表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CODE: FANTASISTA(コード:ファンタジスタ)  作者: ZONO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

第3話「再現者(ファンタジスタ)」

 昼休みの屋上は、少しだけ風が強かった。


「……だから無理だって」


 フェンスにもたれながら、ユウが言う。


「お前のその“ロマン理論”で大会勝てるわけねぇだろ」


「勝てるわ」


 即答だった。


「根拠は?」


「カッコいいから」


「はい論破」


 ユウはパンの袋を丸めて、軽く投げる。


 それを片手で受け取りながら、零は空を見上げた。


 青い空。


 雲がゆっくり流れている。


「……なあ」


「ん?」


「お前さ、最初に“すげぇ”って思ったの何だった?」


「は?」


 唐突すぎる質問に、ユウが眉をひそめる。


「いや、なんでもいいんだけどさ。子供の頃とか」


「……急に何だよ」


「いいから」


 少し考えて。


「……まあ、飛行機とかじゃね」


「あー、わかる」


「あとゲームとか」


「それもわかる」


 頷きながら、零は言う。


「俺さ」


「ん?」


「漫画だったんだよ」


 ——小さい頃。


 薄暗い部屋の中。


 古びた段ボールを漁っていた。


「これ何?」


 埃をかぶった本を取り出す。


「昔の漫画よ」


 母親が言う。


「読んでいい?」


「いいけど、難しいんじゃない?」


 ページを開く。


 そこにあったのは。


 拳を突き出し、エネルギーを放つ男。


 印を結び、分身する少年。


 空を飛び、叫び、戦う人間たち。


「……すげぇ」


 息を呑んだ。


 ページをめくる手が止まらない。


 現実にはありえない光景。


 でも。


「……できる」


 ぽつりと呟いた。


「え?」


「これ、できると思う」


 母親は苦笑する。


「絵だからね、それ」


「でも、できる」


 その時、零の中で何かが“決まった”。


 ——現在。


「いや普通できねぇよ」


 ユウが即ツッコミ。


「できるって」


「できてねぇだろ昨日」


「昨日は調子悪かっただけ」


「言い訳が雑」


 零は立ち上がる。


「いいかユウ」


「はいはい」


「大事なのはな」


 手を前に出す。


「“それっぽさ”だ」


「雑すぎるだろ説明が」


「いやこれマジで重要なんだって」


 零は真剣な顔になる。


「人間ってさ、完全な現実より“それっぽい嘘”の方が信じるんだよ」


「……どういうことだよ」


「例えば分身」


 零は指を鳴らす。


「普通はどうする?」


「単純だろ。視覚欺瞞で一体を複数に見せる」


「そう、それが“正解”」


 零はニヤッと笑う。


「でも俺は違う」


「嫌な予感しかしねぇ」


「“そう見える過程”を全部再現する」


「……は?」


「目の残像、認識の遅延、動きのブレ——全部な」


 ユウが一瞬黙る。


「……それ、クソ面倒じゃね?」


「めちゃくちゃ面倒」


「だろうな」


「でも」


 零は拳を握る。


「その方が“来る”」


「またそれかよ」


 ユウは頭を抱える。


「だからその“来る”って何なんだよ」


「うーん……」


 少し考えて。


「……テンション?」


「雑すぎる」


 その時。


「危ないっ!」


 女子の声。


 二人が振り向く。


 屋上の端。


 強風で飛ばされたノートが、フェンスを越えそうになっている。


「やべ」


「おい零!」


「任せろ!」


 零が走る。


(風速、角度、落下軌道——)


 瞬時に計算する。


 だが。


「——違う」


 足を止める。


「は?」


 ユウが困惑する。


 零は目を細める。


(ただ取るだけじゃダメだ)


 イメージする。


 漫画のワンシーン。


 風に舞う紙。


 それを掴むヒーロー。


「……これだ」


 手を伸ばす。


「軌道補正、視覚演出追加——」


 空間が、わずかに歪む。


 ノートの軌道が変わる。


 風に乗り、ゆっくりと舞い上がる。


「え……?」


 女子が息を呑む。


 零は跳ぶ。


 空中でノートを掴み、そのまま着地。


 ふわり、と髪が揺れる。


 完璧な“それっぽさ”。


「……どうぞ」


 ノートを差し出す。


「……あ、ありがとう……!」


 女子の頬が少し赤い。


 それを見て。


「……見たか」


 零がドヤ顔。


「いや今のはちょっと良かったな」


 ユウが素直に言う。


「だろ?」


「でもやっぱ無駄多い」


「そこなんだよなぁ……」


 少し離れた場所。


 その様子を見ている人物がいた。


 白瀬アリス。


「……」


 無言で、零を見つめる。


 今の動き。


 明らかに過剰演算。


 もっと簡単に解決できた。


 それなのに。


「……綺麗」


 ぽつり、と呟く。


 その言葉に、自分でわずかに驚く。


 効率ではない評価。


 最適解ではない価値。


「……無駄」


 言い直す。


 だが。


 視線は逸れなかった。


「よし」


 零が拳を握る。


「これでモテる流れ来てる」


「単純だなほんと」


「大会もこの調子でいく」


「いや不安しかねぇ」


 ユウがため息をつく。


「でもさ」


 零は空を見上げる。


「絶対、あの感じで戦えたらさ」


「ん?」


「カッコいいだろ」


 その目は、まっすぐだった。


 迷いがない。


「……まあ」


 ユウは肩をすくめる。


「お前はそれでいいんじゃね」


「だろ?」


「ただし負ける」


「そこなんだよ!!」


 その頃。


 アリスはひとり、廊下を歩いていた。


 頭の中に浮かぶのは、先ほどの光景。


 非効率。


 冗長。


 無駄。


 それでも。


「……なぜ」


 足を止める。


「目を引く」


 答えは出ない。


 だが。


 確実に何かが、揺らぎ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ