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引きこもり天才姫は俺にしか懐かない〜存在しない者が、一人の姫の一生を見届ける〜  作者: アルコール吸引マシン5号
序章 扉が開くまで

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幕間 おばあちゃん

「一回でいいので、呼んでみてください」


トワが言った。


夕食後の廊下だ。人の気配はない。松明の光が石の壁に揺れている。


「断る」


「なぜですか」


俺はトワを見た。

童顔で小柄で、どこからどう見ても二十代前半にしか見えない女が、真剣な顔をしている。


「見た目が二十代だからだ」


「それは関係ないでしょう」


「大いに関係がある」


久遠くおんさん」


トワが少し身を乗り出した。


「私が何百年かけて探したか、わかってますよね」


「わかってる」


「砂漠の砂金、という話もしましたよね」


「した」


「何百年ですよ。何百年。その集大成として、一回くらい呼んでもいいんじゃないですか」


頭の中に数字が浮かぶ。


トワの本気度:94%

営業スマイル:6%


……珍しい。ほぼ本気だ。


「……」


「久遠さん」


「……」


「久遠さん」


「わかった」


俺は小さく息を吸った。


廊下を見る。誰もいない。


「……おばあちゃん」


ぼそっと、ほぼ聞こえないくらいの声で言った。


トワが顔に手を当てた。


「……聞こえませんでした」


「聞こえただろう」


「聞こえませんでした。もう一度お願いします」


「……」


「久遠さん」


「……おばあちゃん」


今度は少しだけ大きく言った。


廊下の奥から、足音が聞こえた。


曲がり角から侍女が一人、盆を持って歩いてくる。俺たちの前を通りかかった瞬間、盆の上のカップがかたりと音を立てた。


侍女の目が、一瞬だけ俺とトワを見た。


頭の中に数字が浮かぶ。


侍女の困惑値:100%

「墓まで持っていく」意志:100%


侍女は何も言わなかった。

視線を前に戻して、足早に廊下を歩き去っていく。角を曲がって、消えた。


静寂が戻った。


「……」


「……」


「聞こえたか」とトワが聞く。今度は少し違うトーンで。


「聞こえた」


「……よかった」


トワがそれだけ言って、視線を石畳に落とした。

いつもの営業スマイルが、今は影を潜めている。


頭の中の数字が、また霞んで消えた。


「……一回だけだ」


「はい」とトワが言った。「ありがとうございます、久遠さん」


「レンでいい」


トワが顔を上げた。


「……はい」


それ以上は何も言わなかった。

廊下に、松明の音だけが小さく響いていた。

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