ep1-選ばれし者①-
小さい頃の記憶は、ひどく曖昧なものだった。
液体のに満たされた機械に入れられていた事。
そして、自分の身体が自分以外の『何か』に変わる恐怖。
燃え盛る古巣から、何人かの子供達と共に連れ出された事。
その後は生きる為に色々やった。
泥棒も、スリも。
ヘマをして捕まった仲間もいる。
衣食住を共にする小人達は、命を落とす者もいた。
だがその中でも、自分は特別に怪我の治りが早かった。
それは体質なのだと思っていた。
だから無茶を繰り返した。
そして取り返しのつかないヘマをした。
仲間と共に、大きな屋敷に忍び込んだ時の事だった。運悪く警邏に発見された自分達は、足早に散開して逃げ出した。
しかしその内の一人がナイフを盗み出し、警邏を刺殺してしまった。
そこからの対応は一瞬だった。
銃を持ち出した警邏に、仲間達は次々と撃ち抜かれた。
薄れ行く意識の中見たその惨状は、目に焼き付いて離れる事は無いのだろう。
…長い時間が経ったのだろうか…。
頬を伝い落ちる雨粒で目が覚める。
少し身動いだだけで身体中に痛みが走る。
見ると、致命傷は避けられたらしく、弾痕も徐々に薄れていく。
その時程、自分の体質に感謝した事は無かったが、同時にそれは呪いでもあった。
雨脚が強くなる中、自分の周りには、今まで生活を共にしてきた仲間の姿。
雨で広がる血の海の中で、誰一人として指先一つ動かす事は無かった。
絶望がその身を包み込む中で、暗闇から一つの光と共に、その腕がこちらに伸びていた。
そして、数年の時が経過した…。
「カイル、待ちなさい!」
ここは、3人分の背丈程の石造りの外壁に囲まれた街。
ベクレル。
決して裕福とは言えないであろう街並みは、全体の約半分を農牧地が占めており、残りの半分に居住区や商業区が入り混じる。
「ごめんなさいクレアママ!あとよろしくー!」
そんな街並みに自然と溶け込んだ小さな御屋敷。
噴水を中央に持つ広い庭の柵を飛び越え、栗色の髪をした小柄な少年が、通りの人波に消えていった。
「あ〜もう!今は少しでも人手が欲しいってのに、あの子は…」
薄紫の髪をギブソンタックで纏め、黒が大半を占めるメイド服に身を包む女性クレアは、美しく整った顔立ちに似合わず、眉間に皺を寄せて左手で乱暴に頭を掻いた。
「ママー。またカイル兄はどっか行ったの?」
「今日は庭の大掃除なのにねー!」
「いけないんだー。カイル兄ちゃんご飯抜きなんだー!」
約10人ほどの子供が屋敷から庭に姿を現す。
いずれもカイルより幼く、性別も様々で髪色などの見た目も多様に及んでいる。
ただ屋敷に住んでいるにしては、少し痩せている事が彼等には共通していた。
「え?あぁ…そうね。カイル兄ちゃんは後で叱るとして、庭の大掃除やっちゃおうか!」
先程の乱暴な表情を見せること無く、穏やかに砕けた笑顔で呼びかけるクレアに子供達は、はーいと元気よく返事を返した。
箒や雑巾等を手に笑顔で散らばる子供達に、おしとやかで無駄に型にはまった笑顔で手を振るクレア。
子供達がある程度離れたのを見届け、腰に手をやり右の手を脱力して垂らす。
「まったく…カイル、あんただけは……」
そう呟いたクレアの表情に怒りは無く、何かに怯えるように遠くを見ていた。




