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引きこもり天才姫は俺にしか懐かない〜存在しない者が、一人の姫の一生を見届ける〜  作者: アルコール吸引マシン5号
序章 扉が開くまで

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第十六話 王の呼び出し

第十六話を書き直しました。

内容に変更がありますので、お読みいただいていた方にはご不便をおかけして申し訳ありません。

お時間のある方は読み直していただけると嬉しいです。


「クオン・レン殿に、陛下がお会いになりたいとのことです」


トワが廊下で言った。いつもの軽い口調ではなく、少し改まった声だった。


「国王が」


「はい。謁見のえつけんのまではなく、執務室しつむしつで、とのことです。正式な謁見ではなく、個人的に話したいということかと」


「貴族は同席するか」


「今回はいないと思います。陛下が直接、私に伝えてきましたので」


頭の中に数字が浮かぶ。


トワの緊張値:52%


珍しい。この人が緊張を表に出すのはめったにない。


「……何の話だ」


「行けばわかります。ただ」


トワが少し間を置いた。


「陛下は本気で困っています。先にお伝えしておきます」



執務室は、謁見の間より小さく、温かみがあった。


壁一面に書棚が並んでいる。書類が積まれた机。窓から午後の光が差し込んでいる。謁見の間の豪奢な空気とは全然違う、働く人間の部屋だ。


国王のヴァルク・ドレツァは、机の前に座っていた。

謁見のときより、疲れた顔をしている。貴族たちがいないせいか、取り繕った様子がない。ただの疲れた中年の男、という印象だった。


頭の中に数字が流れる。


国王の疲弊度:87%

俺への期待値:63%


前に会ったときより疲弊度が上がっている。期待値も上がっている。


「座ってくれ」と国王が言った。「堅苦しい話をするつもりはない。ただ、正直に話したい」


「はい」


俺は椅子に座った。トワは扉の近くで控えている。


「ガルディアから、正式な書状が届いた」


国王が机の上の書類を一枚手に取る。


「三ヶ月以内に、属国化条約への署名を求めてきた。拒否すれば、軍を動かすと書いてある」


「三ヶ月」


「短い。意図的に短くしてある。こちらに準備をさせないためだ」


俺はその言葉を頭の中で整理した。

三ヶ月。イリナの信頼値は今14%だ。成功率に換算すれば、おそらく四十パーセント台。動かせる段階ではない。


「ガルディアの目的は何ですか」


「表向きは安全保障だと言っている。ドレツァが不安定だと周辺国に影響が出る、という理屈だ。だが本音は」


国王が少し間を置いた。


「イリナだ」


頭の中に数字が動く。


国王の本音:娘を守りたい 78% 国を守りたい 22%


78%。


貴族たちの打算100%とは、全然違う数字だ。


「殿下を欲しがっている」


「ガルディアには優秀な魔法師が少ない。イリナの能力は、軍事的な価値が非常に高い。もし手に入れれば、大陸の勢力図が変わる。それをわかっていて、圧力をかけてきている」


「ドレツァには跳ね返す力がない」


「ない」と国王は静かに言った。「軍事も経済も、正面から戦えば三日と持たない。わかっていて言っている」


窓の外で、鳥が一羽飛んでいく。

部屋の中は静かだった。


「なぜ俺に話すのですか。貴族たちには」


「貴族たちには話せない。連中の半分は、条約に署名するほうが自分たちの利権が守られると思っている。もう半分は、イリナを差し出してガルディアに恩を売ろうとしている」


国王の疲弊度が、数字の上でさらに上がった気がした。


「あなただけが、イリナに近づけている。それは事実だ」


「はい」


「あなたに頼む、というのは筋違いかもしれない。ここに来てまだひと月も経っていない。それでも」


国王が俺を見た。


「イリナを、動かせるか」


俺はしばらく答えなかった。


動かせるか。


今のイリナの信頼値は14%。成功率は、まだ測ったことがない。感覚として四十パーセント台だと思っている。動かせる段階ではない。


でも、三ヶ月という期限がある。


「すぐには無理です」


「わかっている」


「ただ、方向は間違っていない。時間があれば」


「三ヶ月で足りるか」


俺は少し考えた。


「わかりません。でも、やれるだけのことはやります」


国王がゆっくりと息を吐いた。


「……ありがとう」


その言葉に、打算の気配はなかった。

頭の中の数字も、78%の父親の顔のまま変わらない。


「一つ、聞いていいですか」


「なんだ」


「殿下が引きこもりになったのは、神託が出た後からですか」


国王の顔が、少し動いた。


「……そうだ。神託が出る前のイリナは、普通の子供だった。やんちゃで、よく笑って、城内を走り回っていた」


「変わったのは、いつ頃から」


「七歳のときに神託が出た。最初の半年は、まだよかった。でも周囲の目が変わるにつれて、だんだん部屋から出なくなった。十歳になる頃には、もうほとんど出てこなくなっていた」


八年。

十歳から十八歳まで、八年間。


「私も、何度も扉を叩いた」と国王が続ける。「でも、開けてくれなかった。そのうち、叩くことすらできなくなった」


「なぜですか」


「叩くたびに、イリナの声が聞こえた。怖い、と。その声を聞くたびに、父親として何もできていないと思い知らされた。だから、叩けなくなった」


頭の中に数字が浮かぶ。


国王の後悔値:91%


俺は少し間を置いてから言った。


「殿下は、怖いんだと思います。人が怖いのではなく、自分が期待されることが怖い。神託が出たあの日から、ずっと」


国王が黙った。


「でも、本の中で十八年分の知識を積み上げてきた。誰にも頼まれていないのに、この国のことを考え続けてきた。それは、この国を、あなたを、嫌いじゃないからだと思います」


長い沈黙が続いた。


窓から差し込む光が、少しずつ傾いていく。


「……そうか」


国王が、静かに言った。その声に、さっきまでとは違う何かが混じっていた。


「三ヶ月、やれるだけのことをやります」


「頼む」


俺は立ち上がった。


執務室を出ると、廊下にトワが待っていた。


「どうでしたか」とトワが聞く。


「三ヶ月だ」


「……短いですね」


「ああ」


廊下を歩きながら、頭の中で数字を整理した。


イリナの信頼値:14%。

成功率は、まだ測っていない。


でも、三ヶ月という期限が決まった今、測る必要がある。

今夜から、毎日確認しよう。


北棟の廊下の先に、灯りが見えた。

今日も、扉の下から光が漏れている。


あの部屋で、イリナは今日も本を読んでいる。

八年間、ずっとそうしてきたように。


……動かす。


必ず。

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