表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引きこもり天才姫は俺にしか懐かない〜存在しない者が、一人の姫の一生を見届ける〜  作者: アルコール吸引マシン5号
序章 扉が開くまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

第十四話 信頼値と依存値

頭の中に数字が浮かんだ。


イリナの信頼値:9%

依存値:34%


……依存値。


今まで出なかった項目だ。



文献を返してから三日が経っていた。


イリナはまた本の話をするようになっていた。でも、何かが前と違う。


以前は本を差し出してくることが多かった。今は、差し出してこない。代わりに、扉の隙間から声だけが聞こえてくる。


「レン、昨日読んだ本に面白い話があって」


「なんだ」


「百年前のドレツァに、国王が二人いた時期があったって。正統派と傍系で、十年間ずっと両方が王を名乗り続けた」


「決着はついたのか」


「外国の仲裁で。でもその外国が後にドレツァを属国にしようとしてくる。百年越しの伏線」


「……悪意がある話だな」


「歴史ってそういうもの」


くす、という小さな笑いが聞こえた。


前と同じ声だ。でも、前より少し早く笑う。少し素直に反応する。


頭の中の数字が動く。


依存値:34%→37%



「態度が変わりましたね」


その日の夕方、トワが言った。


「イリナ殿下の」


「気づいていたか」


久遠くおんさんが気づいているなら私も気づきます」とトワが笑う。「いい変化だと思いますよ。信頼が積み上がってきている証拠です」


「依存値という項目が出始めた」


トワの顔が少し動いた。「……それは、慎重に扱ったほうがいいですね」


「わかってる」


依存と信頼は違う。

信頼は対等に近い。依存は、支えがなければ立てないということだ。今のイリナに必要なのは依存ではなく、自分の足で立つための信頼のはずだ。


「急ぎすぎないことです」とトワが続ける。「殿下は今、文献を読んで何かを一人で抱えている。その重さをまず下ろしてもらわないと」


「どうやって」


「それは……久遠さんが考えることだと思います」


トワが軽く笑って、廊下の向こうへ歩いていった。


残された廊下で、俺はしばらく壁を見ていた。



翌朝、扉の前に座ると、いつもより長い沈黙があった。


ページをめくる音もしない。気配はある。ただ、静かだ。


「おはよう」


「……おはよう」


「今日は本を読んでいないのか」


「……読んでる」


「音がしないが」


少しの間があった。


「……考えてた」


「何を」


また沈黙。今度は少し長い。


頭の中に数字が浮かぶ。


イリナの抱え込み度:81%


三日前より少し下がっている。でもまだ重い。


「……レン」


「なんだ」


「レンは、ここにいるのが嫌になったりしない?」


俺は少し考えた。


「今のところはない」


「……今のところ、って」


「将来のことはわからない。でも今は嫌じゃない」


「……そう」


短い沈黙。


「なんで聞いた」とは聞かなかった。

聞けば抱え込み度が上がる気がした。


「レン」


「なんだ」


「わたし、レンに嘘をついてる」


俺は扉を見た。


「何の嘘だ」


「……言えない。でも、嘘をついてる」


「いつからだ」


「……あの本を読んでから」


頭の中の数字が動く。


イリナの抱え込み度:81%→76%


少し下がった。言葉にすることで、少し楽になったのかもしれない。


俺はしばらく黙った。


急かすべきではない。

でも、このまま一人で抱えさせ続けるのも違う。


「一つだけ聞く」


「……なに」


「その嘘は、お前が俺を傷つけるためのものか」


扉の向こうで、息を吸う音がした。


「……違う」


「なら急いで話さなくていい。話せるときに話せばいい」


長い沈黙が続いた。


それから、扉の向こうから小さな音がした。


ぐしゃ、という、かすかな音。


俺は動かなかった。

扉を開けようとも、声をかけようとも思わなかった。


ただ、そこにいた。


しばらくして、音が止まった。


「……レン」


「なんだ」


「……いてくれてありがとう」


声が、少し掠れていた。


頭の中に数字が浮かぶ。


イリナの信頼値:9%→14%


俺はその数字を見た。

それから、扉の灯りを見た。


「ああ」


それだけ返した。


ページをめくる音が、また始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ