ep0-プロローグ-愚者
本当にこれが正解だったのだろうか。
巨大な岩が立ち並び視界が悪い荒野を、汚れた白衣を纏った中年の男が操る、大型のオフロード車が闇夜に紛れて突き進む。
曇天の夜空は、背後に燃え盛る街並みに照らされ、紅蓮に染まっている。
男は荒振るハンドルを握り締めたまま、横に腰掛けている少女にチラッと目をやった。
揺れる車内で、外の光に照らされる少女は頭部に血痕があるが、その胸元は整った周期で静かに浮き沈みしている。
僅かに眉間にシワを寄せ、男は川沿いの小高い丘の頂上付近に車を止めた。
軋むドアを開け玉砂利に脚を取られながら外に出た車高以上の背丈の男は、車の遥か背後で煌々と辺りを赤く照らす王都の崩れ行く最後に、声にならない憤りを喉の奥で押し留めた。
私のやってきた事は正しかったのか。
この結末で世界は望まれる方向に向かうのか。
王都からは四方八方に逃げ惑う民や、明かりを灯し、荷を積み我先にと走り去る車列が溢れる。
そして、それを良しとせず、大型の機械人形が大量の砲火で無残にも死者を増やしていく。
男は現実を直視できず、拒絶するように瞼を強く閉じた。
自らの行いの結果が故郷を地図から消滅させる事に繋がってしまったのか。
自分1人の行動により、数多の命が消え行く事になってしまったのでは無いか。
自責の念が雪崩のように、重くのしかかる。
私が創り出してしまった子等は、陽の光を浴びること無く消え行くのが定めだったのだろうか。
彼等は戦争の為にその身を弄られたが、それは彼等を生かす材料と成り得るのだろうか。
いや…。
他の子等は仲間が助け出す事を信じるしかなかった。
男は静かに瞼を開き、足元の砂利を踏みしめながらその一歩を踏み出した。
遠くで微かに聞こえる悲鳴や爆発音を背に車に乗り込み、助手席で未だ眠る少女に改めて視線を送る。
今自分がやるべき事は、この少女を安全に誰の目にも止まらない場所へ連れゆく事にある。
これを自らの贖罪とする事は出来無いだろう。
むしろ更なる悪行へと繋がる可能性だってあるかもしれない。
それでも、今はこの小さな希望の萌芽を潰す訳にはいかなかった。
男は迷いを振り切るようにアクセルを踏み込んだ。
眼前に迫りくる山々の陰に、2人を乗せた小さなテールライトはその咆哮と共に、暗闇の彼方に吸い込まれていくのだった。
それから…8年の時が経過した…。




