ep2-それは、旅立ちの①-
「ん…」
カイルは差し込んだ朝日で静かに目を覚ます。
そこは白い簡易なテントの中だった。
テントに他の人影はなく、小鳥のさえずりが風とともに通り抜ける。
「お、お目覚めっすね。」
テントの暖簾を捲って、赤みがかった金髪をポニーテールに括った女性が顔を覗かせる。
深海を思わせる濃い青の瞳をした、どこか強気な目元の女性は、白いタンクトップ姿でニシシと笑ってみせた。
「とりあえず出ておいで。朝ご飯、用意したからさ!」
朝イチから元気全開な女性は、テントの出入り口を全開にしたまま立ち去った。
状況がのみ込めずポカンとするカイルだが、自らの腹の虫に背を押され外に足を踏み出す。
昨晩の曇天が嘘のように青空が広がっており、優しい風が近くの木々で、優雅な音楽を奏でている。
外では、先程の女性がスープをよそっていた。
その傍らで、緑金色のウェーブがかった肩上までの髪の女性が、共に朝食の用意をしている。
その2人を他所に、カメラにピースをして自撮りをする、青と赤の2色のメッシュが入った肩下まである金の髪を、左右2つ括りにした女性が目に入った。
最初の人と違い、他の二人は紺色の軍服を身に着けており、この人達が軍人であると一目で理解できる。
昨日の出来事は夢だったのかと思いたくなるような不思議な光景。
「おはよ、昨日はご苦労だったっすね。」
朝イチに来てくれた女性が、こちらに気付き声をかける。
それに気づいた一方の女性は、カイルに軽く会釈して食事の準備を続ける。
「やぴぴ〜、無事起きてくれて安心したよ〜。」
もう1人の女性は小走りで駆け寄ると、カイルの横でピースサインをして2人で自撮りをする。
「ペゼリー、遊んで無いで手伝うっすよ!」
「ペゼリアは朝ご飯抜き…」
「あ〜!シンディちゃん、フレンちゃん、ごめん〜!」
それぞれ少しだけ特徴の違う金髪の3人は、何だかんだ言いつつも、楽しそうに朝食の準備を進めている。
残されたカイルは、ふと一人離れた場所に立つ少女の存在に気づく。
未だ黒煙の燻る街を、昨日の少女は無表情で見つめていた。
少女の隣に立ち、遠く眼下に見えるベクレルの街は、昨日までの平和な日常が一瞬にして崩壊したのだと、カイルが理解するのは容易かった。
が、それで納得できるかは別問題だった。
カイルの目には涙が浮かび、その拳は強く握られている。
「おはようございます。」
「え、あ、おはよう…ございます。」
少女は一瞬だけこちらを見て挨拶をした。
目の前の光景にのみ注意がいっていたカイルは、予期せぬ挨拶に一瞬身体が跳ねた。
カイルが挨拶を返した時には、少女はすでに街に視線を戻していた。
背後からの風に透き通るような黄金の髪をたなびかせた少女に、カイルの視線は改めて吸い込まれるようだった。
「昨日は助けてくれてありがとう…ございます。えっと…」
「エウレリア。」
「え?」
少女はカイルの方を向くこともなくそう名乗ったが、カイルは独特な少女の会話に少し戸惑う。
表情の変化がほとんどなく、感情を読み取るのが難しい。
思ったように言葉が続かず、会話が噛み合っていない気がした。
「エウレリア、私の名前。」
「あ、俺はカイルです。よろしくエウレリアさん。」
何故か慣れない敬語が自然と出る。
そう思うカイルだったが、その実何とも片言で不自然な話し方になっている事に自分では気付かなかった。
「…エウレリアでいいし、敬語はいらない。」
気を利かせてもらったのか、会話がし難かったのか、エウレリアは顔を一切動かさずカイルを流し見し、再び街に視線を戻した。
その後エウレリアが自ら口を開く事は無く、カイルも何を話せばいいのかわからなくなってしまい、二人の間には気まずい沈黙が流れた。
「お二人さ〜ん、ごっはんだよ〜!」
そんな沈黙を軽快で無邪気な声が切り裂く。
ペゼリアと呼ばれた少女が机の側で大きく手を振っている。
「えっと…行きましょうか。」
自然と出てしまった敬語に、あっと手で口を覆うカイル。
しかしエウレリアはその場を動かず。
「私は結構です。」
そう言うと、どこからか携行食料を取り出して、視線を移すこともなく口に入れる。
カイルは、あははと苦笑いするしかなく、その場を離れて3人の方へと小走りで駆け寄っていく。
そんなカイルを、エウレリアは少しだけ振り返り、表情を変えることもなく見つめているのだった。




