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引きこもり天才姫は俺にしか懐かない〜存在しない者が、一人の姫の一生を見届ける〜  作者: アルコール吸引マシン5号
序章 扉が開くまで

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序章 扉が開くまで  登場人物・あらすじ

登場人物



久遠蓮くおんれん/異世界名:クオン・レン


二十八歳。心理学専攻。冷静沈着で、感情を表に出すことがほとんどない。


林の中に捨てられていたところを養護施設に保護され、施設育ちのまま成長した。持ち前の頭脳と行動力で自費で大学を卒業し、国会議員の私設秘書として就職。しかし勤めた議員の裏の顔を知り、やがて罪をなすりつけられる形で職と居場所を失う。


施設に持ち込まれていたメモ紙には「Ren QWN」とだけ書かれていた。エジプト語で「名前:クオン」を意味する。施設がそれを解釈して「久遠蓮」と命名した。この名前の由来は、後に大きな意味を持つことになる。


異世界ドレツァ王国に来たことで、三つのチート能力が開花する。


ひとつめは確率可視化。人を見るとその感情・意図・行動確率が数字として頭の中に浮かぶ。「貴族の打算:100%」「イリナの恐怖値:91%」といった形で、相手の本音が一目でわかる。


ふたつめは超越身体再生。いかなる傷も完全に再生する能力。四肢がバラバラになっても元通りになる。死ねない体だ。


みっつめは存在しない存在。異世界を行き来したことによる副作用で、どこにも属さない物体として世界の法則の外側に存在している。寿命がなく、老いることもない。


また、多言語解釈の能力も持つ。どんな言語でも即座に理解できる。古代語で書かれた文献も問題なく読める。


感情を直接口に出すことは少ないが、行動で示す。「なぜか足が動いていた」「引き返したいと思っている」という形で、内心がにじむ。イリナに対しては、当初は仕事として接していたが、いつの間にか「仕事だけではない」何かが生まれていた。



イリナ・ソーニャ・ドレツァ


十八歳。ドレツァ王国第一王女。


幼いころに神託が下り、すべての魔法を使える能力と、読んだものをすべて吸収する頭脳を授かった。その神託は周辺国を巻き込む大騒ぎになり、大国が欲しがり、国内の貴族は怖がった。幼いイリナには周囲の目が一夜にして変わったことが耐えられず、部屋に閉じこもった。以来、十年近くを部屋の中で過ごした。


部屋から出なかった間も、ひたすら本を読み続けた。魔法理論、戦術、政治、外交、交易、歴史。知識だけなら大陸屈指と言っても過言ではない。しかし実践は一切できない。人前に出ると声が震え、足が止まる。「使えない姫」と呼ばれているが、本当は「誰も使うことができなかった姫」だ。


レンと出会う前のイリナは、自分の外では誰も信頼できなかった。来ては去っていく人間たちの中で、ただ部屋に残るだけの日々を送っていた。


レンが毎日扉の前に来るようになってから、少しずつ変わっていく。毒舌を言ってもレンが動じないこと。「変な人」と言い続けながらも、来てほしくて扉を開けること。本の話をするうちに、自分の知識が「ただの紙」ではなくなっていく感覚。


知っている人間にだけ見せる顔がある。毒舌で、命令口調で、でも最後に必ず甘える一言が出る。「……でも、いてくれる?」「……離れるのはダメ」。呼び方はいつも呼び捨てで「レン」。



トワ


見た目は二十代前半。小柄で童顔。馴れ馴れしく、説明上手で、軽い敬語で話す。できる営業マンのような雰囲気を持ちながら、その奥に数千年分の何かを仕舞っている。


実態は、数千年の長命を持つ異世界のエージェント。異世界移転と長命がチート能力として神託で認定されている。


背景には深い事情がある。娘が近隣大国に嫁いだが、その国が攻められ亡国になった。追手に捕まる前に娘を異世界に逃がそうとしたが、娘には子供がいた。二人同時の移送は負荷が大きすぎて困難で、バラバラになってしまった。娘は別の異世界へ。子供は地球に飛ばされた。


異世界と地球では時間軸が根本的に異なる。移送は狙った時間に飛べるわけでもない。行ける時間と場所を一つずつ当たりながら、膨大な時間をかけて探し続けた。何百年もかけて探したその孫が、久遠蓮だった。


スカウトのとき「いやー探しましたよ、久遠さん」と軽く言ったその言葉の裏に、何百年分の安堵があった。


レンの祖母であることは、神託の暴走後に確信して本人に明かした。ただし、明かしたタイミングにはイリナを動かすための計算も混じっていた。善意と計算が常に同居するのがトワという人物だ。


感情が溢れる瞬間だけ、レンを「久遠さん」ではなく「レン」と呼ぶ。



ヴァルク・ドレツァ国王


五十代半ば。白髪混じりで、目の下に常に疲弊の色がある。大国ガルディアからの属国化圧力と、国内の貴族派閥争いに挟まれ、長年消耗し続けている。


イリナのことは父として本当に心配しているが、どう接すればいいかわからないまま年月が過ぎた。レンに「三ヶ月でやれるだけのことをやってほしい」と頼む場面では、もう諦めに近い疲弊と、それでもという微かな希望が同居していた。



ロイス・バルタン


城の財務を統括する貴族。丁寧な言葉遣いの裏に政治的打算が透けて見える。レンの確率可視化には「打算:100%」と出る。


レンがイリナに近づくことを警戒し、廊下で待ち伏せして圧力をかけようとした。しかしイリナの助言によって財務上の弱点を突かれ、以降は直接の妨害をやめた。



ヴォルフ・クライン


ガルディア王国からの使節。五十代、背が高く肩幅がある。百戦錬磨の外交官で、外交スマイルは常に91%以上維持している。第二王子の婚姻申し込みという形を装いながら、実態はイリナをガルディアに取り込み、ドレツァを属国化する足がかりにしようとしている。レンの確率可視化には「政治的計算:62%、スケベな妄想:34%」と出た。



あらすじ



クオン・レンは、国会議員の私設秘書として働く二十八歳だった。勤めた議員の不正を知りながら黙っていたが、先手を打たれて罪をなすりつけられ、職も居場所も失う。財布には六千円。行くあてもなく夜の路地裏をさまよっていたところに、トワと名乗る女が声をかけてきた。


「死ぬか、来るかだ」


トワは彼岸院ひがんいんというエージェント組織に属しており、異世界への転職を提案してきた。元の世界に戻れないという条件を飲んで、レンは異世界ドレツァ王国へと渡る。


ドレツァは東欧風の弱小国だ。軍事も経済も脆弱で、大国ガルディアから属国化の圧力を受けている。国内では貴族の派閥争いが続き、機能不全に陥っていた。唯一の切り札は第一王女イリナだが、誰も彼女を動かすことができなかった。


王城に到着したレンは神託を受ける。そこで自動書記が暴走した。石の床が文字で埋め尽くされ、神官たちが錯乱する前例のない事態の中、レンだけが冷静に立っていた。書かれていたのは四つの能力、確率可視化、超越身体再生、多言語解釈、そして存在しない存在。この四つが、レンのチート能力だった。


暴走の後、トワがレンに打ち明けた。自分はレンの祖母である、と。娘を追手から逃がすため異世界に送った際、娘の子供だったレンが地球に飛ばされた。時間軸の異なる世界をまたいで何百年もかけて探し続けた末に、ようやく見つけた。路地裏での「探しましたよ、久遠さん」という言葉の裏に、何百年分の安堵があった。


同じ頃、イリナは城の書庫から取り寄せた古い文献を読んでいた。神託暴走の記録。そこには、過去に同様の「存在しない存在」がいた記録が残されていた。その存在は自分の在り方に耐えられず自害を試みたが、超越身体再生により死ねなかった。最終的に現世に戻って普通の人間として天寿を全うしたと書かれていた。現世に戻れば、レンは普通の死ねる人間に戻れる。それをイリナは一人で抱え込んだ。


レンはイリナに会いに行った。最初は廊下で一瞬目が合い、イリナはすぐに逃げた。それでもレンは毎日扉の前に座り続けた。声をかけ、ただそこにいた。


少しずつ、扉が開いていった。


最初の「馬鹿なの?」という毒舌。毎日続く本の話。政治分析、交易路の読み方、魔法理論の解説。イリナの知識は本物で、レンはそれを丁寧に受け取った。貴族からの妨害もイリナの助言で切り抜けた。外出の練習を始め、震えながら中庭まで歩いた。人の視線でパニックになっても、レンに手を引かれて帰ってきた。


「ありがとう」と初めて言ったとき、信頼値は24%だった。


信頼が育ち始めたとき、イリナはレンの誘導に気づいた。すべてが計算だったのかもしれない、という疑念。信頼値が急落した。でも、離れられなかった。「操作でもいい。いてくれるなら」。それがイリナの出した答えだった。


ガルディアの使者が来た。第二王子の婚姻という名目でイリナの引き渡しを求めていた。国王も貴族も困惑する中、イリナは自分から謁見を申し込んだ。使者と対峙する、と言った。城内が騒然となった。レンだけが止めなかった。


成功率が99%になった日、イリナは自分のために動く理由を見つけていた。十年間読み続けた知識が「ただの紙」になるのが嫌だった。それだけが、自分の内側から出てきた理由だった。


会談の扉の前まで来て、全身が震えながら、イリナは言った。


「……それでも、やる」


扉が開いた。


序章は、ここで終わる。



補足:確率可視化について


レンのチート能力、確率可視化は場面によって二種類の使い方をする。


コメディ場面では笑いに使う。「貴族の打算:100%」「クラインのスケベな妄想:34%」「トワの営業スマイル:97%、本音:3%」といった形で、相手の本音を暴いて笑いにする。


大事な場面では数字が指標になる。イリナの信頼値や成功率が数字として出て、レンは99%になるまで絶対に動かさない。イリナが「もうやれる」と言っても「まだ早い」と止める。数字が少しずつ上がっていく過程が物語の骨格になっている。


序章を通じて、成功率は以下のように推移した。


計測不能→12%→19%→31%→43%→51%→54%→57%→71%→79%→84%→89%→93%→94%→97%→98%→99%


この数字が99%に届いた瞬間が、序章のクライマックスだった。

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