレツァが座っています。
ガルディアにとって、ドレツァとの関係が壊れると南方への物流が詰まります。
ヴァルテ連合にとっても、ドレツァがガルディアに取り込まれると、南方への影響力をガルディアに独占される。
南方諸国にとっても、ドレツァが不安定になると、物が届かなくなる。
三者ともドレツァが安定していることに利益があります。
殿下が「三者利益構造」と言ったのは、こういう地理的な現実が土台になっています。
地図を読み続けた十年間があったから、あの提案が出てきた。
外交の言葉の裏に、地理がある。そういう話でした。
それではまた。
トワでした。




